「ファラス従兄さん、手合わせしてくれない?」
その言葉と同時にギガブレイクが放たれた。
ファラスは放たれた雷撃を華麗にかわし、
即座に相手の間合いに入り込む。
お返しと言わんばかりにファラスもギガブレイクを放つと、声の主は一回転ひねりをして斬撃をかわした。
「別に構わない…が、剣を振るうのは相手の了承を得てからにしてくれ、とーこ。」
「えへへ…ファラス従兄さんなら許してくれると思って…」
目の前には自分と同じ色髪を携えた少女、
もとい従姉妹のとーこが満面の笑みを浮かべている。
「心臓に悪いからやめてくれ…あと、他のやつにはやるなよ。」
「はーいわかりました!」
とーこが笑顔のまま言うと、そのままファラスの横腹めがけて剣を振った。
「ほんとにわかってるのか…」
少しため息を付きながらファラスが左手に握っていた片手剣で攻撃をガードした。
その光景を見たとーこはさらに嬉しそうな顔をする。
「久しぶりに手合わせするけど…やっぱり王国一の剣豪は今でも健在だね!」
あははと楽しそうに剣技を繰り出すとーこを横目に、ファラスは苦笑いを浮かべながら彼女の戯れに付き合ってあげるのだった…
***
「そういえば…あの盟友さんとはどう?たまに文通してるって聞いたけど、進展あった?」
一進一退の戦いが続く中、不意にとーこが問いかけると、ファラスの攻撃が突然止んだ。
ふと見上げると、ファラスが目を見開いてとーことを見ている。
「…なんで知ってるんだ文通のこと…」
「私の情報網に掛かればお手の物!」
いしし、と悪戯に彼女が笑う。
「…別に、マローネ様やパドレ様の近況を送っているだけだ。」
「え、そうなの?私はてっきりもう告白間近だと」
「…確かに、俺はあの方をお慕いしているが、
その思いを伝えるつもりは毛頭ない。」
「なにそれ…どういう事よ!」
とーこはそう言いうと、助走をつけて上空へジャンプし、ファラスの頭頂部めがけてアルテマソードを放つ。
「…あのお方はパドレ様の御令嬢にあたるお方だ。一介の従者が想うことを許される関係ではない」
ファラスは上空から放たれたアルテマソードを武器ガードし、カウンターで返す。
とーこはそれをもろに喰らい、地面に叩き落されてしまった。
「…っ…また、そんな事言って…いつも愛しそうな目で見てるくせにッ」
すぐに体制を立て直したとーこは剣を振るう。
「俺はパドレ様に使える身。従者として、立場は弁えている。それに…勇者姫の盟友ともあろうお方だ。俺よりももっと相応しい者がおるだろう。」
ファラスは迎えくる連撃を武器ガードをし続けながらそう答えた。
その言葉を聞いたとーこは再び振りかざそうと剣をピタリと止めた。
「は…?それ、本気で言ってんの!?」
とーこの問いに、ファラスは答えない。
口を閉ざしたまま、少し俯き佇んでいる。
その姿を見たとーこは武器を投げ捨て、胸ぐらをつかむかのように、ファラスのマフラーを掴んでこちらに引き寄せた。
二人な顔の距離が近づいたところで
とーこはすぅ、と息を吸い、
「それでも男なの!?従兄さん!!」
と、キィンベル中に響き渡るんじゃないかと思うくらいの怒号を散らした。
「従兄さんがそう思う気持ちもわかるけど…
…現にパドレ様は好きに生きろって、言ったんでしょ!それは…人間として対等にいたいってことじゃないの!?」
「それは…」
「パドレ様の気持ちも、あの子の気持ちも知らないで…なんでそんな事言えるのよ!」
ファラスの言葉を遮り、とーこは怒鳴り続ける。
「ほんとは稽古がてらコレを渡すつもりだったけど、こんなくよくよした従兄さんに渡す義理もないわ!」
とーこが右ポケットから1枚の手紙を取り出し、ファラスに見せつける。
「それは…」
「あの子が従兄さんにって。…エテーネ村で復興1年記念ってことで小さな祭りを行うんだって。その招待状。」
そう言うと、とーこは掴んでいたマフラーを離してファラスを突き飛ばした。
「昨日、ゼフさんから依頼されてエテーネ村に行ったの。テンスの花が錬金に必要らしくてね…その時あの子に会った時に頼まれたの。ファラス従兄さんに渡してって!」
「俺、に…?パドレ様やマローネ様ではなく…」
「そーだよ。従兄さんだけ。ちなみにメレアーデ様にも渡してないらしいからッ」
「なぜ…エテーネ村にはメレアーデ様もいたはず」
わけがわからない、といった表情でファラスはこちらを見つめている。
呆れたとーこは大きくため息をつきながら、仕方ない、と小さく呟いた。
「…祭りのときにファラス従兄さんと2人きりで話したい事があるんだって。だからじゃないの。」
そう言うと、とーこはくるりとファラスに背を向け、放り投げた武器を拾い上げる。
「祭りは次のテンの日らしいから、それまでに準備を…」
瞬間、後ろでキラリとルーラストーンを使用する音が聞こえた。
振り返ると、先程までそこにいたファラスが忽然と姿を消し、流れ星のようにエテーネ村の方角に向かって飛んでいる光が見えた。
「だから祭りは次のテンの日だって!」
光に向かってそう叫んだあと、とーこはふぅ、と息を吐く。
はあ、これでやっと二人が進展するかなあ…
モテるくせに、ヘタレなんだよなあ、ファラス従兄さん…
そう思いながら、とーこは空を見上げて悪戯そうに微笑む。
早く自分のものにしないと、私が盟友ちゃん盗っちゃうよ?
なーんてね。
**後日談***
「あ、従兄さん帰ってきた!どうだった?進展した?」
「うむ。祭りの日、2人でまわるように約束を取り付けてきたぞ!」
「は???それだけ??」
「?そうだが…どうかしたか?」
こいつはもうだめだ!
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