あたみのじけん「月島コーチ、僕と熱海の宿で一夜をともにしていただけませんか」
いきなり耳に飛びこんできた声に、壬生は手にしたカメラをとり落としかけた。
おわ、とすんでのところでストラップをひっつかみ、どうにかこうにか高額備品と地面との衝突は免れる。ふうと深い息をつきつつ、さていったい何ごとかとあらためて声のした方角へと目を向けた。
秋も間近い時分、ユースの練習場はこどもたちの活気で賑わっている。AチームとBチーム、それぞれに切磋琢磨ししのぎを削り合う、その様は清々しくまさに青春と呼ぶにふさわしい。トップチームのむくつけき選手たちの撮影を終えたあとではいっそうに、青少年の爽やかさは目に眩しかった。
練習場の片隅、AB両チームともに見渡せる位置に陣取って、壬生はカメラを構えているところだった。トップチームとクラブユース、それぞれの練習風景をおさめS N Sにあげるのがちかごろ壬生の日課となっている。練習の光景や日常のちょっとしたひとコマなど、ものめずらしいのかサポーターの反応は上々だったから仕事のモチベーションもそこそこ高い。
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