『余興』「……何故僕を生かす」
「さあ、急に生かせと言われたからな」
「はぁ?」
――――
殺意を向けられ、システムからの緊急クエストが発生し、道門を殺さなければ自身の心臓が止まり、死ぬ。
こちらも殺意をむき出しにして戦っていたというのに、突然システムのクエストが急変した。
『生かせ』
それしか書かれておらず、従わない限り心臓は停止とそのままの内容になっている。
道門という男を生かすのは癪だがそうするしかないと、短剣を下した。
「観月さん、馬渕さん…俺はコイツに話をしたいので、先にゲートの外へ出て貰ってもいいですか?」
「水篠くん、君は一体なにを…」
「お願いします」
「……何か事情があるんだな、水篠くん。わかった、聞かずに私達は外へ出よう。」
観月は旬の変化に納得が行かず、馬渕に腕を引っ張られながらも、旬に問いかけていたが、それには耳を貸さなかった。
「何故僕を生かす」
「システムが、お前を助けろと言っている」
「システム?なんの話―――ッ」
短剣を持って背後から狙ってくる道門の首に、刃を当てる。
「……いいだろう、そういう趣味は無いが…面白そうだから僕も乗ってあげるよ」
そう言って短剣を腰に戻した道門を見ていると、後ろから囚人が旬に向かって拳で殴りかかってきたのを躱し、首を掴み上げる。
「わざと声帯を……」
「あたりまえだろう、叫ばれても困るからな」
「………」
ちらりと横を見るが、システムのクエストは未だに変わらず、0/1と書かれたままだった。
苦しそうに踠囚人を首を掴みながら引きずり、ボス部屋の中へと放り込む。
「わーぉ、可哀想」
「――――――ッ!!」
助けを求める囚人は道門と旬に対して手を伸ばすが、後ろに居たゴブリンがニヤニヤと笑いながら、囚人の体を引き裂いて行く。
―――――――――――
ゲートから旬が出てくるのが見えた観月は、足取りを早めて近づくが、さらに後ろから道門が出てくるのが見えて、その場で足を止めた。
それなりの事情があり、道門を殺めなかったのだろうと、ぐっと言葉を押し込んだ。
「無事で良かったです…」
「……うん」
その返事は上の空で、観月は首を傾げる。見つめている方向は何もなく、旬から見えているのは0/1からいつの間にか指名型へと変わっていた。
『道門泰星を生かせ』
end