ピアスの話 イヴァンがトイレの出入口を潜るのと、ティルの耳に穴が開いたのはほぼ同時だった。
「なっ…にしてるの!?」
学校のトイレの鏡の前で顔を傾けているティルの横へ早足で近寄り、その顔を見ると耳たぶに小さな青い石がきらりと光っている。ティルはイヴァンをちらりと見ただけで、また鏡に向かって顔をあちこちに傾けていた。
「ピアス開けてんの。見ればわかるじゃん」
彼の手元には手のひらに充分おさまる白いプラスチックが握られていて、手洗い場のウォッシュボウルには小さなパーツも落ちている。単回使用のそれにもう用は無いと、ティルは足元に備え付けられたゴミ箱に投げ捨てる。それから、制服のポケットからまたトランプくらいの箱を取り出してビリビリとパッケージを開けた。その様子を隣であんぐりと見つめたまま動かないイヴァンには全く構わずに、今度は逆側の耳たぶへとピアッサーをあてがった。また上下左右斜めと顔をあちこち向けてはピアッサーを持った手を上げたり下げたりと忙しい。
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