うどんくらい好きに食わせたらんかい 朝から降った雪は夕方には積もっていて、千鉱が歩くたびさくさくと音がした。約束の時間に同時に遅れて到着した二人は、「奇遇やね」「そうですね」と立ち止まる事なくそのまま歩き、立ち食いうどんの前を通り過ぎ際、無言で妥協し暖簾を捲った。
柴は「チヒロ君はうどんだけやったら足りんやろ」とカウンター越しに肉大盛りで、と注文するも、千鉱くらいの歳のアルバイトに「そういうのないです」と一蹴され、「ほな肉うどん二つ、ごはん大盛り」と千鉱のオーダーも聞かず全てを済ませた。柴は肉うどんの肉を「食べ食べ」と千鉱の丼に全部乗せ、素うどんのようになってしまった自分の分を数口でかき込み、ほな俺煙草吸ってるからゆっくり食べときと言い残し、店を出てしまった。千鉱は筋張った肉うどんの肉をもそもそと咀嚼しながら、あまり好きではない旨をいつか伝えようと決心するも好意を無碍にするほどのものでもなく、ゆっくりと言われても出来るものでもなく、店を出るとちょうど柴が煙草を吸い終えた所だった。お、奇遇やね! と柴はさっきと同じ事を言い、千鉱もそうですねと答える。日は落ち雪は止んで、積もった雪は明日には凍っているだろう。舗装された道は歩きにくいな、と千鉱は足元を見る。
拠点にも一応風呂があり、大して使わない浴槽の汚れをシャワーで流して湯を溜めた。凍えた二人で一番風呂を押し付け合い、きりがないので同時に入る事にした。千鉱が浴槽に浸かり、どこを洗ったのかわからないスピードで洗い終わった柴が「お待たせ」と交代を促す。それには応えず「入って下さい」と千鉱が両腕を広げると、柴は「無理やろ」と言いながら素直に足を入れ、千鉱の足の間に挟まろうと遠慮がちにねじ込んでみるもののやっぱり無理で、足に乗るだけで心許ない身体を千鉱の腕が抱き止めた。
「はずいわ」
「俺、汚れてますけど」
「チヒロ君が誘ったんやん……」
てか俺、八割くらい身体出とるんよ、あとやっぱうどんだけやったら足りひんからピザとか取らん? と言えず柴は「明日凍っとるんかなぁ」と湯気に向かってぼやく。濡れて血生臭い髪の感触を背中に感じながら。