今日は洗濯日和今日はクリーニングデイにすることにした。
なぜなら船内が全体的に臭い始めたからだ。
船員たちの中には不満そうに声を上げた者もいたが、今朝甲板に出た瞬間にそう決めたので有無を言わさず
すべての衣類、人物含め丸洗いするよう命令した。
しかし今日の私にはもう一つミッションがある。
それはエドの洗濯物をゲットすることである。それも洗濯前に。
なぜなら彼の衣類は私が洗うと決めているからだ。深い意味はない。ただエドの衣類を洗ってあげたいだけだ。
そして申し訳ないが私の衣類を船員たちの衣類と一緒くたに洗うのに抵抗が生じた。
しかしどうやってエドから洗濯物を強奪するか、それが問題だ。
洗濯するときにそれとなく彼のそばをうろつくのは彼、ひいては周りの船員たちに怪しまれるリスクもある。
エドが洗濯を始めてしまう前に手を打つしかない。まずエドの荷物を物色する。
彼が使っている袋の中身はほとんど空っぽで、替えの下着1枚とTシャツのみが入っているだけだった。残りは彼が今身についているということになる。
クリーニングデイはすべての衣類、リネン等を洗うようルールを作っている。よってこの替えの下着やTシャツも対象になる。
しかしこれが昨日洗濯されたばかりのものだったら?それを確かめる方法は一つしかない。彼のTシャツにそっと鼻を押し当ててみる。
そして思い切り深呼吸をする。
おお、これがエドの匂いか! なんと甘美で芳醇な香りだろうか。まさに最高のフレグランスである。
いけない、このままではトリップしてしまう。早くTシャツを替えの下着に包まないと……。
一通り彼の匂いを堪能した私は、そのTシャツを持って部屋を出た。
船長室を出ると船員たちがわいわい騒ぎながら廊下を歩いていく。
私はさも今部屋から出ましたよと言わんばかりの顔をして、船員たちとすれ違った。
エドが今着ている衣類も強奪しなければならない。私はエドを探しに船内を捜索することにした。
エドは食堂にいた、朝食をとっていたらしい。
「おはようエド、今日はクリーニングデイだよ」
「クリーニングデイ?なんだそれは」
「衣類やなにからなにまで全て洗う日さ」
「ああ…だから船全体で石鹸の匂いがしているのか」
くん、と少し自分の服の匂いを嗅ぐエド。
「それは私も対象か?」
「もちろん」
私は手を差し出し、服を脱ぐよう促した。
「なんだ?」
「今着てるもの全部頂戴」
エドは訝しげな顔をしたが、黙って服を脱いだ。
「下着も全部?」
「もちろん」
革のジャケット、パンツを脱いだエドは下着に手をかけて止まった。
「洗濯中は全裸か」
「まあ全裸でもいいけど、私のガウンを貸そうか?」
エドは頷き、私のガウンを取りに船長室へと向かった。
ああやった!これでミッション完了だ! 私は船長室のソファにその洗濯物を広げて堪能していた。
彼のシャツを手に取ると、まだほのかに温もりが残っている。まるで彼に抱きしめられているような錯覚を覚える。
私は洗濯前の彼のTシャツを手に取り、それを鼻に押し当てる。
「はぁ……」
彼の匂いが身体中に染み渡っていくようだ。もっとこれを嗅ぎたい。
仕方なくそのTシャツを自分の体に巻きつけて匂いを嗅ぐことで我慢した。
思わず口からため息が漏れる。このTシャツの肌触りがまた堪らない。素肌に直接着てしまいたい衝動に駆られるが、さすがにそこまですると危ない一線を越えてしまいそうで自重した。
私はそのTシャツに顔を埋め、思い切り息を吸い込んだ。その香りを肺いっぱいに取り込むと頭がクラクラしてきた。まるで彼に抱きしめられているかのような感覚に陥る。
そのまま床に倒れ込み、ゴロゴロと床を転がった。
「はぁ……エドぉ……」
彼の匂いに包まれていると幸せすぎてどうにかなってしまいそうだ。ああ、できることならこのまま彼に包まれて死にたい! その時だった。ドアが開きイジーが入ってきたのは。彼はこちらを見て固まっている。当然だ、部屋に鍵もかけずに変態じみた行動をとっているのだから。
「クソボネット、何してる……」
「えっあっその……何も!!」
私は慌てて立ち上がると、反射的にエドのシャツを自分の体で隠した。
「なんだそれは」
「なんでもない!」
しかしイジーは軽蔑した目でこちらを見るばかりだ。追及されるとまずいことになる。
「イジー、今日はクリーニングデイだよ、洗濯は済んだ?」
「………」
イジーは私の問いを無視し、エドの荷物を見た。
「エドワードの服がない」
先ほど私が失敬した服のことだろう、犯行がばれたように感じて私は挙動不審になりながら答えた。
「か、彼の服はもうまとめてある。全部洗うからね」
イジーは部屋を出ようと踵を返したが、ふと立ち止まりこちらに振り返った。
「おい、変態」
「へ、変態?」
「そのシャツをよこせ」
「えっなんで……」
イジーはつかつかとこちらに歩いてくると、エドのシャツを私の手からひったくった。イジーは袖をくんくんと嗅いだ。
「エドの匂いだ……確かに」
変態というならそっちもじゃないか。と思ったが、強く言い返せずぐっと言葉をのむ。
だが今日はクリーニングデイという名目がある。エドの服も例外ではない。
「エドワードの服はいつも私が洗っている」
イジーはふん、と鼻を鳴らしながらそう言った。
いつも洗っているだって、盲点だった。確かにエドが洗濯している様子は見たことがない。ちょっと甘やかしすぎじゃないか?
部屋のドアを開ける音がして、イジーと私はさっとそちらを見た。
「なにしてるんだ?」
私のガウンを羽織ったエドが廊下から顔を出している。いつの間にか声が外まで届いてしまっていたようだ。
「エドワード、こいつが服を盗んでいた」
イジーはエドに向かってそう言った。エドは怪訝そうな顔をしてこちらを見ている。
「ああ、私が頼んだんだ、私の洗濯…」
エド恥ずかしそうな顔でそう呟いた。するとイジーが鬼の形相で私を睨みつけた。
「いつも俺が洗っているでしょう、こいつに渡さないでください。こいつ服を嗅いで…」
「あーーー!!全然問題ない!!エドは私に洗濯ものを託した!!それが事実!!」
大声でイジーの声をかき消す。イジーは殺気立った目でこちらを見ていたが、無視することにした。
「ああ、いつもイジーにやってもらってるが…。スティードにやってもらいたかったんだ」
エドは眉を下げて言った。
「どういうことだ」
イジーはまだ不満げだ。私が洗濯すると言ったときのエドの嬉しそうな顔を思い出しているのだろう。私だってそうだ、彼にあんな顔で頼まれたら何でもしてあげたくなってしまう。
「なんか…一員になった感じというか、家族…っぽいなと思って」
「…あぁエド…」
私とエドは熱っぽい視線で見つめ合った。
「FUCK」
イジーは私とエドを交互に睨みつけた。