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    Batch1022

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    Batch1022

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    2023年9月27日修正
    創作キャラについての話
    誤字脱字勘弁
    とりあえずあっくんママは家族に守られてましたってことにしてください。

    操命握津僕の個性が発現したのは5歳の時だ。個性の発現は一般的に4歳までだといわれていたが、僕は遅い発現だった。4歳の時に無個性かと思われたが、検査で個性因子があることは分かっていたので、特に深く考えずに日々を過ごしていた。
    僕の個性は母と買い物に出かけていた時の道にいた野良猫を撫でていた時に発現した。
    当時僕は動物が大好きで、猫と戯れることに幸福感を感じていた。その猫は人懐っこい猫だったので、僕が触っても特に嫌がることなくゴロゴロと喉を鳴らしてくれていたのだ。僕も顔がゆるゆるになって夢中になって撫でていたら、猫の元気がだんだんなくなり、そして終いには動かなくなってしまったのである。怖くなった僕は母に泣きながら、猫が急に死んでしまったことを訴えた。すると母は、僕を急いで家に連れ帰った。

    家に帰った母は泣きながら僕に訴えた。僕の個性は父譲りであることを。父はヴィランの襲撃によって既に亡くなっており、当時の僕にはつながりがよくわからない知らないやつの個性が僕に宿ったのだと感じた。
    父は寿命を奪う個性だった。しかし、父は寿命を奪うといっても生き物の寿命の1万分の1しか奪うことしかできなかった上に、その寿命をエネルギーに少しだけラッキーになるという没個性だった。母はこの寿命を奪うという個性が強化されて僕に発現したのだと、そう考えたのである。
    寿命を奪う個性と聞けば強個性に聞こえる父はヴィランに狙われて、死んでしまった。そのため、母は僕の個性を役所に届けた後、世間には隠し通そうとした。
    その後、幼稚園を1か月休まされ、この危険な個性を暴発させないため、母は僕に個性の制御訓練をさせた。植物を使った特訓を1か月かけて必死に行った。植物が枯れないように、集中して、僕の手で友達を殺してしまわないように。
    特訓の成果で、僕は自分の個性で無意識に生き物を殺してしまうということはなくなった。
    また、個性について新しくわかったことがある。僕は母の個性も受け継いでいたということである。
    母は寿命を分け与える個性だった。僕は他者から寿命を奪いそしてその奪った寿命を与えることができる。母の個性と父の個性が混ざりあい、僕の個性は寿命操作という強個性になったのである。とても危険な個性を手に入れてしまった僕に母は悲しそうな顔をした。

    「大変な思いをさせてごめんね」

    特訓の成果で個性を制御できるようになった僕は1か月ぶりに幼稚園に行った。すると、1か月の間に何があったのか、いつも僕と一緒に遊んでいる友達があからさまに僕を避けていると感じた。僕が声をかけてもみんな僕から走って逃げてしまうのである。

    「ねえ!みんな!!まってよ!なんで置いてくの!!」
    「だって、握津くんの個性って怖いやつだってママ言ってた!」
    「握津くんに触ると僕ら殺されちゃう!」
    「来ないでよ!」
    「…っ!そんなことっ…まって…待ってよ…僕そんなことしないのに…グスッ」

    鋭い言葉が切れ味の悪い刃物で切りつけたかのように僕に浴びせられる。
    1か月ぶりに来た幼稚園で知ったことは、僕の個性がすでに知られており、それが悪い形で広まってしまっていたことだった。たぶん僕の個性発現の瞬間を見ていた人がいたのだろう。1か月の間にその噂が広まり、僕はみんなに避けられている。

    寂しい。

    悲しい。

    誰も僕を信じてくれない。

    友達だと思ってたのに。

    苦しい。

    視界がぼやける。

    梅雨の雨が僕の心を表しているようで、体が重く気分が沈んでいくのを感じた。

    工作の時間に使った糊のツンっとした香りが恨めしい。

    壁に貼ってあるアジサイの折り紙は仲間の花とずっと一緒に咲いていられるのに、なんで僕は独りぼっちになってしまったのだろうか。

    1か月前なら僕の泣き声に「どうしたの」と優しく声をかけてくれた先生も、今は僕に気づかなかった振りをしてほかの子に構っている。

    沢山人がいる幼稚園で僕だけが独りぼっちになってしまった気分だった。



    「なぁ」

    独りぼっちの世界で突然声をかけられた。快活な明るい声。声がした方を振り返ると、同年代くらいの男の子が僕を心配そうに見降ろしていた。しかし、僕が彼に視線を合わせるとパッと笑顔になり、手を差し伸べてきた。

    「…なに」
    「俺、正測速値。一緒に遊ぼ!」
    「っ!でも僕、危ない個性で…」
    「俺はお前と遊びたい!」

    僕が個性のことを言っても、一緒に遊ぼうと、手を差し伸べる彼に僕は胸が高鳴るのを感じた。まるで、真っ暗な冷え切った闇を照らす光明を愛おしいものを見つけたようなそんな感覚だった。

    「僕でいいの?」
    「ああ!行こうぜ!!俺の大発明見せてやる!お前名前なんていうんだ?」
    「操命握津」
    「握津っていうのか!あっくんって呼んでいいか?」
    「いいよ!」

    速値は僕のすべてになった。
    あれ以来、僕は速値とよく遊ぶようになった。速値のおかげで僕が独りぼっちになることはなくなった。それでも、みんなが以前みたいに接してくれることはなくなってしまった。まるで、僕がいつ爆発してもおかしくない爆弾みたいに顔を真っ青にして目を合わせてくれず、ちょっと触れるだけで金切声を上げて走り去る。小学生に上がってからは、僕のことを「ヴィランだ」っていって個性で攻撃してくる子もたくさん出てきた。足を引っかけられて転ばされることもあった。周りの視線が怖い。

    僕は何もしてない。個性使って暴力ふるうあいつらの方がヴィランだろ。なんで僕ばっかりこんなめに遭うんだ。いっそこんな個性使えないって証明できればいいんだ。机に入っていた僕の名前が書かれたハサミで切り落とせないだろうかと、ハサミを持った右手を振り上げた。

    「こんな個性のせいでっ!!」
    「あっくん!!!!」

    僕の右手。動かない。速値が邪魔したんだ。知ってたよ。速値なら止めてくれるって。速値が僕のことをちゃんと見てくれてうれしい。ポタポタと生暖かい雫が目から零れ落ちる感じがする。

    「速値。僕、こんな個性いらないよ…こんなもののせいで僕、みんなに酷いことされるんだ。手離してよ。もう苦しい思いしたくないんだ。離せよ!!」
    「俺が!!俺が、あっくんのこと守るから!!!あっくんが苦しい時は俺が助けるから!!」

    右手から手が離され、優しく抱きしめられた。速値の心音が静かに規則的に聞こえて酷く落ち着いた。

    「それじゃあ、ずっと一緒にいなきゃだね」
    「ああ」
    「「やくそくだ」」

    速値は明るくて優しくて、面白い。太陽みたいな笑顔で笑う速値は僕にとって唯一だった。ほかの人がどれだけ僕の罵詈讒謗を口にしても、速値は必ず僕の味方になってくれた。それが僕にとってどれだけ大きな意味を持っていたのか速値はきっと理解していないだろう。僕にもこんなに優しくしてくれる速値は、当然のことながらみんなの人気者だ。速値がいろんな人と仲良くしているところを見ると、毒々しい何かが胸にじわじわと滲みだすような感じがした。速値がみんなに向ける笑顔が、まるで速値にとって僕がみんなと同じただの友達、どうでもいい存在であるように感じさせた。速値がほかの人と話しているとき、僕は決まって独りぼっちだった。僕には速値しかいなかった。

    高学年になって、クラブ活動が始まった。僕はパソコンクラブ。人とかかわることも少ない、比較的安全なクラブ。先生の指示通りにパソコンを触っていれば時が過ぎる。速値はサッカークラブに入った。サッカークラブで活躍する速値は今まで以上に人気ものになった。最近じゃ女の子たちも色恋沙汰に興味があるのか、速値に夢中になる子もちらほらでてきた。クラブ活動が始まって、速値と会うことも少なくなったような気がする。

    もっとたくさん速値に会いたい。僕がこんなに寂しい思いをしているのに速値は何とも思ってないの?親友でしょ。ずっと一緒にいるって言ったのに。どうして僕を見てくれないの。速値、速値、はやち、速値速値速値速値…。

    小5の夏、速値に彼女ができた。学校の中心人物である速値に彼女ができたことは瞬く間に学校中の噂になった。どうやら、女の子の方が速値に告白したらしい。速値はかっこいいからモテるのはすごくわかる。あれだけかっこいい速値のことだから、彼女くらいできてもおかしくないかと考えていたけど、まさか本当にできてしまうなんて。速値の瞳に彼女が特別に映ることを想像すると、心臓を握りしめられたように苦しくなった。僕は速値の特別にはなれない。僕にとっても良くしてくれる速値には幸せになってほしかった。きっと、速値の彼女も素敵な人なんだろう。腹の底から湧き出る憎悪にも似たドロドロした感情を無視して、速値へ祝福の言葉を伝えに行った。


    ある日、速値の彼女のグループの会話を聞いてしまった。
    「速値くん、どう?」
    「めっちゃかっこいいよ。優しいし。このまま1か月くらい個性かけ続けたら私の言いなり。みんなで速値くんとデートしよ」
    「1か月って長くね?」
    「あの速値くんが手に入るだけ我慢してよ。そうゆう約束でしょ。私が独り占めしないだけありがたく思ってよね」
    「じゃあしょうがないね」

    驚愕した。速値と付き合っていた彼女は速値に個性をかけて速値を思い通りにしようとしていたのである。つまり、速値は騙されて彼女と付き合っているのだ。速値にかかわろうとする子は速値に酷いことをしようとする子ばっかりなのかもしれない。大人数でこんな計画立てて速値とかかわりを持っていた。速値は彼女たちを純粋に想ってくれているのに。抑えつけていた黒い感情があふれ出すのを感じた。

    速値を助けなきゃ…速値に酷いことする奴なんて消えればいいのに。ああ、そうか。消せばいいんだ、僕が。みんな言ってたじゃないか。僕の個性は人を殺すためにあるんだって。ヴィランだって。この力があれば速値を守れる。もう僕はこの個性のこと嫌いじゃないよ、速値。みんなにとってすでにヴィランな僕が本当にヴィランになったとこで大差ないだろ。速値のために殺そう。あいつを。

    「ヒッ握津くんっ」
    「殺す殺す殺すころすコロスコロス」
    「まって、やばくない?!握津くん私らを殺すつもりだよ!!」
    「私死にたくない」
    「逃げよ!」
    「は??!助けてよ!!」
    「キャァっ!!」
    「うわっ!?」

    一瞬にしてにその場にいた女子らの体が動かなくなった。床に倒れた抜け殻は傷一つなく、美しい蝋人形のようだった。

    人を殺した。3人。怖くはなかった。何も感じなかった。ただ怒りに任せて人を殺してしまったという感覚だけが僕の手に残ってひどく自分が穢れた気がした。

    その日、僕は家に帰らなかった。夜の暗い街を一人ゆっくり覚束ない足取りでフラフラ歩いていた。

    「速値のことは僕が守るからね。」



    あの後、僕はとあるヴィランのところで鍛えてもらって、とても強くなった。あそこではとても良くしてもらった。僕の個性へのアドバイスも戦闘方法も教えてくれた。裏社会でどうやって生きるのかもレクチャーしてくれて、大分自信がついたように感じる。
    教えてくれた恩があるものの、ヴィランの元を離れ、今では単独で行動するようになった。
    速値と幼いころからやってたヒーローになるための特訓で身についた戦闘スタイルとヴィランのもとで教わった身のこなし方、独学の情報収集力を駆使して、速値に害のあると判断したやつらは皆殺しにした。おかげで、最近警察が僕の存在に気づいたみたいでちょっと活動に支障が出てめんどくさい。世間では連続殺人犯と呼ばれているらしいけど、その殺人犯が僕だってことはまだつかめていないみたいだ。馬鹿な奴ら。

    「ねぇ。お前、山田金融のご令嬢だよね。ここで何してるの」
    「人!?なんでさっきまでいなかったのに」
    「質問に答えろよ。まさかだけど、速値になんか用でも?」
    「別にただ散歩してただけよ」
    「そう。そんな物騒な薬品持ち歩いて速値の家まで散歩ね」
    「っこれは!!」

    ご令嬢の飛び掛かって頭を鷲掴みにした。数秒もたたないうちにご令嬢の体から力が抜けていき、意識がなくなる。

    「ふ…ふふふ害虫がまた一人死んだよ。ふふ」

    緩んだ口元を抑え、足早にその場を立ち去った。後5人は排除対象だ。どんどん集められていく寿命の感覚と速値の周りにいる有害なものが僕の手で消えていくのが、とてつもない充足感を与える。警察やヒーローに正体不明の連続殺人犯として追われながら、着実に害虫駆除を続けていった。

    この間、久しぶりに速値の様子を調べた。初めて人を殺した時から、ヴィランになるために特訓していたし、速値の周辺人物や関係者の情報ばかり集めていたから、速値の今を知りたいと思った。僕が守っている生活の中で速値は幸せに暮らしているのだろうか。それに僕自身がずっと速値に会えていないことがとても耐えがたかった。

    速値の通う中学に盗聴器とカメラを仕掛けて、昼の速値の様子を確認した。

    『おはよー』
    『おう、おはよう!』

    速値だ。少し身長が伸びてる。ちょっと声がかすれてて色っぽく聞こえる。そうか、声変わりの時期なんだな。大きな声が出しにくそう。

    パソコンのモニターに映る教室の様子にドキドキしながら最後に見た時よりも成長した速値を眺めた。

    『なぁ、今朝のニュース見たか?』
    『あぁ、山田金融のご令嬢が亡くなったってやつか』
    『あれ、速値の家の近くだったんだよな』
    『知り合いだったからショックだったよ』
    『そうだったのか!?さすが正測サポートアイテム会社』
    『そんなんじゃねぇって。それより、なんか情報ないか?』
    『あぁ、操命握津。まだ見つかってないのか』

    ドキッとした。速値が僕の話してる。僕を探してくれてる。
    僕がいなくなってからずっと探してくれていたのか。
    心臓の音が速くなるのを感じた。心の昂ぶりが抑えられない。上がった口角が一向にもとに戻らない。どうしよう、僕が消えたことで速値が僕を見てくれるようになった。バクバクと体に響く心臓の音に胸を抑えてモニターの速値から目が離せなくなった。


    肌寒くなってきた。雪は降っていないけど、街路樹の木の葉はもう全て落ち切って、冷たい風が突き刺さる。また最近また害虫が湧いていることが判明した。速値の周りにはどうしてこう速値に危害を加えようとする害悪な連中が集まるのだろうか。僕があいつらを殺せば速値の平穏は守られる。

    前を歩く害虫どもを路地裏に引きずり込んで、少し遊んでやった。こいつらは、速値だけでなく、正測家にも手を出そうとしたとんでもない連中である。しかも、一般人ではなく、ヴィラン。体に傷が残ってもヴィラン同士の抗争で亡くなったと捉えられるだろう。僕の個性だけで殺したら、楽に死にすぎてもったいない。散々いたぶってから、僕の個性で確実に殺した。運動して疲れたからどこかで少し休もうと大通りの方へと足を向けたら、目を見開いた速値がこちらを見て立っていた。

    「これお前がやったのか?」

    あぁ、速値が僕を見てる…

    「救急車よんで、警察いこうぜ。何があったのかは知らないけどきっとこの人たちは助かるし、お前もちゃんとしたとこで反省しなきゃいけないだろ」

    速値が僕の手をグッと引っ張った。その拍子にかぶっていたフードが外れて、僕の顔が月明かりに照らされた。

    「は…あっくん…?」
    「速値だぁ…うれしいなぁ速値に会えた…」

    僕の顔を見て速値が僕の肩をつかんで目を見つめてくる。速値の目に僕の恍惚とした表情が映った。

    「あ、あっくん…!!今までどこにいたんだよ!!急にいなくなって!!俺心配したんだからな!?」
    「知ってるよ、速値が僕のこと探してくれてたの。すごくうれしいや…でもごめんね、僕やることがあったんだ」
    「やること?」
    「あぁ、害虫駆除だよ。殺しても殺してもいなくならなくて」
    「害虫??…まさか、連続殺人犯って…なんてことしたんだ!!あっくん!!人殺しは絶対にしちゃいけないことなんだぞ!!」

    速値が僕の目をみて必死で訴えてくる。素敵な時間だ。僕がヴィランだとわかってから、速値の僕を見る目が特別な何かになったように感じた。あぁ、そうか僕がヴィランを続けたら速値は僕を説得しようとして僕を見てくれるんだね。僕頑張るから。

    速値の顔に催眠スプレーを吹きかけて体から力が抜けていく速値を受け止めた。

    「ぜ、ったい…止めて、やるから…な……」
    「…ずっと見ててね」


    強制的に眠りにつかされた速値を家に送り届けて、僕も拠点に戻ってヴィランとしての活動計画を立てた。
    速値は僕がヴィランだと僕のことを見ていてくれる。大好きな速値と僕の世界を作るんだ。僕らの世界に入ってくるやつはみんな排除してしまおう。僕と速値の幸せのために。

    「あはは!!楽に殺してやるよ!!あの時の恨みは忘れてないけど、一緒に学園生活過ごした仲だもんな!!」
    「あ…やめ…。」
    「ほら!!死ねよ!!ははは!」

    「あっくん!!……いないっ!!遅かったか!おい!立花!!大丈夫か!?…クソッ」

    最近犯行後に速値が走ってくることが増えた。決まって僕の名前を呼びながら飛び込んでくる。その様子を、毎回離れたところで見守った。僕を探してくれる速値に毎回鼓動が速くなって、幸福感に包まれるのを感じた。

    ふと、速値につかまってしまった時のことを考えてしまった。もし速値に捕まってしまったら、もう速値には見てもらえなくなってしまうかもしれない。
    さっきまで高まっていて熱がサァっと冷めていくのを感じた。
    そんなことあってはいけない。今の僕にとって、速値の中から僕が消えることが一番の恐怖となっていた。どうにかして、僕は永遠に速値の特別にならなければならないと脅迫めいた願いが僕の中で生まれた。

    月日がたち、桜が美しく咲き誇っていた。速値は中3になって受験勉強が忙しくなるシーズンだ。計画実行の時が近づいている。速値の心を永遠に僕のものにする、速値の特別になる計画。邪魔者は変わらず駆除し続けてきた。速値も必死に僕を追っている。きっと今日も速値は現場に現れるだろう。僕が速値の特別になったときのことを考えるとニヤケが止まらなくなった。


    「あっくん!!今日こそ止めてやるからな!!」
    「速値!」

    速値に両手を押し倒される。

    「捕まえたぞ!!両手使えなきゃ前みたいに逃げられないからな!!」

    速値が必死になって僕のことを考えてくれているのが最高に幸せだった。ギリッと強く握りしめられている手にさえ多幸感を感じる。

    「なぁ、なんでこんなことしてんだよ!!あっくんは人傷つけるなんてこと嫌いだったじゃないか!どうしちゃったんだよ!!」
    「僕と速値のためだよ」
    「は?何言って」
    「速値知らなかったでしょ、速値はずっと周りの人たちに陥れられそうになってたんだよ。僕は速値のこと守ろうとしてたんだ。」
    「え…俺…?」
    「それに、僕ずっと嫌だったんだ、みんなに蔑まれて虐められて。知ってると思うけど僕何もしていないのに、辛い思いしてた。速値だけが希望だったんだ。僕はもう取り返しのつかないことをした。速値は優しいからずっと一緒にいてくれるんでしょ?一緒に逝こ?」
    「どういう…」
    「僕と速値だけの世界を作るんだ!!」

    僕の手をつかんでいた速値の手の力が弱くなった。

    「俺のせい…?俺、あっくんのこと守れなかった…?だから、あっくんがヴィランになっちゃって…」
    「速値のせいじゃない。全部全部この世界が悪いんだ。」

    速値の瞳から涙がこぼれる。月明かりに照らされて宝石みたいに綺麗だった。

    「僕と一緒に二人だけの世界に」

    速値の涙をそっと拭って、速値の手を握った。
    心中しようと誘い続ける僕に速値は力強い目線をこちらに向けた震える声でいった。

    「あっくん、ダメだよ。生きよう。俺たちは償わなきゃいけないんだ。それに、あっくんみたいに苦しんでる人を助けようって約束しただろ。」

    あぁ、そうだった。速値はこういうやつだった。過去に僕が誓ったヒーローになる約束もしっかり覚えていた。速値はいつだって人とのつながりを大切にしてきた。その心は僕にとっての光だった。やっぱり、速値はかっこいい。ずっとずっと僕のヒーローだ。速値はこの世界に必要なんだ。きっとこの腐った世界を変えてくれる。僕が連れて行ってはいけない。





    なら…僕を速値にとって忘れられない存在にしよう。

    ああ、僕が死んだら速値はずっと僕のことを忘れないんだろうな。ずっと僕のことが速値の心に刻まれるんだ。ああ楽しみだな。速値の心は永遠に僕の物になるんだ。

    ポケットに忍ばせていた自作の銃を取り出して、銃口を自分の喉元に当てる。

    「なにしてんだよ」



    「じゃあね、はやち」
    「あっくん!!!!!!」

    乾いた銃声の音があたりに響き渡った。
    最後に血の気の引いた焦った速値の顔が目に焼き付いた。









    ピッピッピッ
    規則的な電子音が病室に響き渡る。

    「あっくん、なんて馬鹿な事したんだよ。」

    速値が花瓶の花を入れ替え、ベッドの横の椅子に腰をかけた。

    「今日も天気めっちゃいいぞ。早く起きろよ。遊びに行けねぇだろ」

    ベッドには沢山の管に繋がれた操命握津が夢の中で幸せそうに笑っていた。
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