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    🥗/swr

    らくがきとSSと進捗/R18含
    ゲーム8割/創作2割くらい
    ⚠️軽度の怪我・出血/子供化/ケモノ
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    2018/02/03 過去作投稿
    『Peafowl』収録
    ---
    8話で分断されていた仲間達の、メレフ側の話です。
    カグメレです。「少年の瞳」と同じ頃の話ですが、これだけ読んで頂いても問題ないかと思います。(2022/07/07)

    ##SS
    ##Xb2
    ##Xenoblade

    業の地にて「――ねえ皆、ちょっと歩きづめだし、そろそろ休憩しない?」
    瓦礫塗れのモルスの地。そこを進む一行の一人であるニアが声を上げた。
    モルスの断崖から落下し分断されたメレフ達は、苦心しつつもお互いを探し出し、その半数ほどが合流を果たしたところだった。残り半数の仲間も見つけ出すため歩みを進めていた一行だったが、皆ニアの提案に同意すると、それぞれ思い思いの場所で体を休め始めた。
    メレフもまた崩れた壁に身体を預け、ふうと一つため息をついた。休息を取ることで、疲労で回りきっていなかった思考にようやく余裕が生まれてきたメレフは、自分達の現状、そしてひとまずの目標について考えを巡らせた。
    自分達はモルスの断崖から落下し、この地に辿り着いた。遠くで吹き上がる気流が幸いしたのか、自分を含めて仲間は皆五体満足であり、命に関わる重傷も負っていない。
    ともかく、まだ姿を見ぬ仲間達との合流を果たしたい。――そして、無事であるはずの己のブレイドの姿を見て、この胸の焦燥を消し去りたい。
    メレフは腰に下げていた一対のサーベルを見やる。幸いにも武器は無事メレフの手元にあった。己のブレイドから借り受けたふた振りのサーベルは、エーテルエネルギーを湛え淡い光を放っていた。
    武器が消滅していないということは、まだカグツチがどこかで生存しているという何よりの証であった。メレフは目覚めた時もすぐに武器を確認した。だが今は、その時よりも武器から発するエーテルの光は弱くなっていた。それはすなわち、武器に残存するエーテルエネルギーが減少していることを指す。
    先程ニア達と合流した際に怪物――グルドゥに襲われ、激しく打ち合いをしたのだ。メレフはアーツを使用せずに敵の攻撃をいなし続けたが、アーツを使わなくともエーテルエネルギーは僅かずつ消耗される。内に宿っているエーテルが完全に尽きた時、恐らくこのサーベルは砕け散るだろう。そうなってしまうと、メレフはカグツチが無事であるかどうかを知る術を失ってしまう。それだけは避けなくてはと、メレフは剣の柄を握り締めた。
    胸の内が暗く淀む。メレフは所在なく視線を彷徨わせた後、遠くで吹き上がる気流へと目を止まらせた。余裕の出来た思考は、メレフに余計な後悔を運んできた。
    ――そもそもだ。メツやシンと戦ったあのゲトリクス神託跡地。あそこで自分がカグツチを守っていれば、きっとこのような状況になっていなかったはずだ。
    サーペント・デバイスがあの遺跡の岩盤を砕いた時、すぐにでも手を伸ばし、彼女の手を掴んでいれば。そうすればこのように離ればなれになどなっていなかった――
    湧き上がる悔恨の念に唇を噛む。自分が未熟なせいで、彼女を守りきれなかった。ブレイドに守られるだけではない、共にあるそのブレイドを守ることも、ドライバーの責務なのだ。
    だが、しかし。そんな問答に意味がないことなど分かっていた。戦闘で岩盤が砕かれ雲海下の死の大地に落とされるなど、誰が予想できようか。それに、運が悪ければ奈落の底へと落ちて命を失っていてもおかしくなかったのだ。命が助かっただけ、余程幸運だというのに。
    ――それでも。
    「……特別執権官ともあろう者が聞いて呆れる」
    「――おーいメレフ!そろそろ出発しようよ!」
    ニアの呼び声に、メレフの意識は現実へと引き戻された。振り向いたメレフの顔を、ニアは訝しげに眺めた。
    「……どしたの?もしかしてさっきの戦いで怪我した?」
    「いや」
    メレフは首を振って立ち上がる。暗い淀みを塗り潰すかのように、メレフは努めて冷静な声で返答した。
    「……少し考えごとをしていただけだ。この地は一体何なのだろう、といったことをな」
    ニアはそれにふーん、と返す。
    「……ま、いいけど。あんまり思いつめるのはよくないんじゃない」
    そう言い残すとニアは踵を返し、出発の準備を整えたジーク達の方へと歩いていった。
    「――……」
    虚を突かれ、メレフは小さく息を呑む。誤魔化したつもりだったが、ニアには隠しきれなかったようだ。僅かな表情の機微を勘付かれていたのだろうか。
    メレフは再びサーベルに目を落とした。己が最初に同調した、この世でたった一人のブレイド。彼女が託したふた振りの剣は、先程と同じ蒼い光を揺らめかせていた。

    短い休息を終え、メレフ達は再びモルスの地を進み始めた。何度かグルドゥ達と遭遇し戦闘になったが、ジークとニアが中心となって戦闘することで彼らは何とか切り抜けていった。
    そして一行は巨大な巨神獣の亡骸を見つける。朽ち果てた巨神獣の胎に転がる、「卵」。彼らはそれが何であるか察しながらも、誰もそれについて口にすることはしなかった。人の業の映し鏡となった大地の悲惨な光景はそこにいた全員の心中をかき乱したが、そこで立ち止まり思いを馳せる暇があるなら歩みを進めるべきだ、という暗黙の了解のもと、彼らはその朽ちた巨神獣の胎に残されたイーラの文明の残滓を渡り、さらに奥へと進んで行った。

    「…おい、あの先。崩れとるが、先へ進めるんと違うか?」
    ジークが巨神獣の胎の奥へと続く穴に気づく。穴を指して上げたその言葉に、ニアが返答した。
    「階段……みたいなのが残ってるね。そこを伝っていけば行けそう」
    そして彼らは階段を登り、そこに向かって歩き出し――
    その頭上からまたしてもグルドゥが飛びかかってきた。
    「――」
    メレフはすんでのところでそれを躱す。地を蹴り、即座に間合いを取る。どうやらグルドゥは巨神獣の壁の影に張り付いていたようだ。
    するとそこに遅れて、さらに新たなグルドゥが数匹這い上ってきた。
    「んなっ…、こんなところでっ!」
    囲まれた形になった一行は、即座に臨戦態勢へと移行する。
    「挟みうちかいな。……けどこいつらは追っ払うしかあらへん」
    足場が悪いが戦うしかないと悟ったジークは、大剣の柄を握り締めメレフに飛びかかってきたグルドゥへと斬りかかっていった。同時にニアも、ジークとは反対側から這い出たグルドゥ達へと攻撃を仕掛ける。それを受けてグルドゥ達も反撃を繰り出し、ニアの攻防をすり抜けたグルドゥの一撃がメレフへと飛んでゆく。メレフはそれを咄嗟に長剣で受けとめた。
    「ぐっ……」
    サーベルがギリリ、と嫌な音をあげて軋む。やはり今の彼女では攻撃を食い止めるだけで精一杯だ。このグルドゥ程度の腕など、普段ならあと少し力を込めるだけで薙ぎ払うことだってできるはずなのだ。それが、できない。
    「メレフッ……このっ、メレフから離れろ!」
    ニアは目前で相手取っていたグルドゥを弾き飛ばすと、全速力でメレフの元へと駆けてゆき、メレフの長剣に食い止められていたグルドゥの腕を切り飛ばした。そこへすかさずジークが飛びかかり、グルドゥの額を打ち砕く。身体から力が失われたグルドゥは、どさりと倒れ伏して動かなくなった。
    「……っ、すまない、二人とも。助かった」
    「かまへんかまへん」
    「いや、悪いのはこっちだよ。無事で良かった」
    はあ、はあ、と息を切らしながら礼を言うメレフに、二人は明るく返事を返す。メレフは武器の力が衰えているのを感じた。だが、どうしようもない。ブレイドなしで戦うことは、こんなにも酷く疲れることだったろうか。レックス達との旅を始めてから、メレフはずっとカグツチと共にいた。メレフが戦闘においての鍛錬を怠ることなど一切なかったが、旅によりメレフが単身で戦う機会が減ったことは確かであった。そして、何より。カグツチが傍にいないという事実こそが、彼女の精神を消耗させていた。
    「……く……っ」
    無力感が彼女の内に燻る。先程のグルドゥの攻撃を受け止めたことで、剣は悲鳴を上げた。カグツチと合流できない限り、最早このサーベルを握って戦うことは、できない。

    と、そこへ、目指していた巨神獣の胎の中枢から激しい戦闘の音が響き始めた。
    「な、誰か奥に……」
    「きっとレックス様達です!」
    「すぐ加勢せな!」
    彼らは互いに顔を見合わせると即座に中枢の広間へと駆け込んだ。そして、そこにいたおぞましい何かの姿に全員が息を呑んだ。
    「――ッ」
    それは、これまで倒してきたどの怪物より巨大な体躯を持ったグルドゥだった。そして、その前に立っていたのはレックス達。
    ジークが先陣を切って大きく大剣を振りかぶると、激しい稲妻が迸り、グルドゥの体躯を撃ち抜いた。グルドゥの動きに僅かな隙が生じる。
    「やっぱりアニキも!」
    「ボン、ホムラ、無事か?」
    ニアがレックス達と共にいたシンの姿に驚くも、すぐに全員戦闘態勢へと移行する。メレフも即座に高台から身を乗り出した。そしてレックス達の姿を確認し――
    その傍らにある蒼き炎のブレイドの姿を見た。
    「――メレフ様ッ」
    自分の姿を認めたカグツチが、弾けるようにメレフの元へと駆け出してくる。それを見たメレフの足も、考える前に動いていた。たん、と高台を蹴り、彼女の眼前へ降り立つ。
    「メレフ様……!本当に、ご無事でなによりです」
    「カグツチ、お前こそ。……よかった」
    二人は顔を見合わせて頷いた。安堵がメレフの胸の内を満たしてゆく。だが、今は喜びを分かち合う時ではない。メレフはすぐに眼前に立ち塞がる巨体を睨みつけると、腰に下げたサーベルを抜刀し臨戦態勢を取った。
    「だが話は後だ。レックスに加勢する、……いくぞ、カグツチ!」
    「承知しました、メレフ様」
    メレフの言葉にカグツチも身構える。エーテルの力が急速に武器へと注ぎ込まれてゆき、あと少しで砕け散らんほどに傷ついていたふた振りのサーベルに、再び強いエーテルの光が閃いた。


    「……やはりアーツを使わずに戦っておられたのですね」
    先程まで壊れかけていたサーベルに目を落とし、カグツチはぼそりと呟いた。
    「ああ。アーツを使ってしまっては武器を失ってしまう。そうするしかなかっただけのことだ」
    だがメレフはあくまで淡々と返答した。
    「……確かに危ないところだったが、こうして無事なのだ。それでいいさ」
    そう笑い飛ばすメレフの様子にカグツチは何か言いたげな表情を浮かべたが、結局それを言葉に出すのは諦めたように黙し、ただ心配そうに俯いた。そんなカグツチにメレフは言葉を続ける。
    「ところでカグツチ」
    「……!はい、どうなさいましたか、メレフ様」
    メレフはただ冷静な眼差しでカグツチを見据え、言葉を紡ぐ。
    「……レックス達を守ってくれたんだろう?よくやってくれた。彼らが、そしてお前が無事で……、本当に良かった」
    それを聞いたカグツチは僅かに喜びを湛えた顔を見せたが、突然はっとして強く拳を握り締めた。そして、
    「メレフ様……、私は……、レックスに謝らなければ」
    そう言うとカグツチは血相を変えて後方を歩いていたレックスの方へと駆けて行った。
    ――理由など分かっている。その姿を見送りながら、メレフは僅かに安堵した。
    レックス達が無事であったことを喜ぶのは、もちろんメレフの本心だった。そして、レックスの元へと向かったカグツチが何を悔いているのかも察することができた。
    だがそれ以上に、メレフは自分の気を逸らしたかった。言葉を口にするうちに淀んだ靄を零れさせてしまうのではないかと思うと、今のメレフには他愛ない会話すら苦痛であった。そのせいでメレフは普段なら行わないような半ば場繋ぎのような言葉をカグツチにかけてしまった。
    彼女が欠けていたことによる焦燥。戦闘において仲間の力になれなかったことで苛まれた無力感。――そして、嫉妬。
    正直なところ、メレフはレックスに嫉妬したのだ。本来なら自分しか扱うことのできないはずのカグツチの剣を手にして、ここまでカグツチと共に戦っていたのだから。
    だが彼はカグツチ達を守り、そしてカグツチも彼らを守ってここまできた。メレフは誰よりも仲間を大切に想うレックスと、その彼とともにあったカグツチに、そのような幼稚な感情を露わにしたくなかった。

    レックスと話していたカグツチが戻ってくる。彼女の顔からは思いつめていたような翳りの色が消えていた。
    「……どうだ?話はできたか?」
    「はい。……もう、大丈夫です」
    メレフの問いにカグツチはただ嬉しそうに頷いた。晴れやかな表情のカグツチはレックスを優しく見やり、何かを呟くと、今度はメレフへと向き直り、恭しく頭を垂れた。
    「……メレフ様。私が至らぬばかりに貴女をお一人にしてしまい、申し訳ありませんでした」
    「!」
    メレフの目が僅かに見開かれる。カグツチは頭を垂れたまま、言葉を続けた。
    「私が未熟なゆえに、貴女を守りきれませんでした。サーペントがあの遺跡の岩盤を砕いた時、すぐにでもメレフ様の元へ駆け寄るべきでした。手を伸ばし、貴女の手を掴んでいれば……そうすればあのように離ればなれになどなっていなかったでしょう。ドライバーに守られるだけがブレイドではありません。共にある貴女を守ることこそが、貴女のブレイドである私の責務であったのに。……どうか、この私をお叱りください」
    そこまで言うとカグツチは黙し、頭を下げたままメレフの言葉を待った。メレフはその様子にぽかん、と呆気に取られてしまった。
    「それは……」
    メレフの拳が握り締められる。カグツチが自分と全く同じことを考えていたことを知り、メレフは余計に後悔の念を募らせた。
    「……顔を上げてくれ、カグツチ。……それは私も同じだ。あの時、私が……」
    「……メレフ様」
    メレフの言葉を聞き、カグツチはようやく顔を上げた。悔恨がメレフの胸をジリジリと責め立てる。だが、悔恨よりももっと伝えなければならないことがあることを、メレフは思い出した。
    「……それに」
    レックスへの僅かな罪悪感はあった。だがレックスがそのようなことを気にする性格ではないことは知っていた。
    そして、カグツチが彼の元から飛び出したあの時。その横に見えたレックスは、駆け出したカグツチの姿を見送りながら、さらりとサーベルから聖杯の剣へと武器を持ち替えていた。まるで、カグツチがそうすることを初めから分かっていたと言うように。自分の元を離れたカグツチと、そのドライバーであるメレフが、あの強大な敵を打ち倒す力を貸してくれると強く確信していたかのように。
    だから、レックスはカグツチを止めなかった。
    「……私を見つけた時、お前はすぐに私の元へ駆け寄ってきてくれた。……それで、十分だ」
    そう。それだけの事実があれば良かった。優しい少年へと抱いてしまったつまらない感情が溶けてゆく。メレフはその時に覚えた喜びを、再び噛み締めた。
    「……さて、話し込むのは終わりにしよう。皆の元へ行かなくては」
    そう言うとメレフは世界樹の麓へと歩き始めた。その姿を見て、カグツチもまた歩みを進める。
    メレフは一つ深く息を吸い込んだ。
    彼女がただ我が身を案じ、己の元へと舞い戻った、ただその事実だけがあればいいということ。
    そして、この先何があろうとも二度と彼女の手を離さないという誓いを、メレフは静かに心の中で立てたのだった。
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