【リク消化SS】何度も振られて最後はカレカノ(1)「流川先輩って、彩子先輩のこと好きだよね?」
「わかる! 絶対そうだよね?」
富ヶ丘中の男女バスケ部は仲が良く、それは仲間としての意味合いもあったがカップルが成立しやすい環境も含まれていた。
実際に流川が一年の頃、それぞれの部長同士が付き合っていたし、二年に上がった今では男バスの副部長と女バスのマネージャーが付き合っている。
体育館を分け合い同じ空間で部活に励む思春期の彼らにとって、仲間意識が恋愛に変化する垣根というのはあってないようなものだった。
だから、冒頭の噂話も特別なことではなかった。よくある世間話の一つだ。
「聞こえてるぞ」
女バスの後ろを無言で通り過ぎる流川のあとを男バスの副部長が続き、釘を刺す。噂話自体はよくあることだが、よくあるからといって肯定されるものではない。
「流川はそういう浮ついた話が嫌いだろ」
「すみません」
「はーい……」
「おう。気をつけろよ」
一年生の二人は上級生の背中を見届けると、
「彩子先輩、脈あると思う?」
「わっかんない」
「だよね〜」
再び話に花を咲かせるのだった。
※
「先輩」
「ん、どうしたの?」
海岸沿いを二人乗りの自転車が走る。
真っ青な小夏の空と水平線に、桃色のバスケ部指定ジャージが眩しく映える。
流川の後ろに立ち乗りした彩子は、自分を呼ぶ後輩に顔を近づけた。
「先輩が好きっす」
「流川〜」
「諦めろとは言わなかった」
「それはあんたが決めることだから」
前を向いたまま安全運転を心がけているらしい後輩の告白は、去年の夏から幾度となく繰り返され、そのたびに彩子は断っていた。
男女問わず下級生に懐かれるのは彩子にとって日常茶飯事だが、流川にとって誰かに懐くことは生まれてこの方はじめてのことだった。
真っ直ぐ続く海岸線を一定のスピードで漕ぐ。潮風に吹かれて前髪が持ち上がり、昼間の日差しがダイレクトに視界を飛ばす。
流川は目を細めて、彩子は流川の肩に乗せた両手にほんの少し力を込めた。
彩子だって流川は好きだ。
だがそれは後輩として、アグレッシブなプレーをするバスケットマンとして、だと思う。
手を繋いだり、抱き締め合ったり、キスしたり──友達が惚気けるようなシチュエーションを流川とするなんて、想像が出来なかった。
「迷惑すか」
「そういうんじゃないの」
「好きっす」
「あんたね〜」
流川は無口だが一年頃からの練習には真面目でバスケも上手く、何より端正な顔立ちで女子生徒から密かに人気があった。
しかしそれはバスケ部以外に限った話で、女バスの間では「流川は彩子先輩しか見えていない」が常識で通説だった。
でも現実に流川が彩子へ何度も告白をして振られていることは、誰も知らない。
信号が見えてきた。
運良く青に切り替わったばかりで、流川はスピードを落とさずに目指していた角を曲がる。
富ヶ丘中から流川と彩子の家は同じ方向だが、その先にいま向かっているバスケットコートがあるのだ。
第二土曜日は時々職員会議の都合で練習が午前だけになる。二人が午前中の練習で満足出来るわけもなく、そんな日は決まってコートに足を運ぶのだった。
「そろそろ私とワン・オン・ワンしても物足りないんじゃない?」
入部時には五センチほどしか変わらなかった身長も、今では十センチ以上も開いて、彩子は流川を見上げる。
「先輩はその分スピードがあるから」
「ありがと。でもシュート練習でもいいのよ。あんたスリーポイントも強化したいんでしょ?」
流川は、こんな彩子の視野の広さが好きだ。いつの間に見て、知ってくれていたのかと思う。
もし言葉にすれば本人は「キャプテンってそういうものよ」と当然のように答えるだろうが、女バスの部長だからといって同じコートを使う男バスの状況まで分かっていることは当たり前だとは思えなかった。
現に男バスの部長に女バスのことを尋ねても、彩子ほど正確に捉えてはいないはずだ。
「……じゃあ、パス出して」
「オッケー。五十本ずつ交代しよう」
「うす」
どんどん好きになる。
流川は帰り道でも好きだと繰り返し、彩子はいい加減にしなさいと笑った。
続