どこがダメとか聞いたところでなんとかいうとこのなんとかいうやつの、なんまんのやつ。ソラで覚えられるか心配だったが店を間違えずに入ってなんとか言うとこさえ抑えればあとは店員がなんとかしてくれるはずと柴はご指定のブランド店に行き、なんとか言うやつ、なんとかゴー、チャ、チャイロ。中ぐらいのおっきさ。しっかくいの。多分これ。知らんけど。それでええ。下さい。現金で。財布くらい持ってくればよかったか、と柴は金をポケットから出したことを反省するが、ついぞ活かされたことのない反省だった。服だけかっこ付けて来たけどあかんねえ、俺も財布買おかな、財布買ったらなんで金減るんやろなとぶつぶつ考えているうちに梱包が終わり、綺麗に包装された箱が入った紙袋に手を伸ばし、玄関先までペッペッと追い出され、平身低頭の数人に恭しく献上された光り輝くブツを片手でぞんざいに受け取りありがとうねと礼を言い、金でぺこぺこ買うより殴って頭ばんばんしたほうがスッキリするけどなと消化不良を抱えながら約束の地へ向かった。柴には政治がわからぬ。
女は今日もジュリアナよろしくガチガチに固めた露出度300%の身体で煙草を吹かしながら柴を待っていた。いつの時代のままで生きとんねんといつ突っ込めばいいかわからないまま今日になった。柴と女の香水がぶつかり合いコンフリクトする。「今日もカッコええね」「もう会わん」「え?」「二度とツラ見せんな」「買ってきたで、なんとかのゴー」「いらん、バイバイ」いらんバイバイ、なんでやカバン、お前がゆうたんやろ。買ってきてんからこれ持っていけや。なんでやなんでやドンツカドンツカという音が聞こえて来そうな殺人ピンヒールの後ろ姿はすぐに人混みに紛れて消えた。投げ捨てられた煙草が柴の足元で燻っている。通行人が柴にぶつかり、舌打ちした。「!?」その舌灰皿にどやコラボケコラカス反射的に思っても、続きを戦う気力は出てこなかった。どうしようかと空を仰ぐ。世界中の電飾がギラギラプラプラ、嘲笑うかのように揺れていた。風つよ。頰を切るってこれかいな。身銭も切った。今日寒いな。懐も寒いわ。
柴はプレゼントの紙袋を脇に挟みそうだ六平家に行こう、フライドチキンを買おうとフライドチキン屋に向かい、有馬記念のような行列にすぐ踵を返し勝手知ったるヤキトリヤに向かった。ヤキトリヤ。ヤキトリヤは空いていて突然の大量持ち帰り注文にもはち切れんばかりの笑顔だった。かっこいいねデートかい、と聞かれ、そうやカッコええやろ、デートや。と丸ごとそのまま返した柴に店主は二の句を継がなかった。無言で焼かれた大量のヤキトリセットもまた世界を救ったかのように大仰に礼を言われ、女に振られる対価を払って俺は王になったのかもしれないと思った。滅んだけど。
両手に荷物を抱え、亡国の王は六平家に飛んだ。きっと親子二人で水入らずの楽しいクリスマスを過ごしているのに、俺のような異分子が、香水とヤキトリでぐちゃぐちゃの匂いをブチ撒けながら乗り込んでごめ……ごめんも糞もあるか。混ぜて。俺を混ぜてくれ。
「デートは?」「振られた」「しばさん!」「チヒロくん! 愛してるで! 柴さんが来たで! 好きって言うて!!」「すきー」「ンン! 俺も!!」「俺も愛してるぞ」「お前の愛なんかいらんアホボケクソカス髭ともみあげの隙間から脳みそボトボト溢れとるくせに」「ほんとか」「嘘、愛するより愛されたい」「まかせろ」
ヤキトリセットを七輪に乗せると信じられない盛り上がりだった。チヒロ君、今度はチーズホンデウとかしよなと約束し寝かしつけ、枕元にささやかなプレゼントを置き、六平にはこれええと思って! とピカピカのブランドバッグを渡すと、お、鍛刀場のゴミ箱にちょうどいいな! と喜んだので、柴も嬉しくなってそんなんやったらいくらでも買ってきたるでとおじさん二人でキャッキャッしてるうちに裸になって気付いたら朝だった。起きた六平に耳元でメリークリスマス、と囁かれた柴はキショいねんとぶん殴りそうになったが、振られた事を思い出し「サンタさんやぁ」と甘んじて受け入れ、髭ともみあげの隙間に僅かに生まれたちくちくの髭を撫でた。メリークリスマス、と思いながら。