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    1YU77

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    1YU77

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    謎の現ぱろ続きすこし☺この先着地行方不明
    ※しずに他の人との経験描写有 小説内にその表現はなし

    謎現パロ②「お兄さんかわいいね、今晩どう~?」
     焼酎を呷っていると声を掛けられた。
    「うーん、そうだなぁ」
     志津摩は声の主を見て息を抜いた。
    「俺めっちゃ君タイプなんだけど、かわいいしかっこいい」
    「あはは、ありがと」
     微笑んで適当にいなした。
    「俺、今日は背が高くて、吊り目の人がいいなぁーって思ってて」
     相手は「そりゃ具体的だね」と笑ってまた他へ声をかけに行った。
     目が大きくてくっきり二重のきれいな優しい顔立ちの人だった。あの見てくれじゃ引く手数多、一晩の相手に困ることもないだろう。
     今の志津摩はそんな気分じゃない。はっきり言えば「八木さん」みたいな人としたい。
     せめて体格の似た人いないかな。見渡してもあれくらい背の高い人はいそうにない。
     尤もあれほど一目に胸を打ちぬかれるような人に出逢ったことはこれまで一度もない。
     見た瞬間に「この人だ」と何故か思った。
     かっこよかった。理由はない。かっこいい年上がタイプなのだ。
     それは昔から。
     薄い焼酎に首を傾げる。なんだこれ。舌も喉も熱いのに旨くない。
    いつまでこんなことができるんだろうなぁ。
     浮かべながら憂いて酒をかかげて煽った。アルコールが通ると喉が熱かった。
    「うわぁ~、君すごくかっこいいね。見た瞬間びっくりしちゃった。近くでみるともっとかっこいいし、すごく可愛い、ここにはよく来る?」
     また隣のスツールへ腰掛けてきた男に志津摩は微笑み返した。
    「こんばんは、ここはあまり来ないかなぁ。お兄さんも?」
     目を細めると男の喉仏がぐっと動いたのを見る。
     タイプじゃない。
     志津摩は今日初めて「自分の好みの男」というものを知った。
     隣でしきりに話を進めているがいまいち頭に入らない。
     ジュっと燐寸を擦り、灯を手で覆い煙草に火を点けた。はたはたと手を振り、消火する。
     目を丸くする男ににこりと笑む。
    「ああ、すみません。俺、吸うんですよ」
     眉を下げて、筒をはむ。顔を横向け、ふーっと紫煙を吹く。指に摘まんだ燐寸を灰皿へ抛った。
    「煙草の匂いはきらいですか?」
     小首を傾げもう一度吸い込むと、遥か懐かしい匂いがした。







     志津摩は弱った。
     あれからどうにもこうにも「八木さん」が頭から離れない。
     気休めにゆきずりの相手を探しに飲み屋へ向く足取りも重くなった。
     どんないい人が声を掛けて来たってどうしても気が乗らない。ひっくり返ってもあの「八木さん」には敵わない気がした。「八木さん」よりも顔も綺麗で優しそうな人もいた気はするのだが、八木さんほど志津摩が好きだと感じることはなかった。
     こうなると致し方ない。
    「よし! 潔くフラれよう、……かなぁ」
     気合を入れるが一瞬でなにやら弱気になる。
    「せっかくならわんちゃん一晩くらいいけないかな」
     素行が悪すぎてそんなことが浮かんでしまう。幸か不幸か、河野が言うには八木は女の影がずっとあるような人。恐らく恋人居ない時期が殆どないタイプの男ではないだろうか。悪い噂もあるのだから、少々遊んでも罰は当たらないのではなどと考えてしまう。
     本命の彼女なんかができてしまえばまずいがもしも運よくフリーだとしたら。ちょっとくらいあぷろーちしてもイイのではないか、箸にも棒にも掛からぬならその時はきっぱり諦めがつく。同性を恋愛対象に見られない人のほうが多いのだし。志津摩は「恋愛対象」にされなくてもちょっとやらしいことが出来たらいいや、くらいの妄想を浮かべているのだが。
     しかし、不気味だ。自分でも恐い。何があの一瞬で志津摩の心臓を鷲掴みにしたのだろう。会話したわけでもない、どんな性格なのかもわからない。河野の話してくれる情報を照らし合わせて何となく想像するのが限界だ。思い出すとあの声まで堪らなく好きだとまたぶり返す。まずい。これは本当に「一目惚れ」だ。間違いない、生まれて初めてだ。
     そこに見計らったようにスマホが鳴る。
    『しずくん 今日ごはんたべにいかない? お寿司にしようかな(^-^)』
     ご飯を食べに行くだけでお小遣いをくれるおじさんからのメッセージだ。
     一度だけ抱かれたけど何だか相性が悪くてそれ以来、一度も肉体関係はないが、デートだけしたいと時々連絡がくる。おじさんは約束通りにご飯に付き合うだけでお金をくれた。最近、気になる男の子がいてアプローチに困っているのだとか。志津摩だって聞きたい。
     男の落とし方。
    『いいですよ! 何時にしますか』
     返信を打って大きなあくびをひとつ。
     河野はどうしてもやめておけと話を聞いてくれそうにないし。どうしたものか。






     息が止まる。見つけた。志津摩は一目でその人がわかった。
     人混みの中、周りより頭ひとつ高い八木が颯爽と歩いている。
     ついに見つけた。志津摩は息をのんだ。
    どんどんこちらへ歩いてくるのだが、どう声を掛ければいいのかわからない。あれから二か月。志津摩は根気よく河野と話す時にさりげなく八木の情報を集めながら、八木と出くわした場所周辺によく訪れるようにしていた。買い物をするならあの八木が出現した周辺へと通い詰めていたのだ。ようするに志津摩はどうにかして八木と接点をもとうとした。けれど、いざこの時が来たのに理由も無く話しかける勇気もない。このまま俯いてすれ違おうか、それでいいのか、と葛藤する。
    「お~~田中ぁ!」
     聞きなれた声に弾かれたように顔を上げた。
     八木に釘付けて気付かなかったらしい。八木の隣に河野がいた。志津摩に気付いて手を振っている。志津摩はいよいよ心臓がバクバクした。
    「あ、あぁ~、河野くん!」
     なんとかして自然に笑うと河野は八木を引き連れ傍までやってきた。
     志津摩は硬直した。やばい。本物の八木がいる。さらには不思議そうにこちらを見て口を開く。
    「……お前、このまえの」
     うああああああああ。叫びだしそうな声は胸の内で押さえ込みぎこちなく笑う。
    「え、ぅ、あ~~、えーと、八木さん、ですよね、河野クンのせんぱいだと、聞きました!」
     八木はまた胡乱な視線で頷いて。
    「おう。田中だろ、田中シズマくん」
     名を知られていたことに激震する。
    「いっ、あ、はい! そうです、」
     河野は志津摩のことをじろじろと見ている。
    「ふーん」
     つれない返事をするが八木もじっとこっちを見ている。
     むりすぎ。顔面がつよすぎる。かっこよすぎる。
    「あ、あはは、! あのー河野くん、今日は八木さんとでかけてるの?」
     鋭い目つきに冷や汗をかきそうで河野に視線を向ける。
    「そうそう俺仕事でやらかしちゃって! 今から八木さんに尻ぬぐいしてもらうとこ!」
     なにやら河野が失敗したことの反省会やら相談会やらを今から懇々と説教される、という名のお疲れ飲みのようだ。
    「へ、へえ、そっか、あの、じゃあ、がんばって!」
     志津摩はおずおずと後退りしてしまう。わけがわからない。
     どちらかといえば人見知りはあまりしない。初対面の人にも特別緊張しないし臆すことも殆どないのに。八木と顔を合わせるのは嫌に気恥ずかしかった。おまけに八木の方はまだこっちを見ている。しつこい。睨んでいるわけではなさそうだが妙な強い眼力が恐い。
     一方それでいいのか、と拳をぎゅうっと握り込む。自分はまさにこの八木に、もう一度逢いたくてここ周辺をうろついていたんじゃないのか。うずうずと唇を巻き込んで噛む。
     勇気が出ない、どうして。ちらりとまた八木の方を忍び見る。が、ぎくりと心臓が飛び出しそうになった。まだあの薄茶色の瞳は志津摩を見ているのだ。
    「い、あ、また――、」
    「田中、くん」
     飛び上がるように強張った。八木に話しかけられた。
    「い! え、ぁ、ハイ!」
    「一緒に来る?」
     時が止まる。忙しなく瞬いた。今、なんて。
     それは河野も同じだったらしく慌てた声を出す。
    「え、なに言ってんですか八木さん、反省会でしょ!?」
     そうだそうだと、八木を見るが、その瞬間で志津摩は「もうダメだ」と心の中で蹲り白旗を上げた。八木がかすかに微笑んでいる。
    「もうお前には充分会社で説教したわ。怒り飽きた。お前の顔だけ見て呑む酒なんか不味いだろ、二人きりとか勘弁してくれ。助けてくれ。暇ならつきあってくれよ、志津摩」
     イイイイイイイイイイイ!!!!!!!!
     志津摩は目を見開いてがばっと口元を掌で押さえる。
     顔がよすぎる。ずるすぎる。尖った雰囲気に鋭い吊り目の顔がふにゃりと和らぎ微笑んだ。
     おまけに馴れ馴れしくいきなり「志津摩」と呼びだしたのだ。掠れて低い穏やかな声だ。
     年下だろうとおそらく知っている。河野の友人、男。
     だからといって、二度しか顔を合わせたことのない、ほぼ初対面の人にこれか。
     八木さん恐ろしい。
     志津摩は察した。なるほど、近寄り難い見た目でこれなのか。これが八木さんか。
     無自覚でやっているなら恨まれる。
    「……田中、あの」
     河野が弱った顔で苦笑いしているが、志津摩にとってこれは最初で最後のチャンスのように思えた。それに、八木の方から声を掛けられているのに拒絶する理由も無い。
    「い、行きたい、俺も、いく!」
     語尾が大きくなってしまい気恥ずかしい。河野はまた困った顔だ。
     なにせ志津摩が八木のことを気になっていると知られているのだから。
     何一つ思惑も知らぬだろう八木はきょとんとして。
    「よし、決まり」
     すこしイタズラな顔で笑うと、志津摩の腕を掴んだ。
    「ふぎゃっ!!」
     驚きのあまり変な悲鳴を上げる。
    志津摩の心臓は外にも聞えそうなほど暴れ出していた。
     ぎこちない志津摩に八木は呑気にけらけらと笑って志津摩の腕を引いて歩き出す。
     なんだか河野から聴いていた「八木さん」とは、少し印象が違っていた。



     



      
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