深層心理の狂酔〜プロローグ〜
1ヶ月前、娘が殺された。
高校生にして道を踏み外し、とても出来の良い娘とは言えなかったが、それでも私にとっては可愛い娘だった。
小学校での虐めに気付けず、中学校で悪友とつるんでいたのも見て見ぬふりをし、そして挙句このザマだ。
こうなってしまったのは私の責任でもある。
犯人の目星は付いていた。
連日ニュースで報道される連続殺人事件。
誰もが犯人を知っていた、だが警察でさえ手出ししようとはしない。
殺される人間の傾向、犯行の手口、何もかもが同じで、逮捕は容易なように思える。
だが犯人は未だ野放しのままだ。
それは何故か?
簡単な話だ。
奴には権力がある。
よって誰も手出しできない。
誰も?それは俺もか?
いや…違う。
俺には奴を裁くことが出来る。
俺は意を決し、受話器を取った。
〜第1章「事件」〜
娘は連続殺人事件の最初の被害者だった。
それから1週間に1人ずつ殺され、先週の被害者も合わせると5人が亡くなった事になる。
俺は個人で被害者の身元を軽く調べた。
1人目は俺の娘。来月18歳の誕生日を迎える予定だった。
夜遊びが酷く、補導される度に俺が警察まで頭を下げに行った。
父親の俺は一般的な市役所職員で、自分で言うのもなんだが、コレといった特徴は無い。
2人目は隣町の女子高生。娘と同じく高校3年生だった。
素行が悪い事で有名だったらしく、同級生から金を巻き上げていた等の噂もある。
両親は共働きで父親は新聞配達員だ。
3人目は近所の男子高校生。夜間の高校に通っている2年生だった。
近所では有名な不良グループの一員で、過去には少年院に入っていたらしい。
母親が大手広告会社に勤めており、それなりの地位を確立しているらしい。
4人目は隣町の男子高校生。2年生ながら生徒会長を務めていた。
その実、裏で犯罪行為に加担していたが、表での素行が良い事もあり、誰も彼を疑わなかったと言う。
家が警察の駐在所で両親共に警察職員だ。
5人目は隣町の暴力団関係者。とは言うものの高校を出たばかりの19歳である。
組織犯罪対策部、所謂「マル暴」と呼ばれる刑事に組の内情を流していた「情報提供者」だった。
両親も暴力団関係者で、彼が情報を流していた事には気付いていたが、情報を流していた事が知られれば家族諸共命は無く、止むを得ず隠蔽に徹した。
この情報にはネット上の憶測や噂話なども含まれるが大方合っていると見ている。
この事から被害者5人は17〜19歳の若者で、何かしらの悪事を働いていた人物と言う共通点が分かる。
そして犯人は被害者が1人でいる所を複数人で連れ去り、ある”一室”で暴行の後殺害、その被害者に関わりのある場所に死体を遺棄すると言う手口を同様に5回働いた。
どの遺体にも同じような暴行痕があり、同一犯と言う事までは分かったが、それ以外の証拠が無く、犯行に使われたと思われるその”一室”も憶測で語られるばかりで、どれも決定的な証拠にはならなかった。
だが、ネット上ではある人物の名前が囁かれていた。
その名前は…
「佐伯一郎」