パズルピース外の世界は見たこともない新鮮なもので溢れていた。初めて触れた瞬間は心が躍ったけれど。それだけ。
「あんちゃーん!昨日のパズルの続きしよーや!」
「…ええ。もうええわ、それ。飽きた」
「え?」
「後はお前の好きにし」
「あぁ…うん」
楽しいのは最初だけ。これなら研究所で659と手遊びしてる方がずっと楽しかった。
659は何も無い場所でも楽しそうだった。なんでもないことをにこにこ楽しそうに話して、ちょっとした遊びも大層楽しそうに遊んで、きっと659の目にはボクには見えない楽しいものがいっぱいあるんだろう。ボクが兄なのに、いつも659に引っ張られている。
あいつがいないと、ボクはなにも出来んくなる気がする。いや、気がするじゃなく、確実に。だってボク自身には何も無いから。
こんな情けないボクは「かっこいいあんちゃん」を好いてる659に見せられない。659をがっかりだけはさせたくない。
こんなにも外の世界はものに溢れているんだから、いつかボクが心躍らせれる、普通のミューモンにとっての"音楽"のような存在が必ずあるはずだ。そうしたら、きっとボクにも659が見えている景色が見えるはずだから。そうしたら、もっと659と色んな場所へ行ける。今度はボクが引っ張ってあいつを笑わせることもできるはずやから。空っぽの胸をぎゅ、と握って目を瞑る。大丈夫、大丈夫と声が聞こえた。
「……あんちゃん、また難しい顔して寝とる」
すたこらと去っていったあんちゃんの後を追いかけると部屋ですうすうと寝ていた。静かなのは苦手だが、起こさないように今だけは静かに過ごそう。
「あ、さっきのゴミ捨てな」
あんちゃんが要らんのならもうこれは必要無い。ばらばらとパズルを崩しながらゴミ箱に落としていく。
「……あんちゃんを困らすもん、全部全部消してあげれたらな」
大好きな大好きなあんちゃん。
あんちゃんが何を探しとるかは知らんけど、もしもこの世界のどこにもその探し物が無かったら。今度は全部真っ黒にしてワイとあんちゃん2人で0から好きなもんを作ろう。無いものを探すよりも、探してるものを作ってしまう方が簡単なはずだ。
ワイはあんちゃんの隣にいられればそれでいいから。ずっとずっと一緒に。
いつ見つかるのかわからなくても、例え見つからなくても、自分はずっと側にいるから。
「大丈夫、大丈夫やからね」
固く握りしめられた手に触れる。少しだけ、握られた拳から力が抜けた気がした。