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    1YU77

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    1YU77

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    元ブラ企業やぎしずちゃん進捗⑥
    下書き状態文章崩壊かも💦
    次回!最終回!?次回は最後までまとめて支部かなと思っています(未定)
    くそケンカになりそうです。無限ループにもめるやぎしず。
    もうすぐ最終回!

    元ブラ企業やぎしずちゃん進捗⑥前回そのまま続き



     八木は深く息を吸って吐く。何を今更、変な緊張を、とスマホの画面に表示された「志津摩」という三文字を見つめる。
     橋内はちゃんと連絡をするまで八木を見張るらしく、早く早くと顎で指示してくる。
    うん、と意を決し画面をトンと押す。
     呼び出し音が響くなか、八木は逸るような、逃げたいような気持ちになった。
     志津摩は今日も仕事に行っているはずだ。電話に出られるかどうかもわからない。
     しかし、責めるような呼び出し音がブツリと途切れて。
    『八木さん!』
     出た。志津摩の変わらない明るい声を聴き、それまでの不安はほっと薄れ胸が温かくなる。
    「しずま、」
     通じて話を始めると橋内がひらひらと手を振って。「かえる」と声を出さずはっきりと口を動かして伝えた。八木はうんうんと頷いて。「がんばれ!」と拳を握り激励し離れていく橋内に手を振った。
    『八木さん? どうしたのですか、珍しい時間に』
     志津摩も大人しい八木に何やら戸惑った様子だ。気遣わしげにそっと窺ってくる。八木はぎりとスマホを握りしめる。志津摩にこんな声を出させたいわけじゃない。
     道を歩きはじめた。目的の場所も定まらず。喧騒の中を歩き出す。
     まだそこが目的地とは決まらないけど、志津摩が居るだろう場所へ少しでも近づく方向へ。
    「すまん。今、すこし話せるか」
    『はい! 今は小休憩中で一人ですし』
     ほら、あの空き会議室で! いつも通り話す志津摩に八木は電話口にうんうんと頷く。
    「志津摩、その……んー、」
     何から話せばいいのだろう。何を言いたくて電話したのだろう。
     橋内、助けろ。思い切って電話できたが何を伝えればいいのかわからない。
    『八木さん? ほんとなんかヘンですよ、急に……何かありました?』
     志津摩の声が不安そうに陰る。八木は焦る。けれど、本当に何から話せばいいのか、いっそ話したいことは有ったのかと額に手をやり思い悩む。
    『あの…………俺、またなにかしました? その、』
     言葉を探して黙り込む内に志津摩がどんどん心配する。それに焦ってまた頭が空っぽになる。
    『あの、八木さん……?』
     喧騒の中、人混みを分けてただ歩く。困り顔の志津摩が浮かんで胸が苦しい。
    「志津摩、そんな緊張するな。何かあったとかじゃなくて、」
    『ん……、大事な、話ですか、』
     志津摩の声が完全に不安に染まり八木は慌てる。違う違う、そんな気持ちにさせたくない。
    「い! 違う違う、聴いてくれ志津摩」
    『…………あ、あの今は、いやです。残りの仕事できなくなるかも、』
     志津摩はどんどん辛そうになる。八木は必死で違うと口を挟むが志津摩は「今は嫌です」と拒絶し聞きたくないと嫌がった。
    「おい、しず――、」
    『休みの日とか、じゃだめですか……今はちょっと、俺にだって、その心の準備が、』
     それを聴いた瞬間、八木は声を振り立てて。
    「志津摩っ!」
    「ひゃい!」
     手が震えてしまう。やっと志津摩は押し黙って遮断するのを止めてくれた。
     どうしよう、何と言おう。そう思っていたはずが、志津摩の弱った声で全部すっ飛んだ。
    「あ、逢いたい、っ!」
    『へっ!?』
     志津摩がむこうで息を飲んだ。でももう止まらない。
    結局、八木の言いたいことなんてこれだけだ。
    「……あいたい、志津摩っ」
     気付けば立ち尽くしていた。歩みを止めて呆然と街の中、恋しい人にねだる。
    『やぎさん……?』
    「今、近くに来てるから、逢えないか、」
     無理を言っているのはわかっている。それでもどうしようもないのだ。
     こう伝えるほかない。いっそ言いたいことなんてもうこれしかない。
     当然、志津摩は酷く動揺した。
    『え!? 近くって、え! ほんとですか!? けど、俺は夜勤で……』
     志津摩が困惑しながら答えるのに八木は電話口に頷く。わかっている、無理だろうことは。
    「そうだよな、……し、仕事だもんな。俺、なにいってんだろうな」
     情けなくて笑えてくる。けれど志津摩の不安そうな声は別の調子に変わった。やっぱり橋内は正しい。八木が逢いたいと想っている気持ちを伝えることに意味があるのだろう。
     志津摩はすこし喋らなかったけれど、電話口で「う?」とか「はわ、」「へ?」と変な鳴声で混乱していた。それから漸く、息を吸ってまともな言葉を発した。
    『む、むりじゃないです! 俺も逢いたいです!』
     志津摩の慌てたような弾んだ声に八木は驚いて、ほっと胸が温かくなる。
    「うん、はは……ありがと、それだけ聞けたら俺は嬉しい」
    『やぎさん、俺だって、逢いたいですよ? ほんとです』
    「おう、でもこんな急で勝手すぎるよな。でも、どうしても。なんか不安で、」
     八木は苦笑いした。これまでこうして志津摩に弱音を吐くことをしてこなかった。元々上司、後輩に弱音なんて吐かない。二人で記憶を取り戻し共に居ようと誓った日からは、これから自分が志津摩の手を引き何からも守るのだと決めていたから。志津摩を不安にさせたくないから、気弱になるところも見せないように気を張って。無理していたわけじゃない、それは自然な気概で自らの強い本懐だった。でも。どこか気負い立つに強張っていたような。
    『やぎさん……不安、ですか』
    戸惑う志津摩に八木は「うん」とありのまま肯定した。
    素直に口にし、志津摩にも伝わったことで何か虚脱し心が凪いでいくのを感じていた。
    『ほんとに、近くにいるんですか?』
    「○○町付近歩いてる、駅も見える」
     答えると志津摩は「ええっ」と驚いた声を上げる。
    『そこ、走って逢いに行けそうだな……』
     志津摩に笑って「そうだな」と答え八木はまた歩き出した。いきなり今日なんて逢えないだろうけど、少しでも傍に行こうと足がそっちへ向かう。
    「すまんな、志津摩。わがまま言って。志津摩も逢いたいと言ってくれて、俺は単純だから、少し満足した。声が聞けてよかった」
     声だけでも聴けと言われた理由を実感していた。志津摩と話して乱れていた心が安らぐ。
     いくらか納得して志津摩の休憩時間だけ話せたらいいと思った。
    『俺……、体調わるいことになろうかな』
     志津摩が溢したそれに八木は胸がちくりと痛み、また足が止まってしまう。
    「…………おい、そんな、」
    『えへへ、そうできたらいいんですけど、ダメですよね……』
     仕事に厳しかった八木を想ってか志津摩はおずおずと答えた。八木はまたスマホを握りしめる。志津摩に「ダメ」なんて思わせたくない。そんなことは不可能なことだが。
     今は、今だけでも。踏み込もうとしている八木は志津摩に手を伸ばす。
     甘えてみようと思った。考えてみれば、志津摩は「八木さんは八木さんだ」と受け入れた。きっと芯の弱いところもあるとわかっている、もしそうでなくても。
     志津摩は、いつだって八木を優しく受け止めてくれるのだ。虚勢で誤魔化し不安を隠すよりも、志津摩に素直な気持ちを伝えたほうが、良いのかもしれない。
    「志津摩」
     名前を呼ぶ。いつも、いつも。声を掛ければいつも志津摩は傍に来てくれるのだ。手放しに八木を受け入れようとしてくれる。どんな時だって。だから、本当は強い八木のままでいたいけれど。でも、本当の八木は。
    「本当はっ……、そうしてほしい。今すぐ、仕事すんのやめて、来てほしい、逢いてえから」
    『やぎさん?』
     余計なことを考えて言えなかったことが止まらなくなる。かっこつかない、何も取り繕えない。溢れて抑えられない。
    「今、あいたいんだ。どうしても、お前の顔がみたいっ、」
     本当は不安だから。声を聴いただけでも乱れた心が静かになるけれど。同時に恋しさが増す。
     逢えばきっともっと八木は満たされる。いま、どうしても。志津摩を抱きしめて弱い八木の気持ちを助けてほしい。志津摩の心がわからないと弱気になる自分を抱きしめて欲しい。ちゃんと志津摩に向き合って聞いてみたいこと、話せなかったこと、全部素直に向き合えるように支えて欲しい。八木は、本当は強くはないのだから。
     志津摩は詰まったようにじっくりと八木に声を掛けた。
    『……やぎさん、? だいじょうぶですか、どうしたんですか……なにか、』
     志津摩が深刻に、心配げな声を出す。無理を言って仕事の邪魔になりたいわけじゃない。大したこともないのに余計な心配をかけたいわけでもない。
     けれどどうしようもなく恋しかった。もっと逢いたいと言いたかった。けれど声が聞けて充分嬉しかった。それだけで今日は満足しようと自分を奮い立たせ、甘えた弱い心を振り切るために首を振る。
    「……すまん。冗談、冗談。また逢える日を教え、」
    『……早退します!』
     志津摩の大きな声に八木は息を止めた。
    『もう、帰る! すぐ行きます』
     志津摩の決意めいた声音に八木は焦る。仕事をサボらせてまで呼びつける悪い恋人になりたくはないのだ。ただ伝えたかっただけで。いつでも逢えるなんて都合のいいことは考えてなかった。もし、もしも時間が合うならばと。それだけで。
    「いや、待て待て! ごめん、わるかった。俺の我儘で悪ぃよ、そんな――、」
     まだ話しているのに志津摩がかぶせてきて八木よりも大きな声を張る。
    『恋人が調子わるいんです! 一大事です、』
    「しず、ま……」
     清々しく言い切ると志津摩は何やら歩き出した。バタンとかあの会議室のドアが閉まる音がする。志津摩はかつかつと足早に歩いている。
    『俺、いつも私用で休まないし、体調も崩す事ないし、こういう時こそ!』
     八木は志津摩の強い意志を感じて唇を噛む。志津摩には見えないけどそこで何度か頷いた。志津摩に逢えるのだと思うと、心がふにゃふにゃになって、甘えたくなる。
    「……ほ、ほんとか。きてくれるのか」
    『もちろんです! 八木さんもいつも逢いに来てくれたじゃないですか』
     即答する志津摩の笑った息が聴こえてきた。その表情まで頭に浮かぶ。その気持ちが嬉しかった。
    「いや、ありがとう。けどやっぱ悪ぃよ、こんなしょうもねえことで」
    『なんで! なにが! 何がしょうもないんですか! 俺が調子わるそうな八木さんほっとくのがやなんです!』
     志津摩が怒る。滅多に怒らない志津摩が今、怒っている。
    「俺、調子わるくもないぞ、」
    『悪いです、悪いんですよ八木さんは!』
     言い切られるとなんだか心が弱くなる。志津摩に決めつけられると弱る。
    「わるかったよ、志津摩……むりするな。すべきこと放ってまで来なくて、」
    『俺だって――!!』
     志津摩が声を引き絞った。ほとんど聞いたこともない志津摩の大きな声に八木は強張り口を噤んだ。
    『俺だって逢いたい! おれだって、ッ――』
     声が震えだして八木の胸が締め付けられる。息も詰まるように苦しくて。
    「しずま」
    『八木さんが逢いたいというなら、すぐにでもあいに行きたい、おれ、が……ッ、』
     泣き出した。八木にはその息遣いで志津摩が今どんな顔で泣いているのか見える。
    『俺だって、八木さんがしたいことがしたい、八木さんが逢いたいなら、俺は逢いに行く、俺も逢いたい!』
     志津摩が怒りながら泣くから。八木も目頭がじりじり熱くなって。星空を仰いで笑った。
    「うん、わかった……、わかったよ。泣くな、志津摩」
     宥めるように優しく諭す。その頬を撫でてやれないから、できるだけ優しい声を出す。
    「来い、すぐに。早く来て、待ってるから、志津摩。逢いたい。逢いに来て」



     志津摩は上司に頭を下げ着の身着のまま会社を飛び出した。肌寒い時期だが、汗を浮かせて走る。待ち合わせた場所は会社のすぐ傍にある街区の公園だ。
     志津摩は公園に着くなりきょろきょろと見回し、ポツリとたった街灯下のベンチに座っている八木を見つける。
    「八木さん!」
     叫ぶと白い息が立つ。座ってぼんやりしていた八木が声に応え立ち上がる。志津摩は全力で駆けだし、はっとこちらを向く八木に勢いよく飛びついた。
    「おわ、志津摩っ!」
     八木はよろけて受け止めるが志津摩があまりにも思い切って飛びついた勢いにバランスを崩し、地面に二人転がる。それでも八木は強靭な脚力で堪えて勢いを殺ししっかりと志津摩を腕に支えて自分の上に抱えた。
    「は~~~、あぶねえな」
     ぽすぽすと後頭部を撫でながら八木は息を吐く。一方の志津摩は八木の首元に顔を埋めてくっついている。早速ふすふす吸い込んでいて笑ってしまう。
     倒れ込むと夜空がよく見えた。街灯りに星の煌めきは本当の輝きを発揮し切れていないが、それでも犇めくように澄んだ空に瞬いている。大きく円かな月は街灯りに負けず眩い。
    「八木さん、身体ひえてますね、ごめんなさい」
    八木は首を振って志津摩の髪を撫でて上体を起こす。地面に座り込んだまま腿にでかい男を乗せているのだから滑稽なものだ。けれど退けようとも思わない。
    もうすっかり夜更けで人っ子一人いない。橋内と別れた時、すでに十時近かった。
    「早かったよ。あの真面目なお前が仕事サボって逢いに来るんだから、」
     八木は志津摩の頬を手の甲で撫でた。指先が冷えているからそっとさするだけにした。
     志津摩の手を取って立ち上がると、志津摩の両手を左手で右手、右手で左手とそれぞれで握る。向き合うと志津摩は大きくて綺麗な瞳でじっと八木を見上げた。
    「あのさ、志津摩」
    「……や、やぎさん、!」
     八木は首を傾げた。どうした。と聞き返すが俯いてしまう。ぎゅっと手を握る。
    「志津摩、あいにきてくれてありがとう」
     また緊張しているから、八木は志津摩の手の甲を親指で撫でた。志津摩はうんうんと頷いた。同じだ、緊張すると志津摩は唇をうずうずと引き結ぶ。
    「やぎさん……、」
    「なに?」
    「大事なはなし、ですか」
     八木は瞼を伏せる。すこし考えてみたが伝えたいことがわからなくなる。
    「ん……その、わからん。何から話せばいいんだろう。お前に、俺はどうしたいんだろう」
     強く手を握ったまま八木はそのままを呟いた。暫くそのまま二人とも何も話さなかった。ただ手を繋いで立ち尽くして。八木は黙り込む志津摩をそっと窺う。
    「しず、ッ――」
     志津摩が泣いている。すこし俯いたまま大きな瞳から涙の粒が零れている。
    「しずま!? え、どうした、」
     八木は慌てて志津摩の腕を引いて抱きしめる。
    「う、うー……ッ、うぅ、ぅ」
     志津摩は八木の腕に包まれたまま棒立ちで嗚咽を漏らす。しくしくと静かに涙して動かない。いつもなら志津摩も八木を抱きしめてぎゅっとくっついてくるが、今はされるがまま動かない。
    「ひ、く、ぅ……やだ、」
     なんとか捻りだした涙声に八木は眉を寄せる。
    「おい、なんで泣く、志津摩……なぁ、しずま」
     そっと肩を支えて離れ志津摩の顔を覗き込むが手で顔を覆って隠してしまう。首を振って志津摩は固まったまま必死に嗚咽をかみ殺す。
    「なにがいやなんだ、……志津摩、」
     八木は志津摩の背を撫でた。志津摩は小さな声で「ごめんなさい」と溢した。
     その一言に八木の視界が濁る。なんとかして声を絞る。
    「志津摩、もう謝るのは止めろ。いってくれんと、わからん。いやなことは、嫌だとおしえてほしい、してほしいことは、してほしいと、言ってくれ。おれは、お前に我慢されるのは堪えられん」
     願うように伝えるが志津摩はその場で首を振る。
    「しずま、はなしてくれ、頼むから」
     志津摩の頬を支え目と目を合わさせる。志津摩の黒い瞳はぐっしょり濡れている。
     いつも綺麗に跳ね上がった眉を下げ、凛々しい目元は哀しみに歪む。
    「おれ、わかれたくな、!」
     八木は見開く。刹那、全ての時が止まったようになる。





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