需要と供給の一致 ●
営業が終わったダイナーの厨房から、ガチャ、カチャ、と調理の音が聞こえてくる。黄連を探す為に研ぎ澄ませた閃の耳に、その音はいつもよりも荒っぽく聞こえた。
「……黄連支部長?」
そっと顔を覗かせると、小さな後ろ姿が見える。足場に乗って、何やらブツクサ言っているが、言葉はフライパンを揺する音に掻き消される。
視線をずらせば、台の上にビュッフェもかくやと品々が並んでいた。今から宴会などの予定はなかったハズ。ましてや新メニュー開発にも見えなくて。
「ああ」、と閃は察した。この上司、時たま――激しく疲労した時やストレスを感じた時に、こうして大量の食事を作るのである。本人が自棄食いをする為ではない。ただただ、作りまくるのである。
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