おや……?ムルソー君の様子が……?ふと寝る前に自分が寝ている間も工房ムルソーが起きて仕事してるんじゃないかと思って眠れなくなってしまったダンテ。
PDAを操作して硝子窓を見てみるといつも映し出されるデスクは珍しく空でパソコンの電源も落とされていた。
(良かった。今日は帰れたんだね。)
知らず知らずの内にカチカチと時計の音を鳴らしていたダンテがそのまま電源を切ろうとすると……
『……ん……ダンテ様、でしょうか……?』
危うく電源を切る所でムルソーの声が遠くから聞こえて慌ててボタンから手を離すダンテ。
〈あ、ごめんね。起こしちゃったかな?〉
『いえ……ふぅ……大丈夫です。寝ていた訳ではありませんので……』
〈なら良いんだけど……って言うか、どこに居るの?〉
生憎硝子窓は特定の状況でなければ視点の切り替えが出来ず、ダンテは暗いデスクを眺めるだけとなっていた。
『床に……ゔ、……おります……』
〈……〉
……「ゔ」?
〈……なんで床に?〉
ひとまず先程の呻き声は聞かなかった事にして状況を聞こうとした。
『……ん……そうする必要がありますので……』
〈………〉
これは……どっちなのだろうか。
いや、ムルソーが嘘をついた事は一度も無いのだから信じるべきだしこの状況ではむしろ邪な考えをするこちらの方が……
『……うっ……!っ、いっ、』
〈……大丈夫……?〉
ムルソーの息が急速に乱れたのを聞いてダンテは動悸が激しくなって来た。
『……問題、ありません……ただ少し痛みが……う、』
〈……もしかして怪我してる?〉
『いえ……外傷は一つもありません……』
ならその呻き声と息遣いは何なんだ。
『……ああ、もしかして……何か、認識の違いが起こっているのではないでしょうか……?』
〈……!〉
漸くこの謎の状況を説明される時が来た。
それも珍しくムルソーから機会が提示された。
『……?グレゴール、何故私の……むぐ、』
〈……えっ?グレゴール、そこに居るの?〉
ダンテは思わず硝子窓を工房のグレゴールの視点に切り替えた。
いつもの喫煙所には居ない事を確認してからムルソーの視点に戻るとデスクの椅子からグレゴールが目元だけを出してこちらを見ていた。
〈グレゴール。居るなら言ってくれても良いのに。〉
『あ〜……ははっ、別に話す必要無いかな〜とか思っちまって……』
〈……なんで?〉
『そりゃだって……隊長にバラされたら困るし……』
〈いや、君達何をしてるんだ?全く分からないんだけど……〉
『え?』
〈私の視点だとデスクとグレゴールの頭しか見えないんだよ。〉
暫しの沈黙の後、グレゴールが目を泳がせながら言った。
『……その……眠気覚ましに……』
〈眠気覚ましに……?〉
『つ、ツイスターゲームを……ひっ、いってててて!』
『ゔっ……』
ムルソーが潰された音が聞こえた。
どう言う体制だったんだろう……
確かめる術も無くその夜は粛々と過ぎていった。