午後の光が、やわらかく室内を満たしていた。
古びた木の床に差し込む陽射しが波のように揺らいでいる。開け放たれた窓から山の風がふいに吹き込み、カーテンの裾をふわりと持ち上げた。乾いた土と草のにおいが、室内にまで入り込んでくる。
日ごとに陽は高く麦の穂は膨らみ、白い花が畑の隅にぽつりぽつりと咲きはじめる頃。庭の木も薄緑の葉を重ねながら、夏の準備を静かに進めている。暮らしのなかに、季節の輪郭が少しずつ浮かび上がってくるようだった。
ゼルダはテーブルに向かい、小さく息をついた。膝の上には、冬に着ていた上着が広げられている。袖口のほころびに指を沿わせると、小さな裂け目が指先にひっかかった。寒さを越えてきた布の記憶が、そこに残っていた。
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