逃避行ヴォックスは、すぅすぅとした寒さで目が醒めた。シーツの海でぼんやりとしながら腕で周囲を探って、やっと寒さの理由がわかった。
昨晩腕に抱え込んで寝たはずの、ミスタがいない。
特にセックスも何もせず、眠たそうな顔のミスタを腕の中に閉じ込めて寝たのが、つい八時間ほど前のこと。
そして、現在朝の七時。ダブルベッドの上には、寂しいかな、置いていかれた男がぽつんと一人だけ。
「……ミスタ?」
少し声を張ってみたが、返事は無い。ドアを開けて、階段を降りて、リビングを抜けて、キッチンへ。
誰もいない。部屋にも、風呂にも、庭にも、誰もいない。ミスタの気配が家の中から消え失せている。ミスタの自室にも立ち入ったが、やっぱりそこにもいない。
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