推しの配信は尊いモブ視点転生俳優パロ苦手な方要注意!
『今日は宅飲み配信やっていきまーす』
推しが四角い画面の中に映し出されている。私はバディDで見事にオロルン沼へとハマったモブ子。推しをこうして眺めて、毎日幸せであってくれと願うのが至福。推しの顔が今日もいい。グラス片手に次々コメント欄の質問に答えていく推し。最初こそ流れの速さに戸惑っていたが、今となってはもう慣れたものだ。課金した者のコメントは確実に拾ってくれるので、今日もお布施いくかぁと質問を考えていると、ぽんと無言で高額のお布施が投げ込まれる。折角交流できるのにもったいないと思っていたら、推しが大きな声を出して立ち上がり、すたすたと画面外に出ていく。コメント欄が混乱しているところに推しの叫びが聞こえた。
『スラーイン!投げ銭するのやめろって言っただろ!』
コメントが疑問符から頭を抱えるコメに早変わりしていく。公共電波で推しのファンクラブ会員ナンバー一番であることを公言した上に同居している彼のバディは、なんと別の部屋からぶん投げたらしい。しかもあの口振りではこれまでにも課金歴があるようで。
『どう使おうと俺の自由だ』
『だからってわざわざ遠回しに使わないでくれ』
推しが課金者の腕を掴んで戻ってきたが、二人共背が高すぎて立っていると画面に全く入っていない。横で投げ銭しないように見張る計画らしく、隣に座らせて肩しか見えていない相手と乾杯している。
『ごめんお待たせ。どこまで答えたっけ?』
『……どんなおつまみが好きですか』
『僕は生野菜使ったやつが好きかなぁ。君は?』
『俺はいい』
『最近スルメ系食べてないよね。痛風気にしてるんだっけ』
『誤解を招く言い方をするな。予防のために控えているだけだ。早く次の質問に移れ』
『はーい』
尊すぎてPC画面を拝みながら携帯を確認すると、同志達が二人揃ったと荒れ狂って拡散している。推しの配信を眺めていると度々バディの影が見え隠れするのだ。SNS露出頻度が低い彼のファンにとってはオロルンの更新を見ていた方が動向がわかるという説まである。ぱっと見正反対に思える二人は殊の外相性が良いらしく、互いに時折遠慮ない物言いが飛び出すが全く気にしていない。そうでなければ一緒に暮らすなど無理であろう。事あるごとに横に話を振っては戻される推しを眩しく眺めていると、段々体勢が傾いてきて丁度良い位置にある肩に寄りかかりながら答え始めた。すぐにコメント欄がメロい一色になる。
『んん?何がメロいんだろ』
『めろ……?』
『メロいだよ。ほら説明してくれてる人いる』
『俺の画面で見るな戻れ』
『やーだー』
横に乗り出したことで我々にはかわいいお尻しか見えない。しかもその体勢は完全に乗っかってるやつですね、ありがとうございます。目に焼き付けていると、肩を抱かれている推しが画面内に戻される。なんだこれ脳内永久保存したい。
『何分までの予定だ』
『あと十分』
『無理だろうな。すまない、こんなに酔うやつじゃないんだが終らせてもいいか?』
『えぇ~』
『どの口が言ってる』
『むぎゅ』
頬を潰される推しまで見れたらもう満足だ。凄まじいコメント数が早く休ませてあげてくださいと全面賛成の流れになっている。
『残りの質問は後日まとめて回答する。ほら、挨拶しろ』
『みんなありがとう。おやすみぃ』
ぽやぽや手を振る推しを最後に配信が途切れた。後半はもう質問どころかみんな無言でええもん見せてもらったわの感謝のお布施しか投げていなかったので、質問はそれ程ないだろう。そして相変わらず私のタイムラインは騒がしい。
「今日も俺の孫がかわいい」
「世話焼かれてるうちの孫尊い」
「面倒見よすぎだろぉ知らんかったぞ」
「あれでできてないとか頭混乱する」
そう、彼らはあれで何もないと言うのだから、世界七不思議に登録してもいいと思う。いやきっと本当なら本当で世間がうるさいから隠してるだけなんだろうと都合良く解釈して、感謝の意味を込めて今週の見逃し配信の再生数を増やしに向かうのであった。
「貴様ああああ!あれ程隊長様の手を煩わせるなと!」
「わああごめんなさい!」
「やめろグスレッド」
「昨日の配信か。私も見たぞ、なかなか面白いものを見させてもらった」
「そうか……?」
「あぁ、私としてはとても感慨深い。この路線で売り出してもいいな、君も一緒にどうだ?」
「それは女皇様に相談してくれ」
「隊長様にそんな方向性は必要ない」
「僕はスラーインとならいいよ」
「何様だ貴様あああああ!」
「うわあああ!」
「あの二人は意外と仲が良いのだな」
「どうしたらそう見えるんだ」