タイトル未定「手紙?」
「うん、アシュトン宛てだって」
リンガの聖地へ向かう朝、宿屋に一通の手紙が届いた。宛名はアシュトン・アンカース。彼が旅人であることから、立ち寄る可能性のある場所へ手紙を送ったのだろう。一種の賭けではあるが、今回は差出人の思惑通りとなったらしい。
手紙を手渡したのはプリシスだ。つい最近クロードたちの仲間になった。彼女はリンガ出身だが、仲間になったので一緒に宿へ泊まった。初めての冒険が楽しみなのか、朝の集合時間にいちばん早くロビーへ到着した。
彼女と同室だったのはレナ。元気なプリシスとは対照的にあくびを噛み締めている。あまり眠れなかったらしい。
レナはちょうど、プリシスがアシュトンへ手紙を渡すタイミングでロビーへやってきた。封筒を眺めるアシュトンの顔が一瞬強張ったのを、彼女は目にしてしまった。
「レナ、ちょっといい?」
ほどなくしてアシュトンが手招きする。不思議がるプリシスをよそに、二人はアシュトンが泊まっていた部屋に入っていった。
「これ」
扉を閉めたあと、アシュトンは封筒をレナへ見せた。女性の字でアシュトンの名前が記されている。裏返し、差出人を確認した瞬間、レナは息を呑んだ。
「エラノール……?」
クロス大陸の港町に住む少女だ――小さな子にしてはやけに字が整っていたから、きっと母親が代筆したのだろう。
レナは恐る恐る、あの町の記憶を思い出した。エラノール。ニ、三回会ったことがある。不治の病に冒されている女の子。レナの癒しの力も効果がなかった。窓から見える景色しか知らないから外の世界に憧れていて、アシュトンに旅の話をせがんでいたのを覚えている。
最後に会いに行った時は弱っていて、途中で眠ってしまい目を覚まさなかった。彼女を救えるのは伝承にあるような薬草くらいだと、医者が言っていた。
「……」
アシュトンはガントレットに包まれた爪先で器用に封を切る。数枚の紙の束を取り出して文字を追う。時折顔が歪むさまを見て、レナの中で嫌な予感が確信に変わった。
「亡くなったって」
覚悟を決めた直後、そう告げられる。
「エラノール、間に合わなかったみたいだ」