colors 夜は冷えている。
昼間はこどもたちの賑やかな声が絶えないクラブハウスも、八時を過ぎればしんとしていた。ときおり耳をかすめるのは自分のめくる紙の音ばかり、日中は指導があるからとついついあとまわしにしてしまった書類がいま机上に山と積まれている。
事務室は広い。向かい合わせになった机がずらりと列をなした、その片隅に月島はいた。クラブの経営が苦しいわけではないけれど、数年の社会人生活で節電は身に染みついている。明かりは頭上の蛍光灯ひとつきり、ほかはひっそりとして暗い。薄闇にパソコンやプリンタの電源ランプがちいさく浮かんでいた。空調も切っているから、ジャージを羽織ったばかりの喉元が肌寒い。
残業ってガラでもないんだけどねえ、と肩をたたきつつ月島は立ちあがる。目処はまだつきそうになかった。コーヒーでも買いにいこうかなと上着のポケットを探る、と、そのときドアの開く音がした。
3588