「 熱斗くん、たまには勉強しなきゃダメだよ! 」
「 え〜〜〜… 」
はあ、と肩を大きく落としてわかりやすくため息をつく。
子供部屋にはオレのナビが小煩く叱っている。
「 もうすぐテストなんでしょ?ボク知ってるんだからね。ほらほら!まずは国語の辞書で意味調べをする! 」
「 も〜…わかったよ… 」
ペラペラと分厚い辞書を一枚一枚めくる。
頭が回っていないオレにはただの文字にしか見えなくて。
ただの難しい字、としてしか認識ができない。それほどオレの頭は勉強というものが嫌いらしい。
「 あ、気になるところやテストに出そうなところはちゃんとメモしておこうね? 」
「 はいはい… 」
めんどくさそうにテスト範囲にある漢字や単語を書き写していく。
欲望。人情。怠惰……。
やる気もないものなので 鉛筆の走りも心なしか遅く感じる。
ノートには淡々とオレの拙い字が書き写されていっている。
「 次は……っと… 」
ペラ、とページを一枚めくれば 「 恋 」という単語が目に入る。
オレの手は無意識にその文字に線を引いた。
「 あ、熱斗くん!何か気になる単語はあった?わからないところはボクが教えてあげるからね! 」
にこっとロックマンが笑った。その笑顔を見ると胸周りが暖かいような、でも少しの胸の痛みもあるような。
でも、なんとなくロックマンが笑っていると自分の口角が上がってしまって。
「 熱斗くん?…どうしたの? 」
「 ん〜?…いや? 」
気づかないロックマンはきょとんとしてオレを見つめる。
その表情がたまらなく愛おしい。
「 ( 恋、かあ ) 」
「 ロックマン 」という文字を恋の単語の下に小さく書き足す。
ばれませんように、と願いながら。
「 熱斗くん…? 」
「 へへ…なんでもない! 」
オレは満面の笑顔を作ってロックマンの方に顔をあげた。
ペラリ、と風が吹いて辞書のページが別のページを開く。
その辞書の中心には 「愛」という文字の意味が。ただ書き綴られていた。