蓮狐.
屋敷の方が急に騒がしくなったと片耳を欹(そばだ)てた。薄っすら目を開け、格子の間から様子を窺い見るとまだ辺りは真っ暗だったが、近くまで物音が迫っているような気がした。
地面に誰かが崩れ落ちる音。扉の向こう側でこの家の主人の叫び声が聞こえる。声色から察するに尋常ではない慌て様で身の安全を乞い願う言葉に、さすがにただ事ではないようだと覚醒させられた頭で判断し、身体を起こす。
混乱に乗じて逃げ出せる機会が来たのかもしれないが、鎖で縛られた南京錠付きの鉄格子は力技で打ち破れるものでもない。
「ここにも何か隠しているな?」
言った後でその誰かが蝶番に手をかけたらしき音。肘金が外され観音扉を開け放つ何者かが、中へと侵入してきた。
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