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    途中でちょっと迷走したので供養。会話メイン。
    一緒にお風呂に入る五悠ですが恋人未満のふたり。
    勝手に術式について妄想してるとこがあります。

    #腐術廻戦
    theArtOfTheRape
    #五悠
    fiveYo

    優等生じゃいらんねぇ!「あーやっちったなー……」
     深夜、俺は高専寮への坂道を歩いていた。べったりと頭皮や肌に張り付く髪。汚れた制服。汗なのか泥なのか呪霊の体液なのかわからない色々に塗れている。多分全部だろーけど。
     人里離れた山の中で任務だったから半日走り回ってたらもうこんな時間だった。すぐシャワーを浴びて横になりたかったけどそんな宿なんて近くにあるはずもなく。ただでさえ汚れた格好で補助監督の人の車に乗るのも申し訳ないし、さらに宿のある街まで行ってくれとは口が裂けても言えない。最短で高専に帰るのが最善だと思ってここまで来た。
     でもなぁ、もうこの時間大浴場閉まってんだよなぁ……。
     タイミング悪く部屋に備え付けのシャワーは故障中。だからこそ浴場が開放されている時間には戻って来たかったのに、呪霊のせん滅に時間がかかってしまった。
     伏黒叩き起すしかねぇかな? 恥を忍んで補助監督の人に宿まで連れてってもらえば良かった……いやいやあの人らだって俺を送り届けなきゃ帰れねぇんだし。
     様々頭の中で考えを巡らせた後、
    ──よし! 伏黒に土下座しよ! 
     握りこぶしで気合を入れ、高専の寮へと入ろうとした時。
    「あれ、せんせ?」
    「……お? 悠仁〜」
    「先生も任務だったん? こんな時間に会うなんて──」
     ひらひらと手を振る五条先生の姿を見つけると自然に駆け足になって。だけど途中ではたと気づき距離を取る。
    「ごめん俺いま汚いんだった、先生触らんで!」
    「あはは、確かに髪がぺったんこだし黒の制服が色変わってるね。最初誰かわかんなかったよ。熱いファイトしてきたんだねぇ〜」
     言ったそばから先生は俺の頭上に手を伸ばしてヨシヨシと撫でる。正確には無限があるからそんな気がするだけだけど、いつも通り俺にしてくれるみたいに接してくれた。
     誰かわかんなかった、なんて六眼の持ち主には有り得ないのに。こうやって労うために話しかけてくれたんだとわかってる。
    「先生はこれからどこ行くん? 職員寮はそっちだよな?」
    「うん、僕もいまさっき帰ってきたからこれからお風呂入って寝るとこー」
    「いいなぁ〜俺も早く風呂入りてぇ」
     そう言うと先生はきょとりと首を傾げる。
    「いいなぁって? ……もぉ、報告書なんて明日でいいから早く寝なよ」
    「いやそうしてぇのは山々なんだけどさ、俺の部屋のシャワー壊れてて。今から伏黒起こして土下座しに行くとこなんだよね」
    「えぇ、それは面白そ……んン"ッ、いやそんな事しなくても寮に大浴場……って学生寮のは閉まってるか」
    「先生いま面白そうって言おうとした?」
     俺の質問をスルーした先生は腕を組んで唇を摘む。
    「……じゃあさ。一緒に裸の付き合い、しよっか!」
     ニッコニコ! と笑って先生は身を乗り出した。
    「……え?」
    「職員寮の大浴場はね、基本的に夜も空いてんの」
    「えっ、いいなぁ、ずりー!」
    「ふっふーん、大人の特権です! 教師って言っても皆プロの呪術師だからね、あとはフリーの術師も任務の後とかはこっちに来る人、結構いるんだよ。ウチは薬湯って言われるほどの天然の温泉水だから、傷の治りも早いのさ」
    「マジ!? 千ちひみたいな!?」
    「あー言われてみればそっかも? 八百万の呪霊と闘う僕らこそ、ぴったりだねぇ」
     何故か五条先生は得意げに鼻を鳴らす。
    「なるほどなー。確かに高専の風呂入ると肌の調子いい気がするもん」
    「ンッフフ、若いくせに何言ってんの。まっ、そうと決まれば行くでしょ! ビバ! 温・泉!」
     
     
     
     五条先生に誘われるまま職員寮の浴場に来てしまった。
    「なぁ先生。俺こっちに来たらまずいんじゃねぇの? 一応、今更だけど」
     言わずもがな職員寮なんて入ったこともないのでソロリと歩く俺にお構いなく先生はズンズン進んでくし。結局俺は好奇心と清潔欲のが勝っちゃってここまで来てんだけど。
    「まぁ悠仁の呪力でバレてるかもだけど、僕のそばにいるから何も言わないと思うよ」
    「そういうもん?」
    「そういうもんよ。なんせ世界一安全だよ僕のお隣は♡」
     きゃ、とウインクを飛ばしてくる。お茶目という表現が合ってんのかわかんねぇけど28歳にはとても見えん。
    「それはそうだけど……」
     うーん、この人細かいことすっ飛ばす癖あるからなぁ、それは俺もだけど。
    「まぁまぁ細かいことは置いといて、ここまで来たらたとえ後で怒られたって入っちゃった方がいーじゃん。背に腹は変えられないっしょ、泥だらけの虎杖悠仁クン」
     眉間を小突くフリをして、先生は浴場の扉を開けた。
    「っはぁー、やっぱお風呂は檜風呂にかぎるね〜」
     湯船に浸かりながらこぶしの聞かせた声を上げた先生は、普段感じさせない年齢相応に感じる。俺は横に腰を下ろして、新鮮な先生の姿に目をやる。
     確かに職員寮の大浴場は俺たちの寮とは違って少し広めで木造りの浴槽だった。
    「先生んちもすごそうだよね」
    「うん、実家は風呂だけで高専の教室何個分もあったよ」
    「やっぱし!? すっげぇ〜」
     周りから聞いただけだけど、御三家の一つ、五条家の当主がこの五条悟。「当主」なんて伝統ウン十年とかウン百年とか伝統を守り続けて〜みたいな老舗とかでしか聞かないレベルの単語だ。俺みたいな一般人じゃ想像できないけど、めちゃくちゃすごい家のすっごい偉いんだろうなこの人。
    「……?」
     たかが風呂の話題だけで興奮するガキだと思われただろうか。五条先生はゆったりとした視線で俺を見る。
    「てゆーか悠仁育ったね〜。前に見た時より全体的に筋肉がさぁ」
    「あーそっちかぁ。やー、身長が伸びる気配あんま無いんだよなぁ。先生ほどとは言わんけど、180はできればほしいんよ」
    「筋肉に栄養持ってかれてんのかもね。小さい頃から筋肉質で鍛えてる人ってわりと小柄だったりするよね。アスリートでもいるじゃない? そういう人」
    「……先生は?」
     思わず聞いてしまった。湯船の中なんでよくは分からないけど肩も胸元も厚みが段違いだし、脱衣所で一瞬見た時は全身筋線維みっちりの良質な筋肉を携えていた。それなのに身長は190越えで、顔はこんなに女ウケのするイケメンで。屈強な体にこの顔が乗っているのがなんだかちぐはぐに思えて、全身福笑いが失敗したみたいだ。……いや大成功か?
     昔友達とマッチョの体に自分の顔写真切り抜いて遊んだ時みたいだなって実は密かに笑いそうになってた。
    「ん? 僕は生まれた時からこの体だよ」
    「それは嘘でしょ? やだよこんなマッチョな赤ちゃん」
    「あはは。真面目な話をすると……」
    「……すると? 」
     どんな秘訣が、と息を飲む。マジの顔をする先生もイケメンだから迫力あるなぁなんて思った。
    「僕、最強だから♡」
    「んだよ全然真面目じゃねぇ……」
     またもやキャハ、とおどけてみせる先生にがっくりと肩を落とした。
    「悠仁も同年代の男子からすれば羨ましい体してると思うけど? 少なくとも恵よりぜんっぜんいい体してるね」
    「そっかぁ? まぁ伏黒はそこまで食べるほうじゃねぇしなぁ。細マッチョタイプなんかも」
    「そーお? まだまだひょろっちいでしょ。沢山食べなさいって昔から言ってんだけどね。反抗期なのか最近は一緒にお風呂入ってくんないしさ〜」
    「いやそれ別の問題じゃない? もう俺ら15歳よ?」「えー、裸の付き合いは何歳でも良くない? それに15は僕にとっちゃまだお子ちゃまだよぉ」
     ぶーと唇を突き出す先生。
    「あっでもさでもさ、伏黒中学の時不良たちボコってたらしいよ、あれで元ヤンとかやることやってんだよなーシティボーイは」
    「シティボーイ(笑)。そういえば何回も学校から連絡来てさ、僕呼び出されたこともあるよ。まったく誰に似たんだか当時は多くってねぇ。そんな子に育てた覚えないっつーの」
    「でも今は基本年上に対しては敬語だし、むしろあんま進んで首突っ込むタイプにゃ見えねぇけどなー、丸くなったってやつ? まぁ変なとこ頑固だけどさ、先生の教育の賜物じゃね?」
    「うっ、そんなこと言ってくれるの悠仁だけだよぉ〜」
     濡れた後ろ髪をわしゃわしゃと撫でられると、毛先から小さな雫が飛んでくる。
    「で、悠仁は? 悠仁はそういうこと無かったの?」
    「そういうこと?」
    「学校から呼び出しとか。悠仁はいい子だけど、優等生ってタイプには見えないけどなぁ。僕の教師のカンがそう言ってる!」
     にまにまと笑いながら俺を覗き込むように近付いてくる先生。そりゃもう確信しきった顔で。
    「え、や、いいじゃん俺の話は……」
    「えー? 西中の虎ってイイじゃん」
    「ブッ」
     多分スイカの種だったら五メートルは飛んだなってくらい吹き出してしまった。
    「どどどどこからその話を!?」
    「お天道様と五条悟はな〜んでもお見通しよん?」
     人差し指を上に向けたかと思うと「ちっちっちー」なんてくるくると動かしている。
    「まじ? え、六眼ってそんなこともわかんの? 俺の情報筒抜けだったりする……?」
     あまりの恥ずかしさに顔を両手で覆ってしまったけれど、指の隙間から先生を覗き見た。
     
    「…………せんせ?」
     呼んでもピチョン、とどこかから滴る水音が聞こえるだけで、隣の大人は微動だにしない。両手を下ろしてちゃんと先生の方を向く。
    「……せんせい、なんか話してよ」
     それまでテンポ良く会話していたのに急に落ちた沈黙。
    「……ゆうじこそ」
    「…………先生俺の話聞きたいん?」
     浴槽の縁に両腕をかけてふーーっと五条先生が息を吐いた。
    「あー……まずったかなぁ、たぶんマズッたよねぇ……」
    「え? さっきからどしたん先生」
    「やー、ちょっと急にキタっていうかさ、」
    「やっと思い出したの? 俺が先生に好きだって言ったこと」
     ──そう、虎杖悠仁は数週間前、五条悟に告白している。でも特に返事がある訳でもなく流されていたのだった。虎杖が深くは追求しなかったので変わらない距離感で、接しているはずだった。教師と生徒として。
    「……先生さ、裸どうしで風呂なんて俺に襲われるかもとか思わないの?」
    「……ぶゎあはははは!! いーねぇ、手合わせする? どこからいこうか」
    「いや俺が襲うんだってば」
     俺何の説明してんだよ。
    「いやいや逆にさ、悠仁は僕が大人しくされるがままになると思う?」
     距離を詰めてまたくっつきそうなほど顔を近づけてくる。ほら、そういうこと軽々しくすんのほんとタチが悪い。
    「僕が悠仁を襲うかもとは考えない?」 
     つ、となぞるように視線が下ったのがわかった。
    「っそ……れはねぇよ」
     だってこの人は俺の告白に返事すらしてない。気軽に風呂に誘えてしまう程度のアレは些細な出来事だったんだ。
    「どうして? 何があるかわかんないじゃない。今この瞬間、気が変わるかもよ?」
    「てか先生俺の告白忘れてたじゃん……」
    「……あぁ、気持ちが伴ってなくてもできるんだよ、大人はね」
    「…………」
    「僕が言うのもなんだけど、悠仁は僕のこと買い被りすぎなんじゃない?」
     猫のように愛らしく豹のように鋭いあおの瞳が、俺を捕らえる。先生は目隠ししてないから、あぁこの瞬間は俺だけを見てるんだって今さら思った。
    「……先生イヤなこと言うね」
    「ふふ、ごめんね。幻滅した?」
     ちっとも悪びれた様子もなくゆったりと笑みを深めた。俺は首を横に振る。
    「近づいたと思っても先生はそうやって距離を取るんだよなって思っただけ」
    「……へぇ?」 
     頬杖をついて続きを促すように瞬きする。もしかして怒らせたかな、と思ったけど読み取れない。
    「先生が教えてくれたじゃん。名は体を表すように術式が本人を表してることがあるって」
    「おぉー、悠仁よく覚えてたねぇ! エラいエラい」
    「……先生はたまに、無下限みたいだなって思うよ。あるとこで急に行き止まりみたいに触れられなくなる」 
    「…………」
    「先生が触ってくんなきゃ俺はずっと外側にいることしかできなくて……それがすごく、寂しいんだ」 
    「ゆう──」 
     パシャンッ……
     お湯が波立ち溢れる音に全部かき消された。
     押し付けた唇の離れがたさを追いやって一息こぼし「さっきの話だけど」と続ける。
    「当たり。俺、優等生じゃねぇよ」
     こんな時ですら逸らしもしない青に見られながら、触れている両手に力が入る。今も、この人の体温が俺に染み込んでいくのが不思議なくらいだ。
    「風呂なら無下限解いてくれっかなって、下心ありきでついてきた」 
    「……なるほど。僕はまんまと罠にハマったわけだ」 
    「……先生にとって俺は15のガキんちょだからだめなの?」
    「そう。まだ君は青春真っ只の子供。なにかに夢中になれるのは素晴らしいことだし、失敗だって大いに結構。でも取りこぼしてからじゃもう遅いんだよ』 
     底知れない青は海に似ている。水底に隠して静寂を守り、ただ光を反射し煌煌と輝く。
    「……先生がなんでそんなに頑ななのかはわからんけど。俺はわかんないからこそ、もっと知りたいって思うよ。先生のこと、知りたい。」
     なにがこの人をここまで強くさせたのか。なぜ最強として明日を選び続けられるのか。凛と立つ曲げようのない強さに、初めて憧れた。
    「……悠仁。僕はさ、もし恋人のような存在ができるとしたら、僕から離れてくことは許さないし、僕に信じさせてほしいの、ずっと一緒にいるって」
     不敵な言葉を吐く優美な唇とは裏腹に、瞬きは繊細で声色は凪いでいる。
    「僕の『隣』は簡単じゃないよ?」
     最強の隣に立てるくらい強くなって見せろと。それが最低条件だ、とでも言うような挑発的な目だった。
    「……上等!」
     規格外なこの人を欲しがるには形振りなんて構ってられないんだ。がむしゃらにただ、貪欲に。この人の想像すら超えていくくらい、強くならないと。
     そしたら少しくらいは俺のこと、信じてくれるよな。
     
     
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