天人五衰(三) 江宗主と久しぶりに言葉を交わした日の翌朝。まだ卯の刻になっていないのに、下履きが濡れている感触に藍曦臣ははね起きた。
この年で、と衝撃を受けたが何を漏らしたかがわかって恥ずかしさのあまり手で顔を覆った。なぜこの年で?とやはり衝撃を受けた。
放精で濡れた下履きを宿屋の洗濯係に渡す気になれずこっそり部屋で洗った。汚れとともに羞恥も落とそうとして強くこすったところ、勢いあまって盛大に破いたのは言うまでもない。
町中へ新しい下履きを探しに行き手に入れると、色鮮やかな布がちらりと横目に入って藍曦臣は足を止めた。
布かと思ったらそれは姿絵だった。
彩あふれた絵が竹で組んだ高い壁に所せましに吊るされ、粗末な木の台に何枚も積み上げられている。どれも版画で刷られていて書の頁ほどの大きさだ。墨絵は案外少ない。
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