最終話 永遠のバディグッドモーニング★(説明不要だよね?)僕は伊月暁人22歳ごく普通の大学生。今までのことがなかったみたいに日常を過ごしている。何もなかった。それでいい。
(いいわけないだろ……!)
そう思っていても僕にできることは何もない。僕はただただ日常を過ごしていた。
その日も大学からの帰り、誰もいない閑静な住宅街をとぼとぼと歩いていた。
『フフフ、力が欲しいか』
「お、おまえは!?」
何もかも間違っていた。オレはようやく気づいた。
ハンニャに裏切られた激昂のまま殴り込み返り討ちにあい、死にかけたところに偶然見つけた適合者。ガキで男だが見た目は悪くなかったし、頭も悪くなく物事の飲み込みの良さや決断力もあった。
騙してはいないが半ば強制的に契約を結んだ。
アイツも妹も死なせなかったのは良かったと思う。
だがその代償をすべてアイツに負わせた。こんなオッサンと繰り返しセックスして、二度と女を抱けないような身体にした。いや男でさえもオレ以外は満足させられないようなオレ好みの。
最低だ。セックスしなければいけないという状況と強制的にセックスしたいと思わされる状態を利用した。
オレだってそこそこ昂ぶりはするがアイツのようなガキではないのだからもっと淡々とこなせばアイツも義務として受け入れられただろうに、馬鹿みたいに熱を上げて全部をオレのものにしたいと望んでしまった。一時的でも恋人になったつもりでいた。バツイチの子持ちのオッサンが。本気であの青年に劣情を抱いていた。
この戦いが終わったらオレはハライヤ界に戻って、アイツは普通のヒトとして何の接点もなくなる。そんな単純な事実も忘れて責任を取ると馬鹿みたいな約束をして満足していた。
それなのにアイツは契約したせいでオレのことを好きだと思い込んで、必要のないセックスまでさせた。
あの夜、アイツは一粒の涙と共にこんなつもりじゃなかったと溢した。
ハンニャにやられた以上の衝撃だった。
錯覚していたのはオレだけだった。
これ以上アイツに背負わせる必要はない。今度こそハンニャを倒す。あの日と違い冷静になった、リンコたちとも話し合えた、アイツのお陰でヨルベ界は弱体化しコッチは強化された。
もうアイツの顔が見られない絶望感は罰としては優しすぎるくらいだ。
最終決戦はやはり採掘場が似合う。オレはボロボロの状態で岩陰に隠れていた。
『まさかハハグモーがハンニャの嫁で融合するとはな』
引き離して一体ずつ撃破を狙っていたが予想が外れ状況は厳しくなっていた。的がでかいと当たりやすいが結局頭のハンニャをやらなければ土台はいくらでも回復する。
だがオレは一度死んだ身だ。
ちょうど敵の間に飛び出すとハンニャは巨体を揺らし嘲笑った。
『遂に諦めたか』
『んなわけねえだろ。 ここでオマエと相討ちになってやる』
もう何も残っていない。ここで華々しく散るのもいいだろう。そうすればオレも苦しみながら生きずに済む。
『どこまでも愚かな。 貴様の一撃など効きはしない』
『オレならできる……そうだろ』
誰にともなく言った。つもりだった。
「一人じゃ無理だよ」
『何!?』
声を頼りに天を仰ぐ。切り立った崖の上、夕陽を背にそのシルエットはあった。
「イきすぎた欲望は即☆浄化! 魅惑の妖狐、メギツネチャン!」
ドォン!と明らかにやりすぎた爆発と共に跳躍するとオレの横に着地した。
『オマエ、どうやって!? なんでここに!?』
「話は後で。 今はあいつを浄化しよう」
僕たちならできるだろ?
狐面を奥に挑戦的な瞳を感じてオレは口の端を吊り上げた。
『ああオレたちは最強のバディだからな!』
互いの指を絡めるようにして手を握る。
長々と説教するハンニャの声など耳に入らない。暁人が隣にいる。それで十分だ。
『暁人』
「なに?」
『好きだ』
「僕もだよ」
令和になってもこういう時に撃つ技は決まっている。
『ありがとう』
浄化されたヨルベンニャとハハグモーを見送って礼を言ったのはネコターラとなっていた妖精エリカだった。
『メギツネチャンに浄化してもらったのとその後リンコが助けてくれたお陰で元に戻れたの』
それは良かった。エリカはハンニャの野望に巻き込まれただけで元々オレたちの味方だった。オレが負けた日に連れ去られて幹部にされていたらしい。
「それで残っていたエーテルを分けてもらって変身したんだよ」
『分けてってオマエ……』
エリカはまだ子どもだ。人間界で言えば暁人の妹とそう年が変わらない。いや、暁人の年齢を考えればオレよりもエリカの方がお似合いではある。
しかし暁人は慌てて(狐面で表情は見えないが)手と首を振った。
「へ、変なことはしてないよ! ていうかしなくてもエーテルチャージできるって聞いたんだけど!」
『アレが一番効率がいいんだよ。 ガジェットもいらねえしな』
嘘は言ってない。エリカは木札(本人曰くマジック☆カード)を使ってアレコレするがオレは物を持ち歩くのが好きじゃねえし、マレビトーンの気配を感じて逐一細々やるのは面倒だ。かといって今思えば相手が暁人でなかったらヤってなかったが。
『つうかリンコも何で黙ってやがった!』
『言っても受け入れなかっただろう』
それもまた事実なので反論しがたい。
呻くオレを鼻で笑ってリンコはオレたちを交互に見やった。
『とにかく後処理はこっちでするから貴方たちはじっくり今後のことを話し合って』
『今後のことって言ってもだな』
ヨルベ界が消滅すればオレたちもハライヤ界に引き上げることになる。そうすると二つの世界を繋ぐものはもうない。
『エドが二つの世界を行き来できるガジェットを完成させたわよ』
「えっ!」
『有能すぎるだろ……』
貴方たちの頑張りにこれくらいの見返りがあってもいいだろうとリンコは微笑みエリカはピースサインをしてみせたのだった。
そういうわけで僕の部屋である。
変身はとうに解除しているので結界を張ってもらう。後は寝るだけの時間だから部屋に籠っても怪しまれることはない。
『何か荒れてんな』
確かにここ数日大学に行って寝るだけの生活で麻里にも心配されてたけど。
「KKが急にいなくなったせいだよ」
唇を尖らせて文句を言えば素直にすまんと返ってきた。
とりあえず空いてるベッドに二人並んで座る。ちょっとぎこちない。
「KKの考えはわかるよ。 この気持ちがメギツネチャンの副作用で錯覚だってことは否定できない。 でもKKが好きって気持ちは今確かにあるんだ」
『でもオマエ、泣いてただろ』
「あれは……だってあんなの一方的な……強姦だろ」
KKが人間界の刑事なら逮捕されてもおかしくないし普通に訴えられるかも。結局妖精界の法律について聞いてない。
『オレだってオマエにしただろ』
トンと胸を突かれてンッと声が出る。ジャケット着てるのに何で乳首の位置がわかるんだよ。
「……僕は、そんなに嫌じゃなかったんだけど」
『オレもそうだ』
だから気にするなと言われて困ってしまう。じゃあメギツネチャンにならなくていいって言ったのは本当に僕のためと思っていいのだろうか。
「KKって、本当に僕のこと……好きなの?」
『はぁ!?』
結界がなければ麻里に聞かれていただろう声を上げたKKは
『前にも言っただろ』
と呆れたように応えた。
「あれは特訓のための方便かと……」
『オレがそんな嘘つくかよ』
どうやら僕たちはずっとお互いのことを思って擦れ違ってたみたいだ。
なんだかすごく遠回りしてしまった気がするけど、敵も倒したし大団円、だよね?
『こういう時は最後に結ばれた二人は濃厚なキスをしてベッドに倒れればいいんだよ』
「何で妖精がそういうネタを知ってるんだよ」