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    グレムル前提のヒスムル(仮)29話
    ヒースとロージャの話

    グレムル前提のヒスムル(仮)29話ある日、ヒースクリフがムルソーに頼まれた書類を総務室へ持って行った時の事だった。

    総務室中に玄関のチャイムの音が響き渡った。

    ヒースクリフには聞き馴染みの無い物だが、この工房では発注した部品が宅配便で届けられる事が時折あった。

    『ヂェーヴィチ協会の者です。荷物を届けに来ました。』

    インターホンからその声が聞こえると、ムルソーの書類を受け取ったロージャがボタンを押して配達員に中に入るように言った。

    「俺が出ようか?これから下行く所だし。」
    「あ、ちょっと待ってヒース!私が出るから!」
    「え?ああ……」

    バタバタと駆け寄ったロージャが階段に面した扉を開くと、そこには翠色のコートを着込んだ少年が立っていた。

    (こいつがヂェーヴィチ協会のフィクサーか……)

    都市のフィクサー協会の一つ、ヂェーヴィチ協会。
    配達を担っているらしく、グレゴールがムルソーの家に引っ越す際に世話になった協会だった。

    「いつもお世話になってます。お荷物はこちらで間違いありませんか?」
    「おっけーおっけー。今回も速かったね?」
    「ま、まあ……遅れたらヂェーヴィチのフィクサーとして恥ずかしいですから……」
    「そんな事言って〜。チップ欲しかったんでしょ?そう言うのは〜、堂々と言うの!」

    そう言ってロージャがスマートフォンを取り出すと、何やら操作をしてフィクサーが背負っている鞄にスマートフォンの先端を向けた。

    軽快な音が鳴ったのを見るに、キャッシュレスでチップを上乗せしたのだろう。

    「……いつも、ありがとうございます。」

    少年は嬉しそうにはにかんで頭を下げた後、階段を降りて行った。

    「……ほんとに金配りまくってんな、あんた。」
    「もー!いちいち人聞きが悪いわねぇ……労働の対価よ、対価!」
    「……」

    ロクに労働をしていないフィクサーにもそう言って給料を出しているのだろうか、と思うと複雑な気持ちにならざるを得なかった。

           *  *  *

    あれから2日経った朝の事。

    「ヒース!今日は私と一緒だからね〜。」
    「え?」

    ボードに張り出されている外勤依頼を見ていると、ロージャがいきなり現れてヒースクリフの腕に自分の腕を回して引っ張って行った。

    「隊長とデートか〜?気ぃ付けろよ〜。」
    「えっ、ちょ……おっさーん‼︎そんな事言うなら笑ってねえで助けてくれよ‼︎」
    「道連れはヤなんだよ。それに俺も予定あるし……あんさん一人で行って来な。」
    「さあさあ、グレッグもああ言ってる事だし……一緒に行こうね〜ヒース〜。」
    「〜〜〜っ!分かったから腕離せよ‼︎あんま人に見られたく……」

    ヒースクリフがそう言って腕を振り解こうとしているといつの間にか階段に出ており……

    書類を持って階段を降りて来るムルソーと運悪く出くわしてしまった。

    「……あ……っ、」
    「……」

    ムルソーは暫く目を見開いていたが、ロージャの言葉にいつもの目に戻った。

    「あ、私これから出て来るから!帰って来るまでよろしくね〜。」
    「……分かりました。報告書の作成は……」
    「帰って来たらお願いするね〜。じゃ!」
    「……お気を付けて。」

    ムルソーはロージャに向かって頭を下げてから設計部署に入って行った。

    (……やっぱあの人……代表に対しては大人しいって言うか、丁寧さが桁違いだな……でもおっさんは……)

    何と言うか、視線が冷たかったような気がする。

    ムルソーに仕事を押し付けている同僚達に向ける視線程ではないが……どことなく、冷たかった。

    それが気になりつつも支度をして二人で出発したのは良かったが……

    「っ、なあ代表‼︎目標ってあと何人居んだ⁉︎」
    「さあ〜?とりあえず!ここに居る全員倒せば終わり!」
    「はあ⁉︎数多いんなら先に言えよ‼︎替えのバッテリー忘れて来ちまったじゃねえか‼︎」

    聞かなかった……と言うよりも聞けなかったに近いのだが、何の確認もせずに来てしまった事に猛烈な後悔を抱いていた。

    グレゴールが『気を付けろ』と言って来た理由が今正に起こっている状況の事だったような気がしてならない。

    「それで〜!ど〜お?仕事慣れた〜?」
    「それ今聞く事か⁉︎」

    人が押し寄せて来る中、ひたすら稼働した鋸を振り回しているヒースクリフには一言答えるだけでも精一杯だと言うのに、ロージャはスパナを振り回しながら平然と話し掛けて来る。

    見る暇も無いが、やはり平然と話せる辺り、向こうは順調のようだ。

    「ま、慣れるしかないからね〜……頑張ってね〜……よっ!」
    「はぁ……答え求めてねえなら聞くなよ……!」

    そんなこんなで数分奮闘していると、波が収まってヒースクリフは漸く一息付けた。

    「はーー……疲れた……でも今の内に手入れしねえとな……」

    ヒースクリフがぶつぶつと独り言を呟きながら鋸に付いた血肉を取り除き始めると、ロージャもスパナの手入れを始めた。

    共振スパナ……
    実際に見た事は一度ぐらいしか無く、生産する事も無かったので代表だけが使っていると言う事しか分からない武器だ。

    よく見るとあのスパナにも鋸の歯のような物が付いている。
    それすらも今日初めて知った。

    「……なあ、共振スパナって……」

    と、ヒースクリフが実際どんな武器なのかを聞こうとした時だった。

    ロージャが怪訝そうな顔でスパナを見つめていたからだ。

    「……どうかしたのかよ?」
    「うーん……何だろ……最後ら辺、感覚が変だったのよね……ま、こう言う時は〜……」

    ロージャは懐から携帯電話を取り出して電話を掛け始めた。

    「あ、グレッグ〜もしも〜し?なんか共振スパナが調子悪くって……」
    『異音か?稼働不良か?』

    電話越しにグレゴールの声が聞こえて来たが、外勤中なのか騒がしい音も一緒に聞こえて来た。

    「ん〜とね、いつもと感覚が違うって言うか〜……」
    『んじゃあ中の歯車とかその辺がおかしくなったのかもな。とりあえず手順言うから……』

    と、グレゴールは説明し始めたのだが……肝心の説明がグレゴールの鋸の音と叫び声に掻き消されて聞こえなかった。

    『これで直るんじゃないかと思うんだけど……どうだ?』
    「……え〜っと……帰ってからもっかい聞くね?」
    『ああ……はいはい。』

    グレゴールは察したのかどうか分からない声を出して電話を切った。

    「……じゃ、このまま行くかぁ〜。」
    「自分の武器ぐらいちゃんと隅々まで把握しとけよ……」
    「何よ文句垂れて〜……じゃああんたにこれの直し方分かるって言うの?え?」
    「あんたしか使ってない武器の修理なんか俺が出来る訳無いだろ……」
    「んもう!使えないわね……」
    「……つーかなんでオッサンに聞くんだよ?他に居ねえのか?」
    「元々グレッグが居た所の商品だったからね。私は発注してただけ。」
    「……あの人、元々他の工房に居たのか?」
    「初耳って顔だね?そうだよ〜。私が引っこ抜いて来たの!」
    「……金で釣ったの間違いじゃなくて?」
    「……そうだけど。」

    ロージャもロージャならグレゴールもグレゴールだな、と一瞬思ったが……

    グレゴールが金を求めているのは夢の実現の為だ。
    恐らくここに来た理由もそうだったのだろう。

    そして、今度はヒースクリフが夢を叶えようとここに入った。

    「……」

    ロージャはそんな事考えもしていないのだろうが……実の所、ロージャが夢を叶える場所を提供してくれているのだと思うと……少しだけ感謝の念が湧いて来た。

    それと同時に……グレゴールの薄らとした冷たさが気になっていた。

    嫌いであれば隠そうとはしないタイプだと思う。
    事実、ガラムやヒョヌに対しては酷く冷たかったから。
    逆にヒースクリフやマルセルに対しては愛想良く、楽しそうに話している。

    肝心のムルソーには冗談半分、呆れ半分が入り混じっているように思える。

    「……おっさんって……あんたに、ちょっと冷たくないか?」

    ヒースクリフがそんな疑問を投げ掛けてみると、ロージャの体が僅かに揺れたように思えた。

    「あんまあんた達が話してる所見た事無いけど……やっぱ、なんか……よそよそしい気がして。」
    「……はは。そうね。」
    「……何かあったのか?」

    体制に不満を抱きつつもそこまで嫌っている訳ではなさそうに見えるのだが……

    「……この前の件でちょっとね。」
    「この前……?……ぁ……ねじれの件か。」

    あの時はムルソーとの記憶ばかりで、グレゴールの様子はそんなに見れていなかった気がする。

    「……もしかして、怒られたのか?」
    「うーん……怒られたって言うか……多分、怒りたくても怒れなかったんだと思う。」
    「……」
    「はぁ……この話、今する必要無いでしょ。ほら、上行くよ!」

    ロージャは普段通り振る舞っているが、あのグレゴールに怒られるのはロージャにとっても怖い事なのではないだろうかと思わずには居られなかった。

    (おっさんに怒られるのとか俺でも怖いし……)

    中々怒らないからこそ恐ろしい所があると思っている。

    今まで嫉妬していた事を隠されていたように、実は怒っていたが表には出さなかったと言う事もあり得そうだと思うと……

    「……」

    思い当たる節が無い訳でもないヒースクリフは少し怖くなった。

           *  *  *

    「ふ〜〜……これで全員かな?」

    二人で建物の隅々まで確認して誰も残っていない事を確認すると、ヒースクリフはようやく一息付けた心地がした。

    「お疲れ様〜。実はこれも翼の依頼だったからお給料弾むよ〜!」
    「え?これが?」

    ヒースクリフは辺りに倒れている連中を見回した。

    「確かになんかコソコソしてる感じはしたけど……何やったんだよこいつら?」
    「翼の本社にやたら突入したりテロ起こすぞ〜って言ってたらしいね。」
    「うわぁ……そりゃ依頼来るわな……」

    裏路地出身とは言え、流石に巣で何年も暮らして来たヒースクリフにはその異常さが計り知れた。

    「何の恨みがあってそんな事……」
    「さあね〜……稼いでる奴らが許せないんじゃない?」
    「……まあ、気持ちは分からなくもねえけど……それにしても……」

    ヒースクリフは窓際に生けてある金色の花を付けた枝を見た。

    「そんなイカれた奴らのくせにこうやって花生けたりするんだな。しかも結構匂いするやつ……」
    「……理解しようとするだけ無駄なんじゃない?」
    「……まあ、そうだな。」

    いくら不満を抱けど、それをテロと言う形で表現する奴らの思考など考えるだけ無駄と言う物だろう。

    そう思ってロージャの方へ向き直ると……ロージャは計画が書かれた紙が張られた壁を不満気な顔で見つめていた。

    「……」

    何となく、その不快感はヒースクリフが思っている方向とは別の方向に向けられているような気がした。

    きっと自分の知らない間に何かあったのだろう。
    ヒースクリフはロージャに撤収しようと声を掛けて、二人で建物を出た。



    事務所に戻ると、ロージャはムルソーに事後報告をしに行ったのでヒースクリフは設計部署で鋸の点検をする事にした。

    「お疲れ〜、ヒースクリフ君。」
    「ああ……どうも……」

    マルセルに対しては未だにどんな態度で接すれば良いのか分からないヒースクリフだったが、今日は色々と気になる事があったので話してみる事にした。

    「……なあ……おっさんが怒ってる所って見た事あるか?」
    「ん?おじさんが怒ってる所……?うーん……確かに見た事無いかな。どうして?」
    「……代表が……この前のねじれの件でおっさんに怒られたと言うか、怒りたくても怒れなかったとか言ってて。」
    「……あーー……」

    マルセルの方を見ると、マルセルも意外そうな顔をしていた。

    「おじさんも怒るんだ……」
    「まあ、実際怒ったのかどうかは分からないけど……あ。そう言えば俺も一瞬怒られた事あったな……」
    「家出してる時?」
    「ん……」

    あの時もグレゴールはムルソーの事を案じて怒っていたような気がする。

    (……怒りの沸点はムルソーにあるのか……)

    それを言えば、ムルソーの怒りの沸点はヒースクリフにあるのかもしれないが。

    (俺は……色んな所にあるな。多分。)

    そんな事を考えながら手入れをしていると、扉が開いた音がした。

    そちらを見ると、グレゴールとロージャが一緒に入って来る所だった。

    共振スパナの点検をするようだ。

    ヒースクリフが手を止めてその様子を見ていると、グレゴールは右腕に付けていた鋸を外して作業台に何本か置いてある腕の内1本を取って右腕に付けた。

    ドライバーが付いている腕だ。

    それで共振スパナを慣れた手付きで解体すると、異変を見つけたらしく小さな声を漏らした。

    「ここ、いつの間に改造したんだ?しかもこんなやり方……そりゃコイツも不調になるよ。」
    「ああ……良い案だと思ったのに……」
    「料理でも言うだろ、足し算じゃなくて引き算だって。何でもぶち込めば良くなる訳じゃないんだよ。」
    「…………」
    「これどうにか使えるようにならないの?どうしてもコレは捨てたくないの!」
    「はぁ……とりあえず元々入ってたモーターは外して、どっちも稼働させるって考えは捨てるんだな。冷却出来なきゃこうやって摩耗するだけだからな。まあ……軽く動かす程度なら良かっただろうけどな。」
    「やっぱり良かったでしょ?」
    「今回馬鹿みたいに動かさなきゃな……とりあえずやっとくからムルソーに報告書貰って来いよ。」
    「はいはーい、いつもありがとね、ダーリン♡」

    ロージャが去って行った後、不意にヒースクリフとグレゴールの目が合った。

    「……何だよ。」
    「……料理って引き算なんだな。」
    「……ハーーー……」
    「はははっ!ごめんって。」
    「全く……」
    「……それにしてもおっさん……代表との話し方……ムルソーとの話し方そっくりだな。」
    「はぁ?そっくり?あいつと話してる時と?」
    「なんかしょうがねえな……って言いながら何だかんだ色々やってる感じ。」
    「はあ……まあ、同じぐらい手ぇ掛かるヤツではあるな……隊長も……」

    どんな所で手が掛かるのかは想像が付くので何も聞かないでおいた。

    「……所で、この前……代表と何が」

    ヒースクリフがそう言い掛けた時、本人の知らない内に話題の中心になっていたロージャが騒がしくフロアに入って来た。

    「皆〜〜!今日はピザ取るから好きな具あったら言いに来るんだよ〜‼︎」
    「ぉ……良いなぁ、ピザ……」

    時計を見てみると丁度昼の休憩時間だった。

    「おじさん、何にします?」
    「ん……まあ、余ったもん食うよ。これ終わったらまた外出るし……」
    「余るとは思えねえけどな……」
    「ヒースクリフ君は?何が好きなの?」
    「うーん……まあ……無難にサラミとピーマンかな……下地がケチャップなら。」
    「おっけー。ロージャさんに言って来るよ。」
    「あざまーす。」

    結局、あの日グレゴールとロージャとの間に何があったのかは聞けずじまいだった。

    そして、グレゴールの分のピザもヒースクリフが情けで残した1枚を除けば残らなかった。
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