ありふれた話 夢を見た。
弟とともにあった頃の懐かしい夢だ。
パッとスポットライトがつく。その灯りの元には赤ん坊の弟が転がっている。栄養が足りず体の小さかった弟は虚弱で呼吸も弱く今にも死にそうだ。その弟の体が闇から伸びた腕に抱え上げられる。
弟が奪われる——
全身にぞわりと鳥肌がたつ。
その存在が僕の力になることも無い、役に立たないものだったが生まれた時からそばにあり、僕がその手首を握っていた、僕の所有物。それを僕から奪うなど……。
僕は手を伸ばして赤ん坊の弟を奪い返そうとするが、まるで空気のようにすり抜けてしまった。その直後、空気を引き裂くような鳴き声が響き弟を抱き上げた手が止まった。声のほうへ目を向ければ、丸々とした赤ん坊が不機嫌そうに弟を抱えた腕を睨みながら泣き叫んでいる。
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