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    Batch1022

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    Batch1022

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    hrak創作モブ女の話。
    過去作
    誤字脱字直してないのであしからず

    少女A笑え。面白くあれ。強者であれ。この世界が自分を中心に回るように立ち振る舞え。

    私が社会の仕組みを知ったのは、小学生の時だった。人は虐められる経験を得て強くなる。

    「わああ綾乃菌がついたぞ!!」
    「きゃーー!やめて私に付けないでよ!」
    「…」

    小学校に入学して、数か月たったくらいから、この光景が日常茶飯事になった。私が触れたら、触れられた子は、私が触れた部分を拭うように手でこすり、その手を他の子に付けるかのように擦り付ける。そして、その子も同じような動作をして他の子に付ける。鬼ごっこのように楽しそうにそれを行う光景を毎日目の当たりにした。当時、クラスにうまく馴染めなかった私は、クラス内で浮いた存在として扱われ、下唇を噛みしめながら、潤む視界をグッとこらえてただ眺めていた。
    体育の整列時に、先生に呼ばれて席を外せば、私の並ぶ場所は詰められており、入れてもらえない。そして、並ぶことができなくて狼狽えていれば、先生に「速く並べ」と叱られ、小さな笑い声が周りから聞こえてくる。
    一回クラスの子に頼まれて雑用を行えば、いつの間にか私がやらなければならない雑用の量が増えていた。外を見れば元気に遊ぶ楽しそうな甲高い子供の声が響き渡っていた。
    クラスの中心にはいつもあの子がいた。あの子は明るくてムードメイカー。みんなあの子の言いなりで、あの子に嫌われたら、クラスみんなに嫌いになり、あの子が好いた子はみんなにちやほやされていた。

    私は今は底辺の存在。あの子みたいにみんなの上に立てるような強い人になれば、私もきっとみんなの輪の中に入れるんだろうな。

    小学校の数年間の経験を得て、そんな考えが、私の中で確立されていった。


    ある日、私だけが浮いたクラスで透明人間のように過ごしていた私に、転機が訪れた。父の仕事の都合で転校することになったのである。私は、新しい学校に転入すると、すぐさまあの子を模した明るいムードメーカーとしての自分でクラスの支配権を手に入れた。
    皆に囲まれて、楽しく会話できるこの環境は平和でとても素敵だ。私が積極的にやろうといったことにはみんなが同調してくれる。みんなが私の言いなり。笑って、明るく、楽しそうに、カリスマ性のような強者感を出して、他のみんなが逆らえないように、私が中心に動くように。間違えてはいけない。あの子は必ず標的を決めていた。きっとそれは、みんなが一つにまとまるために必要なこと。なら、私は、アイツを指名しよう。もともと、クラスの子たちにもそんなに好かれていなかったみたいだ。アイツがちょうどいい。

    「ねぇ、アイツさ。」
    「ん?あぁ、握津くんがどうした?」
    「私、見ちゃったんだよね、この間公園で猫の死体埋めてるところ。」
    「え、それって…」
    「絶対個性でやっちゃったよね、アレ」
    「え、こわー」

    私にロックオンされたアイツは、数日するとクラス中からちょっかいをかけられるようになった。それまでは避けられるだけだったアイツは今では、みんなに構ってもらっている。ある日は雑用を押し付けられていたり、ある日はヒーローごっこと称して青あざを増やされていたりしていた。私の平穏のため。私が強者でい続けるため。アイツには、犠牲になってもらう。

    アイツの様子を見ているとまるで昔の自分のようだなと思った。でも、別に可哀そうだなんて微塵も思わなかった。所詮私もエゴイストなのだ。自分を愛している。私が思ってたよりもみんなに酷く扱われるアイツなんかどうでもよかった。今アイツを助けたところで、私の地位が失われる可能性が高い。虐める存在がいるうちはクラスの統率がとれている。アイツを助けるやつが出てきたら、自然とソイツが標的になるだけだ。私は今のまま、空気を作って調和を乱さないようにしていけばいいのだ。

    そう思っていた。そう思っていたのに、思い通りにならないやつがいた。アイツを守り続けるやつが一人いたのだ。私の言いなりにならない。気に食わない。ソイツはみんなに好かれている。私とは違う形で。だから、ソイツはアイツのことを庇っても標的にされることがなかった。でも、それはそこまで大した問題じゃなかった。ソイツがどう行動しようが私の地位が揺らぐことがなかったから。だから、私はソイツのことは気にしないことにした。


    そうして平和に過ごしていたら、また父の転勤がきまった。それに伴って私も転校することが決まったのである。みんなとの別れを惜しんで、お別れ会をやって、私は新しい地へと旅立った。


    新しい地でも私は地位を築き上げて、支配者として君臨した。でも、今回は標的を決めてみんなにさり気なく指示を出したら、私への視線の温度が下がった感じがした。

    「ねぇ、あんたさ、調子乗ってない?」
    「確かにアイツちょっとうざいけど、私たち今のあんた言ってること嘘ってわかったよ。」
    「ないわ」
    「え、待って待って待って」


    そこからが、地獄の始まりだった。クラスで、明るく挨拶をしても帰ってこなくなり、机にはグシャグシャにされたメッセージ付きの紙が入っていた。SNSにはいつものメンツが私抜きでいつの間にか遊びに行っていた写真が上がっていて、登校すれば机に花が一輪置かれていた。

    どこで間違えた。おかしい、私は前と同じようにやったはず。何故。

    どうしようもない疑問が次々と脳内で浮かんでは消えていった。頭の中がぐるぐるとして、息が苦しくなる。学校が辛い。読めない人の心。消えた平穏。胸が痛い。吐き気がする。
    ふと机を見ると、そこにはさっきまで使っていたハサミが置かれていた。真っ白な頭でそれを手にして、刃先を手首に突き付けた。スッと勢いよく手前に引くと、一本の赤い筋ができて、ツゥっと鉄臭い液体が腕を伝った。
    頭がすっきりするような感覚がした。
    ああ、何やっているんだろう私は。こんなのリストカットじゃないか。何イタイことしてんだ。こんなことしたって、めんどくさいだけじゃないか。でも、これで心の平穏が取り戻せたことに何とも言えない高揚を感じた。


    次の日、腕の傷をそのままにするわけにはいかないため、軽い手当をして学校に行った。すると、クラスの子は私をみて、

    「え、何それ、リスカ?」
    「ヤバ、そんなことして何になんの?当てつけ??」
    「心配されたいとか思ってんの?」
    「え、笑えるんだけど、死にたいなら、迷惑かけないようにしてよ」

    冷たい言葉の数々に視線を上げることができない。別に心配されたいなんて思っていない。死にたいわけでもない。死ぬのは怖い。でも、今は消えたいとは思っている。死にたくはないけど、消えたい。どうしようもない感情をぶつけるため、私の腕の傷は毎日毎日増えて、消えることはなかった。


    ある日、家にいるのもしんどくなって、散歩に出た。夜が更けて少し肌寒いけど、ちょっと遠出したところの公園で、誰も私を知らないだろう場所でのんびり過ごしたかった。
    ベンチに座って、自分の腕をただじっと見つめて過ごしていた。

    「どこ行ったんだ、あっくん…もう、追いつかないとこまで行っちまったか??」

    公園わきの道に同年代くらいの男の子が走ってきた。こんな時間に私以外にも出歩いている子供がいるのか。

    「あ、こんばんわ。ここら辺に俺と同い年くらいの…アホ毛が一本こうピョンってなってるやつ見なかったか?」
    「いや、見てないけど」
    「そうか…って!!君怪我してるけど大丈夫か??!」

    男の子が私の腕を見て慌てて近くに寄ってきた。いや、なんで来るんだ。ふつう放っておくだろうこんな訳ありそうなめんどくさそうなやつ。

    「大丈夫です」
    「本当か??ならいいんだが…俺でよかったら話聞くぞ?ここで会ったのも何かの縁だろう」
    「…」

    そう言って彼は私の隣に腰を下ろした。
    なんかすごい押しが強い人だ。パーソナルスペースが狭いのだろうか。
    そんなことを思っていたが、この時の私は大分限界が来ていたようで、どこかに発散したかったのだろう。誰かに、私に関りがない人に話を聞いてもらいたかった。
    だから、彼の提案に乗って私はぽつぽつと今までの出来事を語っていった。
    話しているうちに涙があふれ、嗚咽しながら少しづつ話した。彼は、私にハンカチを差し出し、静かに話を聞いてくれた。

    「…そうか。君はずっと寂しかったんだな。」
    「…は?」
    「君は孤独を味わって、誰も信じられなくなってしまったんだろう?それはとても苦しいことだ。自己防衛で君は他の人にも自分にされたことして、仲間を作ろうとしていた。でも、それも否定されて、きっと君は満たされない孤独感に心がボロボロになっているんだ」
    「…」
    「君がしたことは許されることじゃない。でも、君にはそれを教えてくれる仲間がいなかったんだ。これからは俺がいろいろ教えてやるよ!友達はたくさん作る必要はないんだ。君が一緒にいて楽しい、信頼できるって思える最高の友達を見つけられるように、俺が君の友達一号になる!!だから、まずは、君のその心の傷を一緒にゆっくり癒していこうぜ!」

    「あ…」

    綺麗な目。美しい。今まで見たことのない目。吸い込まれそうな深い蒼。誰にも足を踏み入れられていない新雪のような、穢れを知らない美しい人。心の奥まで温められるような優しいお日様のような人。
    ほしい。
    この人がホシイ。
    私のものにして、私色に染めたい。
    私の太陽にしたい。
    ああ、なんて美しい…

    「ねぇ、」
    「あ!!あっくん!!!!!っごめん、俺、あいつ追わなきゃだから!」
    「あっ」

    私の話を聞いて、私のために「友達」になってくれるという綺麗な人は探しているという男の子を追って走り去ってしまった。でも大丈夫。きっと迎えに行くからね。

    手元には「Hayachi」とお洒落に刺繍されたハンカチが握られていた。

    あれから、学校が辛く感じることが亡くなった。私には速値くんがいるのだ。誰に何言われようがされようが、私には関係ない。彼が私の味方になってくれる。いつか必ず彼とずっと一緒にいられるように、手に入れて見せる。そうして、私は、名前と記憶を頼りに、速値くんの行方を探り当てた。

    暗くなった夜の道をフラフラと歩いて、速値くんの家へと向かう。手にはクロロホルムをしみこませたハンカチを握りしめて、まっすぐ向かった。速値くんがうちに来たら何しようかと楽しい妄想が止まらない。マスクの下でうっそりと笑った。

    すると、急に背後から手を背中に回された状態でうつぶせに押し倒された。あとちょっとで彼の家に着くのに、誰だ、私の邪魔をするのは。どけ、速値くんに会えないだろ。どけよ。
    後ろで私を押さえつける存在にイライラしながら、私はもがいた。何とか見えた特徴的なアホ毛に速値くんが探していた男の子だと気が付く。

    「どいてよ。あとちょっとで彼に会えるの。どいて。邪魔しないで。」
    「お前、僕と同じなんだね。でも、ダメだよ。速値は僕のだから。」
    「ふざけないで。彼は私に友達になってくれるって言ってくれたのよ。速値くんは私のよ。どこのだれか知らないけど、あんたになんかあげるわけにはいかないわ!」
    「ああ、忘れてるんだね。僕たち同じクラスだったことあるのにね。僕はちゃんと覚えているよ、お前は加害者なんだ。そんな奴が速値に手出すなんて許せるわけないだろ。今も昔も速値は僕のだ。お前が入る隙はないよ」

    そうか、こいつはあの時私が標的にしていたアイツなのか。それじゃあ、こいつを庇っていた子は速値くんだったんだね…君はずっと優しい子だったんだ。速値くんはずっとこいつのことを想っているんだね。私なんかが特別になるには遅すぎたのかな。もっと私が強かったら。もっと私の方が早く彼と会っていたら…

    「じゃあね、綾乃さん。」

    ああ、あんたも強くなったんだね。
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