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    act243129527

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    日常パート①

    グレムル前提のヒスムル(仮)18その日、家に帰るとヒースクリフがリビングのソファですやすやと眠っていた。

    その下にはグレゴールが用意したであろうプリントと鉛筆が置いてあり、勉強している内に寝てしまった事が窺えた。

    (……涎が……)

    プリントにヒースクリフの涎が染み込んでしまっていた。

    だが、起こすのも気が引けるので忍びない気持ちになりながらも放っておいた。

    立ったままシャワーを浴びて、髪を洗って乾かした後にリビングに行くと、その時丁度ヒースクリフが目を覚ました。

    「ただいま、ヒースクリフ。」
    「ん……おかえり……」

    ヒースクリフはもごもごとそう言って起き上がると、プリントに染み込んだ涎に気付いたようで顔を顰めた。

    「うわ……汚ねえ……」

    そう呟いてティッシュでプリントと自分の口元の涎を拭き取って、以前から気になっていた事を聞いてみる事にした。

    「……案外綺麗好きなんだな。」
    「……そうだな……昔は裏路地の環境でも暮らせてたのに……あいつらに汚いって言われ続けてたからかな。」
    「……そう、なのか。」

    聞いてはいけない事を聞いてしまったような気がした。

    「あ……おい、なんでそんな暗い顔するんだよ。別に俺は気にしてねーよ。」
    「……貴方は強いな。」
    「……それ本気で言ってんのか?」

    呆れたようにこちらをジトっと見てから彼はあくびをした。

    「……もうこんな時間か……夜ご飯作るよ。」
    「……手伝おうか?」
    「んー……そんなに手伝ってもらう事も無いけどな。て言うかあんたは休んでろよ。」
    「だが……」

    私は言いかけて、口を噤んだ。

    「……何だよ。」
    「……貴方が作る物は、いつも炒飯だから。」
    「……」
    「……」

    彼が家に来てもう1年半が経ったが、私が家に帰って来た時に彼が作る料理は毎回必ず炒飯だった。

    数ヶ月程は気に留めていなかったが、それが1年半も続くと流石に口を出したくなってしまった。

    私達が黙り込んでいると、丁度グレゴールが家に帰って来た。

    「……え、何だよこの空気……」
    「……今日の夕飯について話し合っていた。」
    「それがなんでこんな重苦しい雰囲気になるんだ?」
    「……ヒースクリフが……炒飯しか作れない可能性がある。」

    私の言葉にグレゴールも黙り込んだ。

    「……あー……うん……確かに……毎回炒飯、だな……」

    はは、と困惑したような乾いた笑いを漏らすグレゴール。

    「……えっと……お前さんは何も言わないのか?」
    「……何も言いようがねえだろ。事実だし……」

    ヒースクリフは腕を組んで唇を尖らせた。

    「……レシピを伝授しようか。」
    「なんでそんな嬉しそうなんだよ?」

    ヒースクリフが眉を顰めながら聞いて来たので私はグレゴールをチラリと見やってから答えた。

    「……グレゴールばかりが貴方に教えていて不均等だと思っていた所だ。」
    「まーた嫉妬かよ。そんなに不満ならヒースクリフに書類の書き方とかパソコンの使い方とか教えてやったらどうだ?」
    「……!貴方がしたいのであればいつでも……」
    「……、」

    ヒースクリフが口角を思いっきり下げた。

    「ノーサンキューだってさ。」
    「いや……その、今の勉強で手一杯ってだけだから……」
    「……」
    「ほ、ほら……料理教えてくれるんだろ?教えてくれよ。」
    「……ああ。そうだな。」


    まずは作りやすいカルボナーラからにした。

    「具はくし切りにした玉ねぎと短冊切りにしたベーコンとエリンギと千切ったほうれん草だ。」
    「……え?あ……うん……」

    ヒースクリフが玉ねぎとベーコンとエリンギとほうれん草を取り出すのを見守った。

    「説明が足りないんじゃないか〜?」

    目の前のリビングからのグレゴールの野次に若干苛立ちながらもどこに説明を入れるべきか訊ねた。

    「えっと……くし切りとか短冊切りとか何だ……?」
    「……くし切りは……そうだな、玉ねぎを一度半分に切って……そうだ。断面を下に置いて、その断面を中心に放射状に切る切り方の事を言う。そして短冊切りは……」
    「ゔぉ……目ぇいっって……!」
    「……あ。ちょっと待て……なんか俺も目が……」
    「…………」

    全員で目の痛みに悶える時間が入った。

    「……短冊切りは……さっきと同じように一度半分に切ってから断面を下に置いて薄く切っていく。」
    「……なるほど。分かった。」
    「……切った具はフライパンに入れて……バターと一緒に炒めてから塩胡椒で味付けをする。炒め終わったら……茹でたパスタを投入して、牛乳を適量追加して少し炒める。」

    パスタの麺を茹でて具を炒めにかかった。

    どちらも終わるとフライパンに水を切った麺を投入して、牛乳を適当に入れて炒め始めた。

    「最後に皿に盛り付けて、生卵をそれぞれ一つずつ落としてほうれん草を千切ってトッピングする。そして粉チーズを出来るだけ多く掛けて、後は味が薄ければ塩胡椒も追加で……これで完成だ。」

    出来上がったカルボナーラを3人で食べた。

    「ん〜うまっ!」
    「美味い……」
    「美味しい。」

    味は特に問題は無かった。

    「……こう言う風に他の料理も作れそうか?」

    そう訊ねるとヒースクリフは少し苦い顔をした。

    「オリジナルの?」
    「ああ。」
    「……でも、これってさ……あんたのレシピ通りに作ったから美味いんであって、俺が他の料理適当に作って美味くなるとは限らないよな?」
    「それは……」

    確かにそうかもしれない。

    「だが、貴方のように自信が無い者程味付けが慎重になるものだ。滅多に不味くなる事はないだろう。グレゴールと違って。」
    「おい、結構美味くなったってお前が言ったんだろ。」
    「……おっさんの料理、そんな不味かったか?」
    「昔は美味しいと思う物を好きなだけぶち込んで混ぜていたからそれを改めさせた。味は組み合わせが最悪でとても考えられない味だった。」
    「……食えれば良いの精神か……」
    「でっ、でも今は大分美味くなっただろ⁉︎」
    「まあそうだけど。」
    「自分に自信がある者程味付けが下手くそになる。」
    「俺を例えにするな。て言うか俺しか居ないか……」
    「貴方と両親以外の手料理も食べた事があるが。」
    「……」

    グレゴールが目を見開いて固まった。

    「初耳なんだけど???」
    「わざわざ話すような事でもなかったから。」
    「え、誰の手料理食ったんだよ?」
    「学生時代に友人の手料理を食べた。」
    「……何だよ……拍子抜けしたぞ。」
    「彼氏彼女である事を期待したのか?」
    「いや……期待しては居ないけどこいつ初めてだったよなって……」
    「……その手料理って不味かったのか?」
    「いや、普通だった。」
    「なんだよ……てっきり不味かったのかと……」
    「混ぜた薬の味を隠そうと味付けを濃くしたのが間違いだったな。その味さえ無ければ美味しい部類だったのに。」
    「「……え?」」
    「いや……手料理に薬盛る友人って、何だ?」
    「……そいつほんとに友人だったのか?」
    「それ以来会っては居ないがそれ以前までは友人だった。」
    「悲しいな……て言うかそいつに何かしたのか?」
    「何もしていないが恐らく強姦目的だろう。」
    「……え、男?」
    「そうだが。」
    「……あっそう……」

    グレゴールは呆れた顔をして額に手を当てた。

    「どうやって逃げたんだ?」
    「その場で味付けが濃いと苦情を言ったら積極的に食べろと言われたから料理を食べさせようとしたら白状した。」
    「何入れてたんだよ怖えな……」
    「彼曰く睡眠薬だそうだ。」
    「あっぶねぇの。」
    「……そいつ、なんか匂わせたりとかしてなかったのか……?好意とか。」
    「今となっては記憶が定かではないが……あまり意識はしていなかったな。」
    「はぁ……」

    ムルソーは不思議そうに溜め息を吐くグレゴールを見ていた。

    「まあその……何事も無くて良かったな……マジで……」
    「目ぇ付けられやすそうだなって思ってたんだよ……まさかそんなケダモノと遭遇してたとは……」

    グレゴールはそう言ってカルボナーラを一口食べてから「ん?」と声を漏らした。

    「友達の手料理食ったのって……」
    「その一度きりだが。」
    「……おい、経験上こうだったみたいな事言っておきながらやっぱり俺だけじゃないか。」
    「……それは喜んでいるのか?」
    「呆れてるんだよ!……まあ、ちょっと嬉しいけど……」
    「……」

    ヒースクリフが静かになった気配がしてそちらを見てみると、ぼんやりとした顔でカルボナーラを食べていた。

    「……あ〜……」

    こう言う時、あまり良い事が起こった試しが無いのでグレゴールが焦り始めた。

    「その……ごめんな。」
    「何が?」
    「……あんまり、良い気分じゃないだろ?」
    「……別に?」

    思いの外、ヒースクリフはきょとんとした顔をしていた。

    「なら良いけど……」

    グレゴールが安心しきれて居なさそうな顔でそう言った時、ヒースクリフが不意にこんな事を聞いて来た。

    「……所でさ……あんたら、俺の名前わざわざ全部呼んでるけど……面倒くさくねえの?」
    「……?ヒースクリフと呼ぶ事がか?」
    「うん。なんか……長くねえか?」

    その言葉に私とグレゴールは目を見合わせた。

    「……確かに……」
    「……だからさ……ヒースって、呼んでくれても良いけど……」

    ヒースクリフは平静な顔をしつつも、やはり少し恥ずかしいのか髪を弄りながら私達から目線を逸らした。

    「……良いのか?」
    「良くなかったら言わねえよ、こんな事。」
    「……なら、そう呼ばせてもらおう。」
    「つっても慣れちまったから結局ヒースクリフって呼んじまいそうだけどな。」
    「別にそれは……使い分けりゃ良いだろ。気分で。」
    「ふふ……そうするかぁ。ヒース。」

    そんな風に夕食の時間は過ぎて行った。



    グレゴールが風呂に入っていて、先に寝ようとしていた時の事だった。

    ヒースクリフがベッドに上がって……私の隣で座り込んで、私をじっと見つめて来た。

    「……なあ。おっさんが引っ越して来る前日……あんた、帰って来なかったけどさ。……何してたんだよ。」
    「……、」

    私は返答に迷った。いや、出来なかった。

    「……おっさんとえっちしてたんだろ?」
    「…………す、すまない……」
    「……ふん。」

    ヒースクリフは唇を尖らせてそっぽを向いた。

    彼が不満を感じているのは分かったのに、それをどう対処したら良いのか、分からなかった。

    「……その……どう、してほしいんだ……?」
    「……」
    「……何を、私に求めているのか……さっぱり、分からない。」
    「……なんで俺が何か求めてる事前提なんだよ。」
    「すまない……」
    「……」
    「……?」

    何の脈絡も無く、ヒースクリフが私の胸に手を押し当てた。
    そのまま揉みもした。

    私はそれをじっと眺めていた。

    「……おっさんがこうやった時にさ……どんな反応してるんだよ?」
    「……分からない、が……」
    「ちょっとはその気になるのか?」
    「……なる、かもしれない。」
    「じゃあ、俺は?今、どうなんだ?」
    「……」

    そこまで聞いて私は彼が何を言いたいのかを察した。

    だが……

    「……ならない、な……」
    「じゃあ、これは?」

    そう言ってヒースクリフが一瞬だけ口付けて来た。

    ……自分でやってみたは良いが、恥ずかしかったのだろうか。

    「……ならないんだよな?」
    「……あ、ああ……」
    「じゃあ……」

    そう言ってヒースクリフが私の肩に手を掛け、緩く押して来たのでゆっくりと倒れた。

    「……これは?」
    「……」

    視界が、天井とヒースクリフの真剣な顔で埋め尽くされた。

    「……ああ……こうされてみると、その気になるかもしれない。」
    「……ここまでしなきゃ、そんな風に感じないって事だろ?」
    「……そう、だな……」

    私は……少し、困ってしまった。
    私にどうとでも出来る事であるかもしれないが、殆ど不可能な問題だったから。

    「……うーん……どうやったら箔が付くんだ……?」

    ヒースクリフの最近の悩みはこれらしい。
    今までに比べれば可愛らしい物だが……ある意味一番解決するのが難しい問題かもしれないと思った。

    「……一度、してみたら変わるのではないか?」
    「……はっ⁉︎」
    「グレゴールも、一度目は控えめだったが二度目以降からは積極性が増した。」
    「ぐ……そう言う話今一番聞きたくなかった……」
    「すまない……」
    「それに……その、アレは……俺が、もうちょっとかっこよくなって……あんたの事、ちゃんと気持ち良くさせられるようになってからにしたくて……」
    「だが、それでは貴方はいつ私を抱けるんだ?」
    「……10年ぐらい待つと思ってるか?あんた。」
    「……前者はともかく……後者は、経験を重ねないと難しいと思うのだが。」
    「……」

    ヒースクリフは黙り込んでしまった。

    ……本当は「グレゴールに開拓されては居るが」と言おうかと思ったが流石に言わなかった。

    「……貴方は理想が高過ぎるのではないか?」
    「高く、せざるを得ないだろ……!だって大事なステップなんだぞ⁉︎大人の階段を登る上で、一番!」
    「……そう、なのか。」
    「くっ……あんたには、分かんねーと思うけど……やるなら、ちゃんと、大人になりたいんだよ。」
    「……」

    私は彼の拘りを理解してやれなかった。

    「……私にとっては、貴方はいつまでも貴方のままなのだが……」
    「それが駄目なんだって……あんたが想像してる俺って今の俺な訳で……成長した、かっこいい俺じゃ、ないだろ……?」
    「……ああ。」

    そもそも現時点では比較しようがないのだが……

    「……」
    「……そんな顔をされても、私にはどうもしようが無い。」
    「……まあ、そうだよな……」

    ヒースクリフはベッドの真ん中に寝転がって天井を見上げた。

    「……」

    私は不意に思いついて、寝転がっているヒースクリフに覆い被さった。

    「……え?」

    その唇に吸い付いて、舌を絡め取って、混ざり合った唾液を飲み込んだ。

    「…………」

    ヒースクリフは目を丸くしてぽかんとした顔で私を見上げていた。

    「……私から誘ったのなら、どうかと思って。」
    「……」
    「……ふむ……」

    もう少しやってみようかと思い、首筋を唇で食んでみると脈が早まっているのが分かった。

    驚いて胸に手を当ててみると動悸がしているようだった。

    「……大丈夫か?」

    そう言って顔を上げると、肩を掴まれて横に引き倒された。

    「……大丈夫じゃ……ねえよ……」

    恥ずかしいのか、欲求を抑えているのか顔を歪ませて、ヒースクリフは私に覆い被さってキスをして来た。

    「……、」

    あまりにも下手くそだった。

    まず唇の合わせ方がなっていないし舌の動かし方も必死さが見えて拙かった。

    唇が離れていったのでそれを追って顎を指で摘み、唇を重ねると彼の体がビクッと跳ねた。

    構わず舌を絡ませていると、胸に手を添えられた。
    思わず笑って息を漏らすと、ヒースクリフがムッとした顔をした。

    「どうしたんだ?」
    「……胸触って、悪いかよ。」
    「何も悪くないが。」
    「……ちょっとぐらい、良いだろ。」
    「好きなだけ揉めば良い。」

    そう言って頭を撫でると、ヒースクリフは胸に顔を突っ込んですりすりと額を擦り付けて来た。

    「……フフッ……」

    後頭部に手を置いて顔を上げられないようにして遊んでいた時だった。

    「……あ。」

    必死に腕から逃れようともがいているヒースクリフが突如動きを止めてそんな声を漏らしたので視線の先を見てみると……そこには部屋の扉と、その先に立っているグレゴールが見えた。

    呆れたような顔をしているのが見えて、ヒースクリフの後頭部から手を離した。

    「あ……その、おっさん……」
    「……ムルソー……お前またヒースにセクハラしたのか……」
    「違う、これはヒースクリフがしたいと言ったからしたまでの行為で……」
    「はいはーい、お話は後でゆーっくり聞かせてもらいますからね〜〜。」

    どこか不機嫌そうな笑顔でそんな事を言って彼は浴室へ戻って行った。

    「……どーすんだよ。」
    「……どうもしないが……」
    「良いのかよそれで……」
    「……そこまで深刻な問題でもないだろう。」
    「本当かなぁ……」
    「いつかはこうなる筈だった。」
    「……確かにそうだけど……」

    まだ懸念している様子のヒースクリフに不意に思いついた事を言ってみた。

    「それに、今まで私の体を独占して来たのだから少しぐらいは貴方に譲っても良い筈だ。きっと彼も覚悟の上だろう。」
    「………すっげえパワーワードだな……」

    若干引いているような引き攣った笑みを浮かべていたヒースクリフだったが、次第に心底面白そうな笑みに変わっていった。

    「……そうだよな。荷造りの手伝いしに行ったあんたとちゃっかりやったんだもんな。」
    「……あれは……私が誘ったのもあったが……」
    「……それだと話が違って来るんだけど。」
    「すまない……」
    「だからケーキ買って来てたのか……通りで……」

    そう言いながらヒースクリフはゆっくりと私の体の上に寝そべった。

    全体重を預けるのは不安なのか、少しだけ体を浮かせている。

    「……体重を預けてくれても問題は無い。」
    「えぇ……怖いからやだよ……」
    「大丈夫だ。ほら……」

    するとヒースクリフがこちらの顔色を窺いながら少しずつ力を抜いて体重を掛けて来た。

    「……思っていたよりも軽いな。」
    「……大丈夫か……?」
    「ああ。」
    「なら良いけど……」

    そう言ってヒースクリフは私の胸に頬を乗せた。
    頭を撫でてみるとそのまま寝てしまいそうな様子で目を細めた。

    「……なあ、ムルソー。」
    「何だ?」
    「……ありがと……」
    「……」

    それが何に対してのお礼なのか分からなかったが、聞く事もしなかった。

    彼はもう既に眠りについていたから。

    私も眠ろうと思って目を閉じた。

    彼と私の穏やかな寝息と心音が混ざり合うのを感じながら私は意識を沈めていった。
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