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    とらのめ

    版権二次創作/相手固定左右固定

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    とらのめ

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    スグリ君が『二号』と遭遇する話。ゲーム本編およびDLCのネタバレを多く含みます。

    後半は十年後くらいの成長後設定です。ハルスグが普通に結婚していたりと捏造設定てんこ盛りですので、ご注意ください。

     茂みの向こうに、見覚えのある大きな羽根と、緋色の尻尾が覗いているのを見つけた。
     この日は授業の課題をこなすだけのつもりでテラリウムドームに来ていたスグリにとって、その姿を偶然見つけられたことは、ちょっとした幸運だった。あの緋色がいるということは。
    「――ハルト!」
     近づくと、思った通り、二つ足で立つコライドンの巨体のそばで、テーブルを広げてピクニックをしているハルトの姿があった。雨が降る気配がないから安心してか、サンドウィッチ用の長いパンをバッグから取り出している。
     スグリの声が耳に届いて、ハルトが振り向く。ハルトの丸い目が驚きで更にまん丸になって、視線が合ったことに心が弾んで、スグリはハルトの方へ駆け寄っていく。
    「あ、待って!」
     ハルトの咄嗟の警告は、どちらに向けられたものだったのか。ハルトと同様に振り返ったコライドンが、スグリを鋭く睨むと、大きな口を開けて咆哮した。
     全身の羽根を逆立てた、見上げるほどの巨躯の威容にスグリは驚いて、びりびりと空気を震わす音の圧に弾かれるように尻餅をつく。はずみでモンスターボールから飛び出たスグリのカミツオロチが、トレーナーを守ろうと、五つの首でコライドンに吼えかかった。もう一度ハルトの声が飛ぶ。何かが素早く風を切る。
     スグリとカミツオロチを庇うように立ち塞がって一触即発の空気を鎮めたのは、ハルトが投げたボールの中から現れた、もう一匹のコライドンだった。



     コライドンは二匹いる。言葉で説明されるよりも先に実物を見せられてしまっては、信じる以外に選択肢はない。
    「わやじゃ……そんなことがあったんだ」
     ハルトの口から語られる、あのエリアゼロで起きた出来事の話を聞いているあいだ、スグリはただただ感心しきりだった。
     スグリが猛勉強してブルベリーグで勝ち上がっていたころに、ハルトがしていた冒険の話。ハルトはキタカミでもやりたい放題ちゃんだな、とペパーがかつて言っていたセリフが頭をよぎって、スグリはその言葉の真の意味を、今になって理解する。
     タイムマシン。古代の世界から来たポケモン。まるで物語のような、現実味の薄い話。
     けれども実際にエリアゼロ深部にあった博士の研究室をスグリも自身の目で見ているし、なにより、ハルトが言うなら事実なんだろうなと、すんなり信じることができた。本当は口外禁止の話を、スグリだから特別にと教えてもらえるうれしさと高揚感で両手が浮つきかけるのを自制して、スグリはハルトがバターを塗ったパンの上に、そっとスライスチーズを乗せていく。
     背中の方から時々、無邪気にはしゃぐオーガポンの声が聞こえてくる。今日も変わらず元気そうな鬼さまは、テラパゴスとスグリのカミツオロチ、そしてハルトの手持ちのカミツオロチと一緒におもちゃのボールで遊びながら、サンドウィッチの完成を待っている。
    「スグリと一緒にサンドウィッチ作るの、初めてだね」
     前に言ってたことが叶ってうれしい。そう言って、隣でハルトがにこにこしている。
     なんのことだっけ?とスグリは記憶をさかのぼり、林間学校で看板巡りをしている最中にハルトをピクニックに誘ったことをようやく思い出した。正確には誘おうとして未遂に終わっていたものの、そのとき、サンドウィッチという言葉に反応したコライドンがボールから出てきて……思えば、スグリがコライドンというポケモンを見たのは、それが一番最初だった。
     ハルトの話によれば今この世界に二匹だけ存在しているコライドンたちは、見た目はそっくりでも、性格は全然違うらしい。タイムマシンを作った博士が二号と呼んでいた方はいじっぱりで気性が荒く、警戒心も縄張り意識も強い。だから先程、近づいてきた見知らぬ人間――スグリを警戒して、追い払おうとした。
     対して、一号と呼ばれていた方――いつもハルトを背中に乗せて走っているコライドンは、気まぐれで食いしん坊で好奇心旺盛で、とても人懐っこい。今もスグリの斜め後ろで瞳をきらきらさせて、半開きの口からよだれを垂らしそうになりながら、調理中のサンドウィッチに釘付けになっている。
    「でも、さっきからずっとスグリの近くにいるでしょ。さっきのことがあったから、スグリを心配してるんだと思う。本当はもうサンドウィッチ一個食べてるから、あの子にご飯をあげてるあいだはボールに入っててもらうつもりだったんだけど、全然戻ろうとしないし……ここにいればサンドウィッチのお代わりが食べられるって、分かってるからかもしれないけどね」 
    「……そっか。えっと……ありがとな、コライドン」
     声をかけられた一号はスグリの方へ視線を向けて、アギャ?と首を傾げて短く鳴いた。体は大きいのに、その仕草にも態度にも、どこか愛嬌がある。でも、いざという時はハルトと共に勇敢に戦う姿を、スグリは見て知っている。この子に守ってもらったのはこれが二回目だ。
     一号の背後、少し離れたところにある木の根元では、件の二号がスグリたちの方へ背中を向けて寝そべっている。ハルトによると、拗ねて不貞寝をしているらしい。エリアゼロで一号との戦いに負けて以来、一号とはずっとぎくしゃくしたままだとかで、スグリはその話を聞いていて、なんとなく、胸の奥が軋むような心地がした。 
    「僕は、無理にこの子たちを一緒にしようとしなくてもいいって思ってるんだ。もちろん、みんな仲良くできるなら、それが一番いいけど」
     本人たちにしか分からない、どうしても難しいことって、あると思うから。
     ……ハルトはたまに、こうして妙に大人びた顔でものを言う。こういう顔をされると、なんだかハルトを遠く感じて少しだけもどかしい気持ちになることがあるけれど、でも、ハルトなりにポケモンたちみんなのことを大切に思って色々と考えているらしいことは、スグリにもよく伝わってきた。
     今はテラパゴスたちと仲良く遊んでいるオーガポンが、ともっこたちと一緒にハルトの手持ちに入れられているところを一度も見たことがないのも、たぶんそういう理由なんだろうなと得心がいく。やっぱり、ハルトと一緒なら、ハルトのポケモンっこたちは幸せだ。 

     話しながら手を動かしているうちに、用意したサンドウィッチの具をすべてパンの上に乗せ終えて、ハルトは仕上げに、パンの上半分の片割れをひとつ手に取った。両手で水平に持ったまま慎重に位置を合わせ、何故かそのまま、ぽんと無造作に落とす。
     ぽん、ぽん、と次々落とされていくパンはそれぞれ、積まれた具材の上に着地して不安定にぐらついて、かろうじて踏みとどまる。全てのパンがなんとか無事に着地を決めると、よしっ、と拳を握ってから、ハルトは剣の形のピックを刺して、完成したサンドウィッチを固定した。
     中身崩れそうだし上のパンは落とすんじゃなくてそーっと乗せればいいだけなんじゃ……?とスグリは隣で見ていてはらはらしながら思ったが、これがパルデアのやり方なのかな……?と考え直して、この時はまだ、口を挟まなかった。
    「みんなお待たせ! サンドウィッチできたよー!」
     スグリの内心の困惑を露とも知らないハルトが振り返って呼ぶと、ぽにー!パゴー!と仲良く駆けてくる二匹の後ろから、カミツオロチたちもゆっくり寄ってくる。
     ポケモンたちが一足先にサンドウィッチにかぶりつくなか、二号のぶんをお皿に乗せて運んでいこうとするハルトに、スグリは横から声をかけて、ひとつ、あるお願いをした。



     草を踏む足音に、二号が瞼を開けて視線だけを向けてくる。姿形は同じなのに、確かに、一号とは全然違う。スグリを鋭く見据える目に油断はなく、警戒の色が今も消えていない。
    「さっきは、驚かせてごめんな」
     スグリはできるだけ静かに、二号に話しかけた。
    「ハルトに頼んで、ご飯持ってくる役さ、任せてもらったんだ。……きみに一言、謝りたかっただけだから」
     ハルトの話を聞いていて、スグリは、このコライドンの気持ちがなんとなく分かるような気がしていた。
     二号からすれば、スグリと一緒にされたくはないかもしれない。だけどさっき、スグリと二号の間に一号が割って入ってきたとき、スグリに威嚇したときよりも鬼気迫る勢いで一号に激しく吼えかかっていた二号の姿が、少し前の自分自身に似ていると――そんな風に思えてしまったら、声をかけずにはいられなくなってしまった。何ができるというわけでもない。でも、なんとなく。
     迷惑さかけちまったお詫びに中の具ちょっと多めに盛ってあるよ、と言い添えて、スグリはサンドウィッチを乗せた皿を二号の目の前に置くと、一歩後ろに下がる。すると二号は鼻を皿に近づけて、スンスンと注意深く匂いを確認してから、大きな手でサンドウィッチを掴んで豪快にかぶりついた。
     性格は全然違うけど、どっちのコライドンもサンドウィッチが大好きなんだ。――ハルトが言った通り、中身の具がこぼれるよりも早く、ほぼ二口で長いパンをかじり終えてあっという間にむしゃむしゃ食べて飲み込んで、舌なめずりをしてから、フンと鼻を鳴らして、二号はまた丸まって寝てしまう。拗ねている、とハルトの説明がなくても分かりやすいその態度に、つい笑ってしまわないように気をつけながら、スグリはまた声をかけた。
    「おいしかった? 皿、片しとくな」
     返事がなくても気にしない。それきり何も言わず空になった皿を拾って、ハルトたちの方へ戻っていくスグリの足音が遠ざかっていってから、二号の長い尻尾の先が、人知れず、柔い草地をぱたんと叩いた。





    ***





    『仕事終わったよ!今から帰るね』

    『わかった。ついでに晩ご飯の材料買ってきて。玉ねぎと卵』

    『了解!』


     そんなメッセージをスマホロトムでやりとりしてから数十分後、家の庭で干した洗濯物を取り込んでいるスグリの姿を上空から見つけて、ハルトはコライドンの背中の上で大きく手を振った。
    「スグリー! ただいまー!」
    「アギャーッス!」
     一人と一匹で声を張ると、気づいたスグリが空を振り仰ぐ。
    「おかえ……あっ、ハルト待って!」
     制止の声が途中から、グオオオ、という咆哮に遮られた。コライドンがびっくりして空中で急ブレーキをかける。ああもう、と額に手を当てて呆れているスグリをよそに、緋色の尾で地面を激しく叩いて戦闘態勢をとったもう一匹のコライドンが、戦意に満ちた目でハルトたちを睨み上げていた。
     数年前にハルトとのポケモン交換を経て、かつて二号と呼ばれたコライドンがスグリの手元に渡って以来、二号はハルトのコライドンの声が聞こえてくるたびにこうしてボールから出てきて、戦わせろ、と吼えるようになった。あまりにも毎回なので、最近ではハルトのコライドンの方が辟易しだしてしまっている。
     スグリと二号はかねてからお互いに何か近しいものを感じていたようで、その様子を見て取って、これなら、とハルトがスグリに二号を託す決断をしたのは、結果として正解だったらしい。二号の気位の高さのせいか、トレーナーであってもその背中に人を乗せることはないものの、二号はバトルに出て暴れること自体には積極的だし、なんだかんだで、スグリのポケモンとしてうまくやってこれている。
    「アギャ……」
     庭に降りたコライドンはハルトを背中から降ろすと、畳んだ翼を垂れ下げて、弱りきった顔で後ずさりした。ハルトはやれやれと苦笑いする。けれどもハルトは、挑まれたバトルは断らないし、手加減もしない主義だ。
    「しょうがないなあ。やろっか、スグリ」
     肩を回して準備運動をしながら纏う雰囲気を変えたハルトに、スグリがにやりと口角を上げた。
    「……実は前回から技変えて、新しい戦法考えてみてんだ。また勝ち星さ、貰ってく」
    「僕だってそう簡単には負けないよ。チャンピオンだからね!」
    「グオオオオ!」
    「アギャ、アギャアス……!」
     バトルよりも早くご飯を食べたいハルトのコライドンだけが置いてけぼりになっているが、サンドウィッチ大盛りにするから頑張って、というハルトの一声でやる気が出たのか、二号と同じように後ろ足で立ち上がって尾を伸ばし、ライド形態からバトルモードの姿に変わる。 
     揃いの結婚指輪を着けたパートナー同士、でも、今もライバル。互角の実力を持つチャンピオンクラスのトレーナー同士の、夕飯前の真剣勝負が始まった。
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