タッパは人並み以上にあり、足も長く、そしてバランスよくついた筋肉はそこらのモデルでは太刀打ちできないだろう。顔も目つきは悪く隈が濃いのは玉に瑕かもしれないが良い。そして医者を目指すほどに賢い頭脳。面倒見も存外悪くなく、付き合いの長い友人も多い。当然女にもモテ、彼女が途切れた事はない。
文字だけ並べるとまさしく非の打ちどころがないのでは?と己の世間的評価を初めて考えたローは思った。完璧に産んで育ててくれた両親に感謝だ。
こんなに完璧な男に靡かないヤツがいるのか?…いるのである。
31歳、職業不詳でいつもふらふらしている。身長のあるローより高い身長ではあるが、背中は丸まり、眉毛は薄くローより更に目つきが悪い。はっきり言って堅気に見えない。ヘビースモーカーでいつもタバコを吸っているのも印象の悪さに拍車をかけている。おまけにドジっ子だ(本人談)。本人はかわいく言っているが、そのドジの内容は中々にかわいくない。何もない所でコケ、タバコで服を焦がし、生傷が絶えない。
そんな男にトラファルガー・ローは心底惚れて、告白し、盛大にフラれたのだ。
まるで納得がいかない。少しぐらい考えてくれてもいいだろうと思うほどにドンキホーテ・ロシナンテ…通称コラさんは即答したのだ。
「お前と付き合うのはないなぁ…。」
普通の男ならきっとここでくじけただろう。だがローは普通の男ではない。しばらく茫然としていたが、時間が経つにつれて沸き上がったのは怒りだった。思えばもやもやとする返答だ。お前とってなんだ。他の奴ならいいって事か?ないってのはどういう事だ。そんな返事で俺があきらめると思うなよ。
ローは決意した。取るべき椅子は必ず奪う。コラさんの隣は俺の席だ。
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「おい、恋バナ聞かせろ。」
「!!?!?!?」
好きな人にフラレて傷心の我らがキャプテンをどう慰めようか。ベポとペンギンとシャチの三人は考えていた。お酒を用意しようかなとも思ったが、ローは真面目なので未成年の飲酒は嫌がるかもしれない。そして悩んだ末に、3人でローの家におしかけ、ピザと山盛りポテトとチキンナゲットを宅配注文したところでローのこの発言である。
「キャプテン!俺達沢山話きくから!」
「ちげぇ。“聞かせろ”と言っている。」
「す、すいません。」
ベポが耳をしょげさせてうなだれている。ローはというと、腕を組んで目をギラつかせている。
「あの、それはどういった意図で…?」
困惑した様子でペンギンが聞く。とても失恋をした男の風格ではない。とはいえ自分たちは本人からのラインで失恋したことを知ったわけで。ローの返答を固唾をのんで返答をまつ3人。
「俺が甘かった。いつも予想外の事をするコラさんなのは分かっていたのに、考えが足りてなかったんだ。これは作戦会議だ。」
ローはそう言うと、ノートパソコンを取り出し表作成ソフトを開く。
「お前らの話を聞いて比較、分析をする。…俺は絶対に諦めねぇ!」
「「「かっこいいんだけどキャプテーーーーン!!!!」」」
ワッと盛り上がる場。この場所に一歩間違えればストーカーでは?と突っ込む者はいない。なにせ全員、揃いも揃って海賊思考なもので。そして何より大好きなキャプテンに協力しない訳がなかったのだった。
そして白熱する討論の結果、お互いの知らない方がよい性癖なども明らかになりつつも共通の結論が出た。
男はかわいい物が好きだ。
この結果が出たとき四人の心は一つになった。これだという確信があったのだ。一般的に恋人はかわいく見えるものであり、なによりロー自身があの強面のロシナンテを世界一かわいいと思っているのだから間違いない。
「ロシナンテさんはキャプテンにかっこいいところを求めてないんだと思うんですよね。見てて思うんですけど、とにかく甘やかしたいっていうか。」
「年上ぶりたいところもあるんじゃないですかね、実際13歳年上だし。」
ペンギンとシャチは納得顔ですっかり冷めたポテトを食べながら言う。はっきり言って盲点だった。少し考えればわかる気もするが、ローだって男なわけで…好きな人にかっこよく見られたいという気持ちがあったのだ。年齢が離れている分早く追いつきたいという焦りもあった。
「以上の結論からすると…俺はコラさんにかわい子ぶればいいんだな…?」
(キャプテンが…)
(かわい子ぶる…)
(どうやって…?)
三人はいまいちそのようなローの想像がつかなかったが、沈黙を持って肯定とした。いずれにせよ、我らがキャプテンに狙われた時点で逃げられるはずがない。ロシナンテがおとされるのも時間の問題かと思われた。
ところがだ、ローはかわい子ぶるのがとてもとても下手だった。
上目使いをすれば下心が透けたのか「睨んでる?俺何かした?」と言われ、手を掴めば力が入りすぎ「あれ?俺なんかドジった?」と言われる。ならば言葉で甘えるかとも思ったが、そもそもなんといえばかわい子ぶった受け答えなのか?ローの部屋には日に日に参考書籍の恋愛小説が増えていく。しかし参考書籍の主人公は当然かわいい女の子ばかりで、自分からあまりにかけ離れておりどうにもうまく活かせない。悶々とした日々はローの目元の隈を色濃くしていく。
あの告白からもロシナンテは変わらずローに接してくる。それもまたローの心に暗い影を落とした。結局、全く意識されていないのだ。確かに綺麗な夜景の見える公園で、精一杯かっこよくした告白はロシナンテには効果が薄かったかもしれない。けれど本気だったのだ。
「ロー…最近隈が凄いな。寝れないのか?寝かしつけに行ってやろうか?」
心配していってくれたであろう一言がダメだった。ローの心の柔いところをめちゃくちゃにする。告白した男の家にのこのこやってくるなんて、ほんとに何にも考えてくれていないのだ。
思わずぼろぼろと涙を流し始めたローを見てロシナンテは焦り始める。ロシナンテは迷わずローの頬に手を添えて親指で涙を拭う。
「ど、どうした?なんかあったのか?コラさんでよければ話を」「あんたが!」
手を振り払いたいのに、結局振り払えない。どんなにつらくてもロシナンテの温かい手から離れることができない。情けなさで余計に涙があふれる。
「あんたが好きなのに、好きだって言ったのに、どうしてそんな酷いことが言えるんだ。」
「ロー…。」
ロシナンテは逡巡した後、口を開く。
「お前、俺はお前より13歳も年上なんだぞ。」
「知ってる。」
「事故とかでどうなるか人生は分かんねえけど、普通に健康に生きてても絶対にお前より先に死ぬ。」
「知ってるよ。」
「それに男同士だし子供だってつくれない。不毛だ。」
「でも子供がいない分、お互いのことを大事にできるだろ。」
「親御さんが悲しむ。」
「妥協でだれかと一緒になるなんて、その方が悲しむ。」
「俺以外も好きになるかもしれない。」
「無理だ…コラさん以外は考えられない。俺はこの先一生独りだ。」
「馬鹿だお前は…ほんとうに馬鹿だ。こんなにいい男に育ったんだからまっとうに幸せになれよ…。」
ぎゅうとロシナンテはローを抱きしめる。子供の頃に抱きしめてもらった時とは違う、力強い男の腕だった。
「かわいい子供を大事にしてたんだぞ俺は。」
「…これからはかわいい恋人を大事にしてくれよ。」
どこで間違えたんだろうなあと言いながらロシナンテは額にキスをする。なのでお返しに、ローは唇にキスをしてやった。