暑い。暑い。暑い。口を開けば鳴き声のようにそれしか言えない。あまりの猛暑に語彙まで溶けてしまったようだ。真夏の容赦ない外気からようやく事務所にたどり着いた雨彦はソファにぐったりと倒れ込む。たまたま人のいない時間帯だったのか、雨彦がソファを占領しても咎められることはなかった。
額に浮かんだ汗は拭ってもまたすぐに噴き出してきて、ソファに体温が移り温くなるのにうんざりする。事務所は冷房こそ効いているが、出入りするアイドルたちの体調を慮って低すぎない温度に設定されている。雨彦としてはもう少し涼しくしてほしいところだが、そんなことで駄々をこねるほど大人げなくはないつもりだ。
冷たい飲み物でも取りに冷蔵庫へ行きたい気持ちもあれど冷房直下のこの場所から離れがたく、動けないでいると「わー、雨彦さんが溶けてるー」とのんびりした声が現れた。
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