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    グレムル前提のヒスムル3
    ラッキースケベの巻

    ヒスムル(仮)3「……」

    家に帰り、テレビをぼんやりと見ながらヒースクリフはかれこれ10分考え続けていた。

    それは家の事でもなくフィクサーの事でもなく、ムルソーとグレゴールの事だった。

    喫煙者ではないのにグレゴールと同じ煙草の匂いがするムルソー。
    ムルソーの家の合鍵を持っていたグレゴール。
    グレゴールの妙な態度。

    (……付き合ってんのかな……)

    前々から気になっていた事ではあるが、ここに来て点と点が線になったような気がした。

    ……だとしても、だ。

    (……あんな隈酷い状態でやってんのかな……)

    そんな邪な考えにヒースクリフは誰も見る人間が居ないと言うのに隠すように口元を手で覆っていた。

    いや、むしろ疲れているからこそ出来るのかも……

    (〜〜〜っ!くそ!やめだやめだ!)

    ヒースクリフはテーブルを叩いて立ち上がり、夕食の準備を始めた。

    適当に野菜を切り、米と一緒にフライパンに放り込んで塩で味付けをして炒める。
    料理の知識など一切無いヒースクリフはこうして適当に素材を放り込んで作っていた。

    美味いから良いだろ、の精神だ。

    炊飯器の米が使える状態ではなく、米を炊く為に家中の棚をひっくり返して炊飯器の説明書を探したのももう昔の事のように感じられた。

    出来上がったチャーハンもどきを皿に乗せてテーブルに運んだ瞬間、玄関のチャイムが鳴った。

    (誰だ……?)

    扉の覗き穴を確認しに行くと、ムルソーが扉の前に立っていた。

    何故チャイムを?と思ったが、すぐにヒースクリフが鍵を持っているからだと気付いて扉を開き、ムルソーを玄関に入れた。

    「おう、おかえり。まだ合鍵作って……あ、いや、何でも無い……」
    「暇が無かった。それに……貴方が家に居れば鍵を作る必要は無いと思った。」
    「?この前おっさんに頼まれてなかったか?」

    ムルソーが少しの間フリーズした。

    「……あ……」
    「……良いのかよそんなんで……これじゃホントに仕事が恋人って言われても仕方ねえな?」
    「……」
    「……あ。」

    ムルソーが首を傾げて初めて自分の失言に気がついた。
    グレゴールと恋人同士だと知っている上で言ったように思われても仕方の無い発言だった。

    ヒースクリフが必死に言い訳を考えていると……

    「……仕事は人ではないしましてや恋愛対象でもない。貴方の中では仕事は恋愛対象なのか?」

    斜め上の返事が返ってきた。

    「んな訳ねえだろ。仕事した事ねえんだし……それより、メシは?」

    上手い事話題を逸らせた自分にヒースクリフは心の中でガッツポーズをした。

    「まだ食べていない。……作ってくれるのか?」
    「あー……さっき一人前作った所……食いてえならもう一食作るけど……」
    「…………では、頂こう。」
    「……何だよ、その長い間は。」

    リビングに移動して、ヒースクリフはテーブルのチャーハンもどきを指差した。

    「これ、あんたの分な。ちょっと冷めてるかもしれねーけど……」
    「……良いのか?」
    「どっちにしろ作んなきゃダメだろ?まあ、その……あったかい内に食えよ。」

    ムルソーが頷いたのを見てヒースクリフは自分の夕飯作りに取り掛かった。

    食器を洗い、野菜をぶつ切りにし、米と一緒にフライパンに放り込んで塩を掛けて炒める。

    この間、2人は無言だった。

    途中でムルソーを横目で見てみると空の皿を見つめている所だった。

    出来上がったチャーハンもどきを皿に盛り付けてテーブルに運ぼうとした時。

    「もう一皿頼みたいのだが……」
    「もっと早く言えなかったのか!?」


    二度手間ならぬ三度手間を掛けさせられたヒースクリフは顰めっ面で本日3食目の(実際はこれが初めてだが)チャーハンもどきを食べていた。

    ムルソーは料理を炒めている最中に皿を洗って風呂に入ったのでヒースクリフは一人で食べる事になっていた。

    味はまあまあだった。

    これをおかわりしたムルソーにとっては美味しい物だったのだろうか、と思った時にはたと気が付いた。

    (……あいつ、いつ風呂入ったんだっけ?)

    浴室の扉の開閉音も、ドライヤーの音も聞こえてこなかった。

    嫌な予感がしてヒースクリフは浴室に向かった。

    あれだけ食べたのだ。
    食後に眠気が一気に襲って来てもおかしくはない。

    浴室の扉を開けると、案の定ムルソーが壁にもたれかかって眠っていた。
    浴槽でなかったのは不幸中の幸いだが、だからと言って危険が無い訳ではない。

    「おいっ‼︎起きろ‼︎」
    「……ん……ぅ……」

    肩を掴んで揺さぶると、ムルソーが呻き声を上げた。

    薄く目を開いてこちらを見る。

    体は温かかったが、それでも冷たい方だった。

    「ハァ……とりあえず一旦上がるぞ。ほら、立てよ。」
    「ぅ……」

    腕を引き上げようとするとその重さを思い知る事になった。
    眠気からなのか他の理由からなのか体に力が入っていないようで、引っ張られている腕が痛そうな程持ち上がらなかった。

    「ぐッ……くそ……ロクな生活してねえくせになんでこんな重いんだよ……!」
    「っく……すこし……まってくれ……」

    ヒースクリフが引っ張るのをやめると、ムルソーは壁に手をついてゆっくりと立ち上がった。

    「……そんなフラフラならなんで風呂入ろうとしたんだよ……危ねえな……」
    「……髪が……ベタついているのが、ずっと気になっていた……」
    「じゃあ定期的に帰れるように引き受ける仕事の量調節しろよ。ったく……」

    ヒースクリフはなんとなくムルソーの腕に手を添えていたが、ムルソーは無事に洗面室に出た。

    「……拭けるか?」
    「……ああ……ぁ……」
    「ちょっ……!」

    タオルを渡した瞬間に倒れ込みそうになったムルソーを支えようと手を伸ばした。

    「……ぁ……、」

    その手が、胸を包んだ。

    指先にはふにゅりとした触感が、手のひらには硬くなった乳首が擦れる触感がした。

    何よりも驚いたのが手に体重がかかっており、そのせいで手がムルソーの胸に沈んでいる事だった。

    ヒースクリフはしっとりと濡れた胸から手を離せずに呆然としていた。

    「……ヒースクリフ?」
    「ぅ、ぉわッ‼︎何だよ⁉︎」

    ムルソーからの呼びかけに慌てて手を離して顔を見ると、ムルソーも困惑しているようだった。

    「……意識がはっきりしていないようだが、大丈夫か?」
    「お前に言われたくねえよ……俺は、その……ちょっとぼーっとしてただけだ!」

    ヒースクリフはそう叫んで洗面室を飛び出して扉をものすごい勢いで閉じた。

    手を洗い、どうにか頭を落ち着かせようとチャーハンもどきを食べ始めた。

    理由は自分でも分からない。
    それでも、何故か動揺していた。

    うっかり触ってしまった事にだろうか。
    触った感触が手に馴染んだ事にだろうか。

    ……グレゴールが触った可能性がある場所を触ってしまったからだろうか。

    「……、」

    ピン、と音が鳴ったような気がした。

    (……これだ……)

    自覚した途端に一気に体温が上がったのを感じて汗が滲んだ。

    自覚してしまってはもう取り返しがつかない。

    頭の中がその考えで一杯になってしまった。

    どうにか残りの米を口に運んで食べきったが、皿を洗おうとした所で風呂上がりのムルソーと目が合ってしまい、余計に体温が上がってしまった。

    サラサラの髪を下ろしてしっとりとしていそうなムルソーの肌が目について妙に鼓動が高鳴る。

    「……ヒースクリフ?」
    「う、な、何だよ。」
    「やはり先程から様子がおかしい。何かあったのか?」
    「いや、ほんとに何でもねえって……ただ……」
    「ただ……?」
    「……さっきは……その、胸触っちまって悪かった。」

    ムルソーがぽかんと口を開けた。

    「……それを気にしていたのか?」
    「……」

    ヒースクリフがムルソーから目を逸らしながら頷くと。

    「……それは構わないのだが……何故、貴方がそんなに気にしているんだ?」
    「え?」

    確かにそうかもしれない。
    普通であれば「ごめん」の一言で済んだ筈だ。

    これではまるでムルソーを意識しているみたいじゃないか。

    「……」
    「……もしかして……私の体に興味が」
    「ねぇよ!!これっぽっちも!!」

    ムルソーに皿を押し付けて、そのまま玄関まで走るとヒースクリフは訳も分からず家を飛び出してしまった。

    自分でも不思議な程のスピード感だった。

    この逃走が余計にヒースクリフの焦りの原因を裏付ける事になるのをこの時まだヒースクリフは気付いていなかった。
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