疲れたからドーナツを食べよう(仮題)午後五時半、青葉台駅。青葉の神は疲弊していた。
「今日、ハード過ぎでしょ…休日が休日じゃない…」
時は戻り、午前七時。
学校の卒業式ということで、珍しく平日に休みが出来たと喜んでいた青葉の神だったが、神奈川の神はそれを見越し、容赦無くスケジュールを詰め込んでいた。
「九時からボーカルレッスン、十一時から次のライブの打ち合わせ、昼休憩を挟んで十三時半からレコーディングの続き、それから…」
スマホ越しにつらつらと予定を並べられ、段々頭が痛くなってくる。
「神奈川さん…流石に詰め込み過ぎじゃない…?折角お休みなんだし、もうちょっとゆっくりでも…」
「何を言っているんだ青葉。いいかい、僕も君も普段はアイドル業にあまり時間を割けない。だから、こういった空いている時間を有効活用しないと、他のアイドルに差をつけられないんだよ。そもそも君と違って、僕は普通に平日の筈だったんだが…」
「分かった、分かった!が、頑張るよ!!また後でね!!」
神奈川の神の愚痴を遮って通話を切り、青葉の神は半ばやけくそで家を出るのだった。
そして午後五時半。予定はまだ残っている。
「これから撮影かぁ…なんで夜にやんなきゃいけないのかな……」
不満を垂れつつ、改札を出てスタジオに向かう。
「……お腹、空いたなぁ」
手軽に食べられるものは無いかと、辺りを見回す。駅まえの店舗を歩きながら眺めていると、ミスタードーナツが目に留まった。
「…ドーナツ、か」
看板を見ているうちに何となく甘いものが食べたくなってきて、店内に足を運ぶ。
「あ、期間限定の桜ドーナツだ…こっちは新商品…って、ま、迷ってる時間無いじゃん…!!」
結局、トレイの上に乗っているのはいつも注文しているいちご味のオールドファッションだった。
レジに進もうとすると、神奈川の神から集合時間三十分前だと着信が来た。
「もう、そんなに急かさなくたって良いのに」
了承のスタンプを送り、スマホをポケットにしまう。ふと、棚にあるエンゼルクリームが目に付く。丸い形状と網目状にかかった粉砂糖が、なんだか亀の甲羅のように見えた。
「…神奈川さんのも、買って行ってあげようかな」
エンゼルクリームを一つトレイに乗せ、今度こそレジへと向かった。