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    グレムル前提のヒスムルの続き
    ヒースクリフの進路の話になってきた
    ムルソー君ほぼ出てこない

    ヒスムル(仮)2あれから3日経った。
    ムルソーの家は外に比べれば何倍も居心地が良かった。

    ムルソーが家を出る前にある程度の小遣いを置いて行ってくれるので安心……とは言えなかった。

    (……これ、完全にヒモじゃねぇか……)

    立派な社会人であるムルソーに対してヒースクリフはまだ学校に通うような年齢だ。
    身を粉にして働いているムルソーを見ていると、やはり多少の罪悪感が芽生えるものだ。

    せめて家事だけでもと行動を起こしたのだが、洗濯する物はそもそも無いし、料理を作っても自分でも不味いと感じる物が出来たり、そもそもムルソーが帰ってこなかったりもした。

    やがて1週間が経ち、それでもムルソーが帰ってこないのでヒースクリフはまた事務所へ向かう事にした。

    事務所の戸を叩くと、強面の男が出た。

    「どんなご用で?」
    「……ムルソーって奴に会いに来たん、ですけど……」

    危うくいつものように話す所だったが、どうにか矯正した。

    「ムルソー?わざわざあいつに?」
    「……何か?」
    「……別に良いけど……行っても意味無いと思うぞ。今電話対応中だし……」

    ヒースクリフが黙って立っていると、男は扉の傍に寄って通るスペースを空けた。

    「まあ、とりあえず中入りなよ。待てるんだったらな。」
    「……じゃあ、お邪魔します……」

    男に付いて階段を登ると、この間見たムルソーのデスクが見えた。

    相変わらず書類と缶が積み重なっており、その山に囲まれるようにしてムルソーが電話を取りながらパソコンに何かを打ち込んでいた。

    ……確かに話が出来る状況ではなさそうだ。

    そう思ったヒースクリフはある違和感に気が付いた。

    「……?なんであいつのデスクだけあんな書類積み重なってるんだ?」

    周囲のフィクサー達が一斉に傍を向いた。

    そのせいで恐ろしい程綺麗な他のデスクが目につく。

    「……あいついじめでも受けてんのか?通りでボロボロな訳だよ。」

    ヒースクリフがわざと声に出して言ってやるとフィクサーの一人が舌打ちをした。

    「いじめじゃねえよ。あいつが全部やるって言うから……」
    「おかしいだろ、あの量は。仕事引き受けるとか出来る範囲でやるだろ、普通は。あいつがあんな馬鹿みたいな量自分で引き受ける訳……」
    「いや……ほんとにそうだからああなってるんだけど……」
    「……」

    ヒースクリフはフィクサー一人一人の顔を見た。

    数人のフィクサーは苛立った顔をしていたが、数人の(数少ない)フィクサーは気まずそうな顔をしていた。

    ヒースクリフは一瞬だけ呆然としたがすぐに眉を吊り上げて向き直った。

    「……それを言い訳にあいつに全部任せて自分達はまったりやってる訳か?良いご身分だな。」
    「人聞き悪りぃな。俺達だって何もやってない訳じゃ……」
    「じゃああれの半分でも終わらせたらどうだ?どうせ暇なんだからよ。」

    ヒースクリフが尚も煽る姿勢で居ると、先程入口で会った強面の男がヒースクリフの胸倉を掴んできた。

    「てめぇさっきからベラベラと‼︎ガキの癖に調子乗りやがって‼︎」
    「調子乗ってんのはテメェらだろ⁉︎ガキに手ぇ出して恥ずかしくねぇのか⁉︎」

    胸倉を掴まれても尚怯まないヒースクリフを見て男が若干怯んだように見えた。

    「ちょっ……二人とも静かに……!」
    「そりゃテメェらみてえな奴らに書類仕事なんか任せらんねぇだろうよ!すぐ飽きてその辺ほっぽりそうだからな!ムルソーが仕事した方が早えだろうよ‼︎」
    「クソ……!このクソガキ……‼︎」

    男の拳が飛んで来る寸前にヒースクリフはその腹を蹴って先制攻撃した。
    その甲斐もあって服から手が離され、ヒースクリフは素早く距離を取った。

    「っは!クソガキに先手取られてどんな気分だ⁉︎ええ?」

    ヒースクリフがそう言って笑ってやった瞬間の事だった。

    「いてっ!」

    コォンッ、と音を立てて何かがヒースクリフの頭にぶつかった。

    見てみると、空の缶が床に転がっていた。

    フィクサー達が盛大に笑い声を上げた。

    「はいはい、そこいらでやめとけよ〜。今電話してんだから……」

    聞いた事のある声が耳に届いた。

    いつの間にかグレゴールがムルソーのデスクの側に立っていた。

    「あんたらも大人げなさ過ぎだって。そんなんだとこいつの言ってる事そのまんまの連中になるぞ?」
    「チッ……」

    ヒースクリフが唖然としてグレゴールを見ていると、グレゴールは持っていた書類を山に追加してもう一つの書類の山を抱えた。

    「今日じゃなくても良いけど早めに頼むよ。んじゃ、よろしく。」

    ムルソーは頷いただけで何も言わなかった。
    ただひたすらにタイプ音だけがその場に響いていた。

    「よし。じゃああんさんも行こうか。」
    「は?なんで俺が……」
    「あいつの邪魔したくないだろ?俺だって忙しいんだから頼むよ。」

    ヒースクリフは釈然としないままグレゴールに服を掴まれて引き摺られていった。

    その時初めて気が付いたが、グレゴールの腕は義手のようでロボットアーム状の手で服を掴まれていた。



    グレゴールは最上階まで階段を登ると、踊り場にヒースクリフを残してオフィスに入った。

    (……この前、やっぱり入っちゃ駄目なとこ入っちまったのかもしれないな……)

    ヒースクリフは階段に腰掛けてじっとしていた。

    (……そう言えば、あのおっさんも隈やばかったな……なんだこの事務所?アリの巣か何かなのか?)

    よく働くアリは働きアリの中でも2割しか居ないと聞いた事がある。
    全く働かないアリも2割で、普通に働いているアリは6割なんだそうだ。

    つまらない授業の中では特に興味深かったので覚えていた。

    (……よく働くアリはムルソーとあのおっさんって訳か。)

    そう思い、自分の立場が更に低い事にヒースクリフは気付かされてしまった。

    (……あんな奴らでも一応はフィクサーなんだよな……でもあれはあいつらが悪い……筈……)

    ヒースクリフが悶々と考え始めると、扉が開く音が聞こえてきた。

    ヒースクリフが扉の方を見るとグレゴールが戻って来たようで、座っているヒースクリフを見下ろしてにやにやと笑っていた。

    「お前さん、見た目の割に待つ事出来るんだな。」
    「……」
    「んじゃ……ちょっと歩きながら話そうか。飯は奢ってやれないけど。」

    グレゴールは2階まで降りると扉を開けてヒースクリフに付いてくるように促した。

    この前うっかり入ってしまった場所だ。
    今日は時間帯的に人が多いのか作業音が聞こえてきた。

    「それにしてもお前さん、よく口回るなぁ。」

    グレゴールがアームを取り外しながらそう言った。

    「ま、あれで変わるんだったらあいつが苦労する事も無いんだけど。」

    そして身の丈と頭二つ程しか変わらない鋸を右腕に取り付け始めた。

    「……あ〜……そうだな……ちょっと愚痴でも聞いてもらおうか?」

    グレゴールはこちらを振り向いて不気味にニッと笑った。

    「……それは良いけどよ……歩きながらってのは何だ?虐殺ショーでもすんのか?」
    「現場に向かう間の事だよ。着いたら仕事終わるまで待っててもらうからな。」

    ヒースクリフは黙ってグレゴールについて行った。
    グレゴールは重そうに鋸に手を添えながら歩いていた。

    「ムルソーの仕事量、異常だろ?」
    「……おっさんも分かってんならなんでさっき増やしたんだよ?」
    「仕方無いんだよ。実際あいつに任せればちゃんとやってくれるし。自分の仕事人に押し付ける奴よりもよっぽど信用出来るし仕事も出来るもんだからさ……み〜んなムルソーのとこに仕事持ってくんだよ。」
    「……あの状態のとこに更に仕事増やしに行くとか頭おかしいとしか言いようがねえんだけどな。」

    グレゴールを怒らせるのが何となく怖かったのでヒースクリフは声を潜めてぼやいた。

    「でもさ、ムルソーもムルソーで断らないんだよ。なんでだと思う?」
    「……正常な判断出来てねぇんじゃねえの?」
    「残念な事に正常なんだよ、あいつは。」
    「……は……?」

    グレゴールは溜め息を吐いて続きを話した。

    「あいつ、事務処理も電話対応も外勤……まあ、対人戦って言うか……とにかく何でも出来るもんだからさ、あいつ自身もそれを自覚してるんだよ。自信あり過ぎるって言うか……俺もそんなに理解出来てる訳じゃないんだけどさ。多分あいつ、心の中で他の奴らの事自分よりも下に見てるんだよ。」
    「……じゃあなんでそんな奴らの仕事引き受けてるんだよ。俺だったら絶対やんねぇぞ。」
    「それがな……自分より無能だからこそそんな奴に仕事任せられないって思ってるらしいんだよ、ムルソーは。」

    ここでグレゴールは建物と建物の間に進んだ。
    かなり狭いので二人で蟹歩きをする事になった。

    「かと言って仕事熱心とも言えないし……なんて言うか……これがあいつの性分だからどうしようもないんだよな。」
    「……だからって放置すんのかよ。」
    「出来る事と言えば無理矢理寝かせる事ぐらいだよ。まあ、とにかく……アレはあいつにも問題があるって事だ。あの事務所自体そんな良いとこじゃないってのもあるけど。分かったか?」
    「……」

    正直な所、ムルソーがそこまでの人間だとは思わなかった。
    ヒースクリフと感性が違う事は分かっていたが、それでもヒースクリフからすると複雑な気持ちになる事に変わりは無かった。

    「……納得行ってなさそうな顔してるな?もしかしてお前さんが思ってた奴じゃなかった感じか?」
    「……何でもねーよ、オッサン。」
    「はは、分かりやすい奴だな。」

    グレゴールは少しの間沈黙した後、小さな溜め息を吐いた。

    「まあ、ちょっと安心したよ。意外としっかりしてて。」
    「何だよ、意外とって。」
    「だってお前さん、ムルソーの家の鍵失くしたんだろ?見た目もヤンキーみたいだし。」
    「……」

    ぐうの音も出ないとは正にこの事だろう。

    「とにかく……あいつの味方してもあいつから梯子外されるからさ。その前に話しておこうと思ったんだよ。」
    「随分知った風な口利くな。」
    「そりゃあお前さんよりは知ってるさ。家に泊まってはいるけど実際そんな話した事無いだろ?お前さん。」

    どこか愉快そうに視線を向けてくるグレゴールに対してヒースクリフは何も言い返せなかった。

    「……所であんさん、今日はなんで事務所まで来たんだ?」
    「いつ帰るか確認しておきたかったんだよ。」
    「何でだ?」
    「……せっかく作ったメシが無駄になっちまうから。」
    「へぇ……?お前さん、ムルソーの為に作ったのか?」

    グレゴールが面白そうに訊ねてくる。

    「……何だよ。別に良いだろうが。」
    「なんで怒ってるんだよ、お前さん?ただ質問してるだけだろ?」
    「……さっきからカンに障るんだよ。」
    「何が?」
    「……色々だよ。」
    「思春期ってやつは困ったもんだねぇ。」
    「……それが一番ムカつく。」

    グレゴールはヘラヘラと笑うと、漸く建物の隙間を抜けて鋸を弄り始めた。

    「んじゃ、ここで待ってな。すぐ戻るから。」

    グレゴールはタートルネックを鼻まで上げて建物の中へ入っていった。
    隙間を通って行ったのは裏口から侵入する為だったのだろう。

    「……」

    不覚にも建物に入って行ったグレゴールの姿に男心がくすぐられたヒースクリフは何とも言えない気持ちでその場に座って、待ち時間に自分の将来の事を考えていた。

    独り立ちする為にはやはり金が必要だ。
    収入面を考える上でフィクサーになる事も考えてはいたが、いざフィクサーに対面してみると不安が込み上げてきてしまった。

    ……本当になれるのだろうか。

    仮に免許を取得しても、ちゃんと自分に仕事が出来るのだろうか。

    そんな考えで頭が一杯になり、ヒースクリフは頭が痛くなった気がした。

    ……あの工房で働けば、ムルソーに対する罪悪感も軽くなるだろうか?

    不意にそんな考えが頭に浮かび、ヒースクリフはハッとした。

    「……これ……良いんじゃねぇか……?」

    頭が軽くなったような気がして、ヒースクリフはいつの間にか立ち上がっていた。



    「……」

    血塗れになって帰ってきたグレゴールに早速その事を話すと、グレゴールは暫し困惑した顔をしていた。

    話した後にヒースクリフも気付いたのだが、先程まで反抗的だったのに態度を変えていきなり自分の将来の話を聞かせたのだ。
    当然困惑するだろう。

    「……お前さん……怒らずに答えてほしいんだけど……武器作ったり書類処理したり出来んのか?」
    「……あ……」

    目指す前から躓いてしまった。

    「はは、いや……お前さんがムルソーに恩を返そうとしてるのは伝わってくるよ。うん。でも他にも事務所あると思うんだ。」
    「ッ……じゃあどこ行けって言うんだよ⁉︎」
    「俺に聞かれても困るんだけど……」

    出鼻を挫かれたヒースクリフはいつもの調子に戻ってしまった。
    それどころか八つ当たりじみた事を言ってグレゴールに正論で返されてしまった。

    「……ああ、でも……」

    グレゴールが何か思いついたようにそう呟いたのでヒースクリフが視線を向けると、グレゴールが何やらニヤつきだした。

    「……一つ提案があるんだけど、聞くか?」
    「何だよ、勿体ぶりやがって。」

    グレゴールは急に馴れ馴れしくヒースクリフの肩に手を置いて(謎に)声を顰めて話し始めた。

    「実はさ……あの事務所から出て行こうと思ってるんだよ。自分の工房持ってさ。ムルソーも連れて行こうと思っててな……」

    ピクリと反応したヒースクリフを目ざとく捉えたグレゴールはくつくつと笑った。

    「お前さんさえ頑張ってくれればあの工房にぎゃふんと言わせる事が出来るんだけど……どうだ?ちょっとだけ頑張ってみないか?」
    「……」

    ヒースクリフは暫く沈黙した後、ゆっくりと頷いた。

    そしてにこやかに笑って身を離し、先を行くグレゴールの背中を追った。

    「……おっさん、タバコ吸うのか?」
    「吸うけど?どうしたんだ、急に?……あ、もしかして奢って……」
    「そんな金無えよ。……その、さ……ムルソーも同じ匂いしたから吸ってるのか聞いたら吸ってないって言うから……」
    「……」

    心無しか、煙草の匂いが先程よりも強くヒースクリフの鼻をついた。

    「……ふぅん。」

    グレゴールは笑い混じりなのか声を低めているのか判断のつかない息を漏らしてスタスタと歩いて行った。

    「……あ、そうだ。」

    先程の建物の隙間を抜けた所で突然グレゴールが思いついたように声を発した。

    「ムルソーの事なんだけど……多分あと数日は帰らないだろうから料理練習しといたらどうだ?」
    「……なんでそんな事おっさんに言われなきゃなんねぇんだよ?」
    「出来れば軽く食える物が良いぞ。お粥とか……あいつ、家帰ったらすぐ寝たがるだろうから。」

    訳の分からないままついて行くと事務所の扉の前で手を振られた。

    「じゃ、また今度。」

    ヒースクリフは釈然としないままムルソーの家へ帰る事になった。
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