ぼくの体は簡単に形を変えられる。
だけど、意識していなければ形の維持はできない。
気を抜いてしまえば直ぐにどろりと形が崩れてしまう。
ただ、体の中に取り込んで吸収したモノになら形どるのではなく、ちゃんと変形する事が出来る。
何故できるのか…と聞かれちゃうと説明が難しい。
吸収したそのモノはぼくの中で記憶されていて、記憶どおりにぼくの形を変えて固定すれば意識してなくても崩れることはない。
とにかく吸収して体が知ってる形には変われて、目で見ただけの形には変われないみたいだ。
だからぼくは吸収さえしてれば無機物のモノにも変形できるらしい。
今まで生き物にしか変わってこなかったから知らなかったな〜。
生物じゃないと無理かと思ってたから、人形の憂力も変形はできないかと思ってたけど…
変形できたなぁ。
やれば出来るもんだな。
出来はしたけど………違うんだよな。
目の前の鏡に映る自分の姿を見てみて、激しく落胆してしまった。
見た目は同じかもしれないけど…これは別物だ。
色が違っちゃうの予想していたけど、形だけ真似た…偽物だな…。
「イム…」
声も違う。仕草もこっちも見る目も表情も、全て違う。
表情は…元々ぼくが表情ってのがないせいか、憂力の真似をしてみても上手く動かせない。
…はぁ。これじゃ、意味がない。
憂力の姿になれるなら、憂力がその場にいるって錯覚出来れば、憂力に置いて行かれた日でも寂しくなくなると思ったのにな。
憂力に似せた別物なんて…こんなの見てたって気は晴れないよ。
なんだか、ガッカリしたせいか…いつもよりも気分が落ちていく。
憂力…なんで一人で行っちゃうのかなぁ。
ぼくの事、便利だって言ってたのに。仕事手伝わせてくれるって言ってたくせに…ぼくを置き去りにしていく。
一人の方が都合が良い時もあるだろう。
彼の考えがあるっていうのも、分かっている。
理解しているのに…置いていかれる度に、ぼくの中で何かがつのっていく。
一人でいた時には感じたことのないこの感覚は、寂しいってことなんだろうね。
憂力に会いたい。そばにいたい。くっついていたい。触れていたい。
想いがぽんぽん溢れてくる。
溢れた気持ちは受け取ってくれる相手がいないからか…どんどん溜まって、沈んでく。
落ちていく。
これはなんとも、厄介だよね〜。
今まで…一人でいた時なんかこんな感情持ってなかったから、どうすれば良いのか分からない。
僕としては、憂力に求められないなら、それで良いと思ってた。
憂力に必要とされないのなら、それまでの存在だったんだ。仕方ない。
そう…頭では考えているのに、気持ちは勝手に募っていくんだよね。
「好きだ…」
憂力の形のまま、口にしてみる。
だけど、偽物の口から聞いたって何もならない。むしろ、虚しいだけだ。
また一つ気持ちが沈んで、今度はどろりと形を崩した。
目の前の鏡には、いつもの見慣れたぼくが居る。
異形のぼくは好きなように形を変えられる。
なのに…自分の気持ちはコントロール出来ずに困っている。一人で勝手に戸惑っている。
なんて滑稽なんだろうね。
悩むぐらいならハッキリと自分の気持ちを伝えてしまえばよいのに…。それをしようとは思えない。
だって、憂力がぼくを求めてないのは明白だから。
できるだけ憂力が望んでいるとおりにしてあげたい。望みどおりにしてあげられれば、彼の願いを叶えることに繋がる。
それはきっと幸せへの近道だ。
だけども…憂力自身が自分の望みを分かっていなさそうなんだよねぇ。
何も言ってくれないし…聞いても答えてくれないし。何が欲しいって聞いてみても「塩」って言われるし…。
仕方ないから求めてない事はしないようにはしてるけど。
このまま何もせずにいたんじゃ、状況は変わらないんだよね。
まぁ、憂力が今のままを望んでいるのなら、それならそれで良いんだよ。
ぼくは憂力の傍にいられれば良いから。
だからさ、憂力…早く帰ってきてよぉ。
寂しいよ〜…。
せめて、傍にいさせてよ…。