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    ねあぬ

    @Nea_nua_suna

    今の所R15置き場。

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    ねあぬ

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    箱庭セカイの後の話です。無駄に長い。そしてところどころおかしい可能性あり。多めに見てください🫠

    その後の話アプリが姿を消してしばらくが経った。僕はアプリが手紙と共に残した、彼がいつも帽子に着けていた飾り羽根を自分の帽子の飾り羽根の横に指した。彼との約束を守る為に。

    ある日、いつものように気の向くままに旅をしていたら、ある場所に辿り着いた。忘れもしない、あの日、アプリと初めて出会ったあの場所だった。ふと木の枝を掻き分けてみた。僕は目を疑った。でも間違う筈がない。あの日のように、彼はベンチにつまらなそうに腰掛けてていた。
    「お前、、アプリ!?」 
    思わず声をかけてしまった。アプリはびくっとして驚いた顔でこちらを振り向いた。
    「、、、君は誰だ。僕を知っているのか?」
    血の気が引くのを感じた。
    「、、、嘘、だろ?」
    やっと会えたのに、彼は僕のことを覚えていなかった。いや、それもそうだ。彼はアンインストールされてしまったのだから。2人で旅をした記憶も、もう彼の中には残っていない。それでも彼であることは確かだった。飾り羽根のない帽子が、その証だ。

    僕は息を整えて改めて声を掛けた。
    「驚かせてしまってすまない。あまりにも友人に似ていたものだから。」

    「、、、君は、誰だい?僕とよく似た格好をしているようだけど。」

    「僕はスナフキンさ。君とは別の世界のね。」

    「、、、別の世界?」

    「ああ。パラレルワールドのようなものさ。時々、僕らの世界が繋がる時があるんだよ。」

    「君は、どの世界のスナフキンなんだい?」

    「僕は原作のスナフキンなんだ。他の奴らには原さん、とか原スナと呼ばれている。」

    「そうか、、それなら僕はアプリかい?スマホゲームのスナフキンだからね。」


    「そうだね。、、、よろしく、アプリ。」


    彼は、ある日突然僕の前に現れた。僕のことを知ってるような様子だった。きっと、前のデータの僕と親しい仲だったんだろう。彼の帽子に刺した2本の飾り羽根を見てわかった。
    僕には帽子の飾り羽根が無かった。ずっとバグだと思っていたけれど、彼が持っていたんだな。君を思い出せないのがもどかしい。


    「ねぇ、原スナ、」

    「なんだい?」

    「君は、実際に旅をして、いろんなところを見てきたんだろう?」

    「、、、ああ。」

    「僕はさ、箱庭から出たことがないから、自由に旅をする君に憧れるよ」

    「そうか。」

    「実際に自由に旅をするって、どんな感じなんだい?あと、旅土産って、何を持って行くのが普通なんだろう?とりあえずムーミン達が喜びそうな、家具を持って行くんだけど、やっぱちょっと違うのかな」

    「はは、家具は違うだろう、」

    「やっぱりそうか、そうだよねぇ」
    アプリはけらけらと朗らかに笑った。

    『アプリも、昔はこうだったのかな。』
    まだ陰の見えないアプリの表情を見て、原はふと思った。そして、また、あの時と同じように声をかけた。

    「じゃあ、一緒に来るか?僕の旅に」

    「えっ、?!、、、良いのかい?君らは孤独になる為に旅をしているんだろう?」
    アプリは、驚きながら尋ねた。

    「いや、かまわないよ。2人旅も、楽しいものさ」


    僕はどこかで、アプリの記憶が戻ることを期待していたのかもしれない。また、彼を旅に誘って、あのとき君に見せられなかった景色を見せようとした。君は、彼とは違うのに。
    どうしても、時々見え隠れする彼の面影に、もう会えないあいつを重ねてしまっていた。


    原スナは自由に旅をする事の楽しさを僕に教えてくれた。この胸にぽっかりと空いた穴を埋めてくれるみたいで、とても幸せだった。前のデータでも、こんなふうに旅をしてたのかな。

    あるとき、原スナが海に連れて行ってくれた。箱庭の海とは大違いで、どこまでも広くて綺麗だった。海を見つめる原スナの顔は、何処か淋しそうで、「どうかした?」と尋ねると、
    原スナは一瞬僕の顔をとても愛おしそうに見つめてからまたふっと淋しそうな顔をして、「いや、なんでもないさ」と答えた。
    あのときの優しい目は、僕ではなく、きっと"彼"に向けられたものだったんだろう。
    僕が"彼"だったら、原スナの返答は違ったのかな。

    僕の胸を冷たい風が抜けて行ったような気がした。この胸のぽっかりは、旅では埋まらないのかもしれない。だとしたら、何で埋められるんだろう。

    帽子の飾り羽根は、まだ原スナが持っている。原スナが返そうとしたのを僕が断ったんだ。その羽は、僕が持つべきじゃないから。


    そういえば、もう長いこと箱庭を留守にしている。僕はまだインストールされたばかりだったから、ユーザーのログインも頻繁だ。ゲームに不具合とか起こしてないといいけど。

    少し旅を中断して、箱庭に戻ってみる事にした。何か問題が起きていたら、どうなるかわからない。そんな不安を胸に箱庭を覗いた。

    予想とは裏腹に箱庭は何の問題も無く回っていた。何故なら、別の個体が箱庭に居たからだ。僕が居なくなってすぐ、きっとバグと認識して別の個体をこの箱庭に就かせたんだろう。そりゃそうだ。元から帽子に羽根のない欠陥品で、いつ処分されてもおかしくなかったんだから。運営側だって、欠陥品の一つがいなくなったって気にも留めない。

    僕は自由になったんだ。もう、記憶をリセットされる事はないし、狭い箱庭に閉じ込められることもない!いつまでだって自由に旅が出来る。、、、データさえ戻ればいいのにな。


    「もういいのか?」
    原が尋ねる
    「いいんだ!僕はもうあそこに戻る必要はなくなったんだ!」

    「どういうことだい?」

    「もうあそこには僕が必要なくなったのさ!僕は廃棄されたも同然なんだ!」

    「それは大丈夫なのか?」

    「ああ!僕は自由になったんだよ!もう、データをリセットされることも無い!」

    「、、、そうだな、よかったじゃないか」

    「うん!」

    心の底から嬉しそうに笑うアプリの顔を見て、なんだかあいつが戻ってきたような気がした。そんなわけないのに。



    酷い雨と雷の日、アプリと原は小さな洞穴で雨宿りをしていた。
    雷の音が近かった。アプリにとって、雷は初めての体験だった。

    「僕、ちょっと外を見てみるよ!」
    嵐の気配に心を踊らせるアプリをみて、原は共感する気持ちと、デジタルな存在であるアプリが、雨に濡れた体で、雷に近づいて大丈夫なものかと不安が過った。

    「アプリ、危な、、」
    アプリを止めようと手を伸ばす
    それとほぼ同時に洞窟のすぐ近くに雷が落ちた。

    「うわっ!」
    アプリがその場にしゃがみ込む。飛び散った電子を浴びたようだった。

    「っいたっ!」
    アプリが咄嗟に頭を抑える。

    「大丈夫か!?」
    原が声を張った。

    パチパチと頭の中を電気が走る。
    今までに味わったことのないような痛みがアプリを襲う。
    そしてリセットされてきた膨大なデータが、一気にアプリの頭の中に流れ込んだ。

    幾度となく飽きられて消されて、「初めまして」を繰り返してきた事。退屈で窮屈な箱庭での生活、消される前のあの恐怖。そして、そんな箱庭から連れ出してくれた、君との最初の記憶。まるで、無くしていた宝箱が見つかったみたいに胸の中の消失感が埋まってゆく。

    「アプリ、、」
    原がアプリの顔を覗き込む。

    「、、思い出した。」
    アプリがぼそっと呟いた

    「え?」
    原が目を見開く。

    「原、、ごめん。忘れてて、」
    アプリはぽろぽろと涙を溢しながら、原を抱きしめた。

    「アプリ、、、」
    原は静かにアプリの背中に腕を回した。

    「へへ、あんな置き手紙に羽飾りまで残したのに、、何だかカッコ悪いなぁ」
    アプリが呟く

    「君が羽根を僕に預けたから、君は欠陥品扱いされて、箱庭から出られたんだろう?」

    「それもそうだね、結果オーライだ!管理から外れたから、データだって戻ったんだから!」

    「また、"君"と旅が出来るなんて夢のようだよ、アプ、」

    「はは、アプリ、よりそっちのがいいや!何だか相棒みたいで!」

    「君だって、僕のことを原と呼ぶじゃないか」
    原が笑った。


    「なぁ、体は大丈夫なのか?あんなに近くで雷を浴びて、、」

    「あはは、大丈夫だよ、でも、ちょっと眠くなってきちゃったな、、でも心配はいらな、、」
    瞳から光が消え、電池が切れたように崩れるアプリ

    「アプ!?」
    原がアプリを抱き止める。


    アプリはその後数日間起きてくる事はなかった。日に日に募る不安。せっかく記憶が戻ったのに、また振り出しに、いや、もっと状況は悪くなるかもしれない。アプリはまるで死体のように静かに眠った。体温も低く、寝息も立てていない。
    原は不安でならなかった。アプリが起きるまで、ずっとそばで手を握りしめ、アプリの目が覚めるのを待った。

    4日ほど経ったとき、アプリが目を覚ました。

    「アプ!やっと目が覚めた、、!心配したんだぜ?4日も起きないから、、」
    原が言う

    「え?!僕4日も寝てたの?どうりで体が硬い訳だ、、でも、なんか体の調子はいいよ!記憶も問題ない!」
    アプリが心底嬉しそうに話す

    「ははっ、そうか、よかった、、」
    原は深く安堵した。

    アプは、自身の不調を睡眠で回復できるようになったみたいだった。運営の関わるメンテよりも時間はかかるみたいだ。
    でも、それ以外に特に問題はなさそうだ。

    それから、また2人の旅が始まった。
    原とアプの、逃避行ではない、普通の、自由で幸せな旅。沢山の新しい、美しいものを2人で探した。そしてそれを心の中にそっとしまう。そんな旅。
    もう、アプリが箱庭に戻ることは無かった。


    僕は自由な旅を知った。本当の意味で、やっとスナフキンになれたんだ。これからは、僕らしく、誰にも縛られずに生きるんだ。「僕ら」が消えるその日まで。
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