哲学的ゾンビ 彼女の瞳には、人間がゾンビに映るらしい。そのことを明け透けに言うものだから、よく電波女だの何だのと陰口を叩かれているところを見掛ける。
僕はそんな彼女と仲良くしている唯一の人間──彼女から見るとゾンビ──である。彼女曰く「貴方は右目がぶら下がってて、頭から頭蓋骨がはみ出してる。要するに、どこにでも居るただのゾンビね」とのことだ。
ある日、彼女が唐突に「貴方はどうして私の話を信じるの?」と聞いてきた。やけに真剣な声色だったので、茶化してはいけないと思い襟を正す。
「信じるも何も、そもそも疑いようがないじゃないか」
そう、疑いようがないのだ。何故なら、彼女の瞳に映るものが彼女以外には分からないように、僕の瞳に映るものもまた、誰にも証明することはできない。
「だから、僕は君の話を信じるしかないんだよ」
そう言うと、彼女──僕から見るとただの骸骨──は嬉しそうにケタケタと笑った。