「ねぇ巳虎さん、捨てないでくださいね」
「は?何のことだ?」
事後のまだ少し艶を残した声で弥鱈が言う。
突然のことに巳虎は心当たりがない。捨てるな、と言われても弥鱈から何かを貰った覚えもなかった。
「あの時、あなたは這い蹲りながらも拾ってしまったんですよ。そこに捨て置かれるはずだった私の興味を」
「何だよそれ」
「崩れ落ちた姿を見てあなたへの興味は無くなったはずでした。でも、あなたはそれを許さなかった」
「はぁ?」
とんだ言いがかりだ。お前が勝手に…
そこまで言いかけて、巳虎は口を閉ざす。
だいたい、こうして身体を重ねるようになったきっかけは何だったのか。どちらが言い出したことなのかも分からなかったが、正直なところどうでも良かった。
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