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    act243129527

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    グレムル前提のヒスムル4
    ラッキースケベからの玉ヒュンからの……

    ヒスムル(仮)4「……で?結局俺んとこに来た理由は何なんだ?」

    煙草の匂いが充満する部屋の隅でヒースクリフは体育座りをしていた。

    家主であるグレゴールはインスタント麺を啜りながらその様子を眺めていた。

    走っている途中で息切れしたヒースクリフは偶然グレゴールに出会し、部屋を借りる事になった。
    途中まで不服そうだったグレゴールが何かを思い付いたように了承したのは気になったが、ヒースクリフはありがたく家に駆け込んだ。

    「……」
    「何だよ、だんまりして。喧嘩でもしたのか?」
    「……俺が……一方的にキレた……」
    「まあ、そうだろうな。で?理由は?」
    「……」

    チラリとグレゴールを見やる。

    グレゴールは頬杖をつきながら冷めた目でこちらを見ていた。

    「……ムルソーが……風呂入ってたら寝てて……起こして上がらせた時に……」
    「見たのか?でかいの。」
    「いや……そんな凝視してなかったけど……てか、なんで知ってんだ?」
    「続きは?」
    「……あいつがふらついたから支えようとしたら……む、胸……触っちまって……」

    最後の方は口をもごもごさせながら話した。

    ……だって、相手はムルソーと関係を持っていそうなグレゴールで。
    現に今冷たい対応をされていて。
    明らかにこちらに敵意を持っていて……

    何故こんな奴の部屋に転がり込んでしまったのだろうと頭を抱えた。

    「……っぷ、」

    グレゴールが吹き出してくつくつと肩で笑い始めた。
    ヒースクリフにとってはそれが怖かったのだが。

    「うっかり胸触っただけで……家出……?」
    「……」

    グレゴールはひとしきり笑った後、椅子から立ち上がってヒースクリフの方へ近付いてきた。

    そしてヒースクリフの正面に立つと……

    太腿の間に足を割り込ませてきた。

    「……ぇ……?」

    冗談では済まされない程恐ろしかった。
    少しでもグレゴールが動いたら靴底がそこを踏む寸前の位置だったからだ。

    「……お前さん……タチか?ネコか?」

    恐る恐る見上げるとグレゴールは目を細めてにっこりと笑っていた。
    ヒースクリフが息を荒くして答えられずに居ると。

    「トップか?ボトムか?」

    答えなければ踏み付ける、と言う無言の脅しのように思えて、ヒュッと音が漏れた。

    「……ぅ、上……」
    「……」

    思わず正直に答えてしまった。

    「……お、女に、限った話だからな……?別に、ムルソーに対してそうしたい訳じゃ……」
    「じゃあなんで胸触って顔真っ赤にしちゃったのかな?」
    「そ、そんなのしらな……分かんねえから、ここまで……なぁ、足、退けてくれよ……怖えよ、あんた……」

    グレゴールは暫くニヤニヤとヒースクリフを見下ろした後、ケラケラと笑ってゆっくりと足を退けた。

    「良い反応してくれるなぁ、お前さん。」
    「冗談じゃねぇ……こっちはマジでビビったんだぞ……」

    グレゴールは椅子に座って残りの麺を啜り始めた。

    「……お前さん、俺達の関係察してるだろ?」
    「……」
    「そう身構えなくて良いよ。別にバレた所で何も変わらないだろうし……」
    「……何だよ。変に勘繰ってた時間は無駄だったって事か?」
    「そうなる……のかね。俺達2人とも聞けばすぐ答える奴だったし。」
    「……」

    ヒースクリフは思わず顔を顰めてグレゴールを見た。

    「つーかお前さん……家帰らないのか?」
    「……帰る理由が無いだけだ。」
    「でも、俺達と同じフィクサーになるんだろ?そうなると家に帰ってやる事があると思うんだけど。」
    「……ッ……」

    ヒースクリフは何かを言い返そうと顔を上げたが、結局何も言えずにまた俯いた。

    それが事実だと言う事は分かりきっていたからだ。

    「……そんなに帰りたくない理由があるのか?」
    「……家の奴ら全員、見ててムカつくんだよ……」

    組んだ腕に、無意識に爪を立てた。

    「皆俺が何やっても駄目だからって、馬鹿にしてるのを態度で出してくるんだよ。どうせお前は馬鹿なんだから出来る事も少ないだろって言って適当な店のバイト目指した方が良いってずっと言って来やがって……俺がこれでも頑張ってる事だってまともに見ねえんだ。認めたくないから見ようとしてねぇんだろうけどな。」

    頭の痛みを誤魔化すように短く乾いた笑いを漏らした。

    「……うんざりしてたんだ。あんな奴らと家族って事に。あんな奴らと一緒に暮らしてるって事に。あんな奴らに……養ってもらってる事に。だから出て来てやったんだ。仕事を探そうとして……」
    「……その様子を見るに無かったんだな。」
    「ああそうだよ!俺が出来る事なんて結局何にも無かったんだ!俺は……ただの世間知らずのガキだった……」

    話していると涙が滲んできて、それが溢れないように耐えていた。

    「……それでも、家に帰りたくなかったんだよ。あんなとこ帰るんだったらのたれ死んだ方がマシだからな……うろうろしてたら音が聞こえて来て……ムルソーが、路地で戦ってるのを見たんだ。」

    火花を散らしながら高速で回転する歯車。
    それが取り付けられたハンマーを振るって大人数を捌くムルソーの後ろ姿。

    火花の光と、翻る薔薇色の上着から目が離せなかった。

    不思議とあの姿を見ていても、自分の将来への不安は浮かんでこなかった。

    ヒースクリフの胸に光が届いたような、そんな感覚だけがあった。

    「……かっこよかったんだ。」

    頭の中が空っぽになるくらい、見入ってしまう程に。

    自分もあんな風になりたいと思う程に。

    「……そうか。」

    グレゴールは手を止めてヒースクリフの話をじっと聞いていた。

    「だから甲斐甲斐しく飯作ったりしてたんだな。」

    その言葉にヒースクリフは顔に熱が集中するのを感じながらグレゴールを見上げた。

    「へへ、照れちゃって。可愛いな。」
    「可愛いって何だよ、気色悪りぃな……」
    「照れてるくせに。やっぱお前さん、見た目の割にちょっと子供っぽいな?」
    「うるせぇ……」

           *  *  *

    結果としてグレゴールの家に泊まる事になったヒースクリフは家主不在の部屋の片付けに掛かっていた。

    昨日も気になってはいたのだがこうして見てみると凄まじい荒れようだった。

    [鍵置いとくから部屋の片付けヨロシク♡]

    ヒースクリフが目をさました時には既にグレゴールは居らず、テーブルにこんな置き手紙(裏紙に汚い字で書かれた物だが)と共に鍵が置いてあった。

    グレゴールは本気でヒースクリフに金をかけるつもりは無いらしい。

    (……そもそもムルソーが優しかっただけで小遣いとか当たり前じゃないんだよな……)

    ヒースクリフはしみじみとそう思い直しながらゴミ袋に色々な物を放り込んだ。
    勿論分別は忘れずに。

    空き缶、プラスチックの袋、カップ麺の容器、ペットボトル、チラシ、新聞、ティッシュ、千切れた輪ゴム……

    「…………きたねぇ!!!」

    ゴミを一掃しても埃だらけ抜け毛だらけな事に変わりはない。
    かなり綺麗になった方ではあるがやはり根本的な問題が至る所にあった。

    そもそもムルソーの家が綺麗過ぎたのかもしれない。

    一瞬そう思ったがやはりこの部屋が酷いのだと考えを改めた。

    ムルソーの家の状態を巣と表すのであればグレゴールの家は間違い無く裏路地だろう。

    「ゴミぐらいちゃんと捨てろよ……どんな脳ミソしてんだよあのオッサン……」

    気付けば愚痴と悪口がかい混ぜになって口をついて出て来ていた。

    全部屋の物を退かし古い形式の掃除機を掛けて、床を拭いて水場の掃除もしてゴミを捨てに行き、窓を開けて換気をした頃にはもう夕方になっていた。

    「……なんかスッキリしたな。」

    多少の汗をかいて運動した気分になると、突然体が空腹を訴えて来た。

    「そういや今日何も食ってなかったしな……なんか食うか……」

    ヒースクリフは何の疑いも無く冷蔵庫を開いた。

    そう、何も疑っていなかったのだ。

    「……は?」

    冷凍庫、野菜室も開いてみたが、何も無かった。

    本当に、すっからかんだった。

    何ならコンセントも刺さっていなかった。

    昨日食べていたのだからストックがある筈だと思ってカップ麺も探したが本当に何も無かった。

    「……あの野郎……」

    恐らく故意では無かったのだろうが小遣いも無いのではどうする事も出来ない。

    「……あ、そうだ。ムルソーん家に帰れば良いじゃねぇか。」

    ムルソーの家ならば材料がある筈だ。

    「よし、帰るか。」

    一応家の鍵を閉めてヒースクリフはムルソーの家へ向かった。

           *  *  *

    「……」

    ヒースクリフは回らないドアノブに手を掛けたまま暫く固まっていた。

    鍵が閉まっていた。

    慌てて周りを必死で探すが、どこにも鍵は置いてなかった。

    ポストに手を突っ込んでも何も手応えは無かった。

    「……嘘だろ……」

    ムルソーの事だ、恐らくもう出勤しているだろう。

    (……事務所……行くか……)

    ヒースクリフは事務所への道をとぼとぼと歩き始めた。
    胃は最早空腹を通り越して腹痛を訴えていた。

           *  *  *

    「……」
    「……おい。」
    「何だ?」
    「通せよ。俺はムルソーに用があるんだ。」

    ヒースクリフは事務所の入り口で通せんぼされていた。

    相手は勿論あの時の強面だ。

    「それが人に物を頼む態度か?」
    「誰がテメェなんかに腰低くするかよ。クソ……急いでんのに……」
    「ならやる事があるだろ?」
    「……チッ……」

    トラブルを起こすのも面倒だ。
    穏便に事を済ませた方が良いのはヒースクリフも分かっていた。
    分かっていたのだが……どうにも癪に障った。

    5分程膠着状態を続けてもどちらも態度を改めなかった。

    「……いつまで続ける気だ?ガキ。」
    「……どうせお前は暇だから良いだろ、こんぐらい時間使っても。むしろこれだけで残業手当出るんだからボロい商売だよなぁ?」
    「また煽りやがって……今回はてめぇの味方なんか居ねえんだぞ。良いのかそんな口利いて?」
    「良いよ、好きに殴ったらどうだ?そうなったら困るのはそっちだと思うんだけどな。」
    「先に殴って来たのはてめぇの方だろうが。」
    「別に?全然気にならねぇけど?お互い様なんだからな、どっちにしたって。」
    「……」
    「……退けよ、オッサン。」

    不毛な言い争いが続いた。
    だがどちらも手を出さなかった。

    仲裁する人間も居ないので二人は結局膠着状態から脱する事が出来なかった。

    そんな時だった。

    「……おや?そんな所でどうされたのでありまするか?」

    場違いな程明るい声が建物の中から聞こえて来た。

    「女……?」
    「げっ……」

    強面が顔を歪めてそっと入口から離れた。
    中から顔を覗かせたのは金髪の少女だった。

    「お客様でございまするか⁉︎今日はどのようなご用件で……」
    「あ、あーいや、こいつは……厄介な奴なんだよ!だから追い帰そうと……」
    「厄介な……と言うと……?」
    「こいつが勝手に言ってるだけだ。俺はムルソーに用があるんだよ。ちょっと話したいだけなんだ。」
    「ば、馬鹿!こいつをムルソーんとこに……」

    強面が何か言おうとしていたが、少女は目を輝かせてヒースクリフを中へ招き入れた。

    「では!どうぞ中へ!当人が案内しまする!」
    「おー、ありがとう。」

    ヒースクリフは強面にニヤリと笑ってやりながら階段を上がって行った。

    「ムルソー君!お客様……が……?」

    少女は意気揚々とムルソーのデスクに近付いて、足を止めた。

    「……?」

    何故かその場の空気が凍り付いたような気がした。

    「……む、ムルソー、君……?その、書類は……?」
    「こ、これはその……ムルソーがやりたいって言うから……な?」

    強面が周りのフィクサーに同意を求めてその通りに頷いて返された。

    その間もムルソーは黙々と手を動かしていた。

    「……やりたいとは言ってないと思うんだけどなぁ?」
    「ぐっ……てめぇ……!」

    ヒースクリフが一声投じてやると、少女がバッとこちらを振り向いた。

    「お客様にてめぇ呼ばわりとはなんたる事か!」
    「こ、これはちが……」
    「ああ、問題だよなぁ?この前こいつ俺の胸ぐら掴んできたんだよ。」

    少女の目がカッと開かれた。

    「ついでに言うと、こいつらムルソーが断らないのを良い事に好き勝手仕事任せてやがるからな。」
    「や、やめ……!」

    強面とその場のフィクサーが慌てふためく中、少女は一歩踏み出して……

    強面の胸ぐらを震える手で掴んだ。

    「……そなたは……誠にフィクサーであるか……?こんな……非道な事をして……誠にフィクサーだと名乗るつもりか⁉︎」

    ぶんぶんと強面が揺さぶられていた。

    周りの反応を見るに、これは予想外の出来事のようだった。

    「ムルソー君がこんなに苦労していると言うのに……!何故そんなに平然としていられるのだ⁉︎ムルソー君は我等の仲間ではないか‼︎協力し合ってこその仲間ではないのか⁉︎」

    (……なんか始まった。)

    これがヒースクリフの率直な感想だった。

    「ムルソー君!困った事があれば相談してくれても良いのですぞ⁉︎共に苦難を乗り越えてこそ仲間ではありませぬか!」

    少女は強面を放るようにして手を放してムルソーに向き合った。

    「……?」

    ムルソーは怪訝そうな顔を少女に向けていたが、少女は構わず書類の半分を小さな両手に抱えた。

    「それは私に任せられた……」
    「良いのだ!私が半分を背負おう!もう半分はこの階の皆で分担するのだ!異論はあるまいな⁉︎」

    その場のフィクサー達は嫌々頷いた。
    明らかにそう見えた。

    「……では、お願いします。」

    ムルソーも少女が言って聞かない事を知っているのかそれを受け入れた。
    少女は大きく頷いて駆け足でオフィスを去っていった。

    「……やべえ……どうしよう、代表にバラされたら……!」

    フィクサー達は頭を抱えているようだったが、ムルソーはヒースクリフを見て目を見開いていた。

    「あー……客ってのは俺の事なんだけど……」
    「何かあったのか?」
    「あんた、家の鍵閉めてっただろ?だから鍵貸してほしいんだけど……」
    「ああ……すまない、忘れていた。」

    ムルソーは手早く鍵をヒースクリフに渡すと、サッとパソコンに向き直った。

    「じゃ……」
    「……所で。」
    「え?」

    てっきり終わったと思っていたヒースクリフはムルソーに呼び止められて驚いて振り向いた。

    「昨日は何故気を取り乱していたんだ?」
    「……」

    ヒースクリフはしんと静まり返ったオフィスを見回した。

    全員がこちらを見ていたが慌ててすぐに目を逸らした。

    「その答えがまだ分かっていない。貴方にその気があったからこそ取り乱していたのではないのか?」
    「……へ、は……っ、い、いきなり何言って……」
    「私は構わないが……今度からははっきりと言った方が良い。その方が貴方の為にもなる。」

    色々な事で頭が爆発寸前に陥っていた。

    周囲の視線。
    人前でそんな事を話すムルソー。
    自分の気恥ずかしさ。
    「構わない」と言う言葉。

    最後の言葉が特に大きかった。

    「……何だ?お前らそんな仲だったのか?」
    「うっせえ!!ちげーよ!!ハゲ!!」

    ヒースクリフは湯の沸いたやかんのようになりながら事務所を駆けて出て行った。


    「小学生かよ。」
    「あいつ絶対ムルソーの事好きだろ。」
    「なあムルソー。あいつとどう言う関係なんだよ?」
    「ただの同居人です。貴方の仕事はドンキホーテが持って行きましたので進捗の確認はドンキホーテにお願いします。」

    ムルソーはフィクサー達に囲まれて黙々と作業しながらも頭の中にヒースクリフの姿が燻っていた。

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