口紅(ヒカテメ)コンコンとノックの音がする。どうぞ、と声をかければ扉がガチャリと開き、ヒカリが顔を出す。
「テメノス、少しいいか?…っ、すまない。まだ身支度中だったか」
「ヒカリ、おはようございます。構いませんよ。もうすぐ終わりますので」
鏡の前に立つテメノスが服を整えながらヒカリに挨拶をする。
「もう少しだけ準備が必要なので待っていて頂けますか?」
鏡台の前に座りなおしたテメノスが、懐からなにかを取り出す。それは黒い丸いものだった。掌に乗るぐらいの大きさで、不思議そうに見つめるヒカリに気付いてかテメノスが「紅ですよ」と蓋を開けて中身を見せる。中から赤い色が見える。
「ソローネくんに借りたのです」
指先で紅を取り、唇に乗せていく。テメノスの色のない唇が色づいていく。
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