春のうららの「こんなところで寝ないでくれ、太白殿!」
念願の江南全体をつなぐ大運河が全面開通したその日、宵闇の中の提灯行列、そこここで炸裂する祝いの爆竹の中、その喧騒から少し外れた場所で張りあげる声一つ。爛漫と咲き誇る桜の大木の下、二人の酔っぱらいが押し問答を繰り広げている。
「春花のれすとらんに行くんだろう、もうあの限定酒を出してる店はあそこしかないんだから。」
埒があかぬと脇に手をさし込み引き摺ってでも連れていこうとするが、こちらも酔いの回った身の悲しさ、眼前の酔漢はびくともしない。諦めて地面にへたり込むと、ごろりと樹下に身を横たえた大虎から忍び笑いが漏れいでた。
「杜工部殿も存外だらしのない。」
「地べたに寝転がってる御仁には負けるよ。全くあちこち花だらけにして。」
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