Complex俺はさ、自分の目が嫌いなんだよね。見てよ。黒目が大きくて、二重が厚くて、涙袋も厚くてアーモンド型で少し垂れているでしょう。もっと凶悪な、誰もが目を逸らしてしまうような目になりたかったんだよ、俺は。
次期総帥と厳しく育てられた子供の頃から、やる気がないのかと父親から叱責された原因の一つはこの目にあった気がするんだ。何時もお前は眠そうだとか、覇気がないだとか散々言われてきた。実際誰かの上に立つのは向いてないと物心ついた時から、ずっと今でも思っているし、自分よりも適正のある人間にやらせればいいのにとも思っていたから、そういう所をいち早く見抜かれていただけなのかもしれないけど。
父から教えられた武術の技はいつしか息を吸うように当たり前に扱うことができるようになっていたよ。器用貧乏ってやつ? 所謂。勉強するのも嫌いじゃなかったから(勿論ゲームの方が好きではあったよ?)見た目以外の所ではある程度評価をされていたように思う。あ、あと頭の回転が他の人間より早かったおかげで、やけに機転の利く子だったかもね。悪知恵もよく働いたし。そういうのって上に立つものとして結構必要な要素ではあるかな。
そしたらある日、総帥にさせられたんだ、そう10年前。本当に突然に。父親が今日から趙が総帥だと幹部連中の前で声高らかに宣言したもんだから、それはそれは驚いたよ。事前連絡も無しにだよ? 酷くない? まあ、なってしまったものは仕方が無いって言うかさ。覚悟なんてできてなかったけど、時期総帥が、現総帥になってしまったからには、もう逃げ場もなくってやるしかないのかぁって、あの時はため息のひとつもついたもんだよね。
その頃最初にできたことなんて自分の見た目を変えることくらいでさ。少しでも悪くみせたくて、レザーのジャケットを羽織って、髪は後ろに撫で付けて、ゴールドのネックレスと指にはお気に入りの指輪を全部はめたの。丁度10本。爪には黒のネイル。これは....うん、関係ない。ただの趣味。可愛いでしょ?あ、爪に血が付いても汚れが目立ちにくいってメリットはあるかも。ピアス? ピアスは15の時から開けてるよ。
威厳何てものは今も昔も毛頭無いけれど、そういうのに憧れて髭を生やしたりもした。まあつまり、今の格好になったって訳。それから、この薄い色の付いたサングラスはいつも肌身離さず身に付けてる。これはお気に入りとかじゃ全然なくて、お前の目は優しすぎると父親から言われたこの目を隠すために、掛けてる。うん? 何?
好き? 俺の目が?
君さあ、ほんとそういうところだよ?
人たらしも大概にして欲しいんだけど。
もうやだ、そんなに見ないでよ恥ずかしいから。わかった、君の本心であることはわかったから!
まあ....そうだね、マフィアには到底似合わなかったこの目も、好きな相手を振り向かせる為の武器になるんだったら、好きにだってなれるかもね。あーあ。本当に今まで生きてた中でいちばん、馬鹿みたいに浮かれているよ、俺は。ぜーんぶ君のせいなんだから。取ってよね? 責任。