われてもすゑに 曽祖母の百人一首は取り札が一枚足りない。
家の者には周知の事実であり、一字札であるが故にお手付きを誘うこともなく、九十九人一首と渾名されながら、我が家では長く使われてきた。
いつだったか、行方不明となった一枚の行方を問うてみたこともあったが、曽祖母は、昔々、渡り鳥に差し上げたのよ、と楽しげに笑うだけで、詳細を聞き出すことはついには叶わなかった。
後に買い求めたものに遊び道具の座は譲り渡しながら、九十九人の百人一首はそのまま我が家にあり続け、今もひっそりと戸棚の奥に眠っている。
梅雨明けのある日、不意に始まった虫干しのなか、ふと思い立って戸棚からそれを取り出した。縁側に続く障子を開け放ち、畳の上に札を並べていく。
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