天の裂け目より来たる火がその大火は比喩ではなく天から降ってきたとしかいいようのないものだった。
江南では珍しく晴れ渡った空に雨の代わりに降ってきた火は、脈絡も何もなく建物や人間に燃え移り、人々を阿鼻叫喚に陥れた。
消火部隊は間に合わず、水にさえ火が燃え広がっていく。
自分の住んでいる住宅の同居人を被害が少ないらしい避難所に移動させた杜甫は、もつれる足を叱咤しながら全力で走っていた。
手遅れでなければいい、そう思いながら疾走していたその最中、
「おお子美殿、そんなに急いでどこにいく?」
燻る炎の点在する繁華街の中、探していた当の人物からかけられたいつも通りの声に驚いて蹴躓いたのだった。
途端にあはははは、と笑いながら差し伸べられた手に、こちらの気も知らないで、とキッと睨みつける。
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