パナマ帽の似合う好青年はいつもの人好きのする笑顔をしている。そしてぽつぽつと語り始めた。ある近代都市の聖杯戦争に喚ばれてあっという間に戦いが終わった。なにかの歪で受肉してしまった僕は、事態の把握の為その地に根を下ろした。
そこで情報収集も兼ねて、簡単な珈琲喫茶をはじめたのさ。
最初は大変だった、僕はとんとそういった知識はなかったからね。その試行錯誤の過程が面白くてね、…途中からなんだか楽しくなってしまって…ああ話が逸れてしまった。そう、僕もあのときは混乱して、何から手をつければいいのか分からなかったんだと思う。とにかく知りたかったんだ。
彼はそのあともその都市で起きた出来事や、自身の体験を話してくれた。話しながらも彼はまだそこに居るかのようにどこかを見つめていた。
湯気立った珈琲はいつの間にか冷えていて、彼は申し訳なさそうに笑った。
部屋の電気を落として目を瞑る。だれかが出ていく音がして、それを最後に眠った。
夢は結局見てしまったが、どうにも幸福で美しくてそれでいて寂しかった。海辺に光る貝殻をひとつひとつ拾い上げて、粉々に崩してしまう、そんな夢だった。
起きてすぐ誰かに手を握って欲しくてシーツばかり抱きしめていた。