オトナ「ねえ、それ何飲んでるの?」
ヒロが顔よりもでかいペロペロキャンディを舐めながら尋ねる。こいつの視線の先を辿り、それを煽る。
「これか?これは赤ワインだ。ここのワイン上手いんだよな〜」
グラスを揺すり、中でぐらりと揺れ動く赤いワインを見て目をキラキラさせるヒロ。
「ワイン?飲んでみたいっ!」
「ばか、お前まだ未成年だろ?自分が何歳か言ってみろ」
「……10歳」
むすっとした表情でそう答えるヒロ。先月ちょうど小学4年生になったばかりだ。
「俺は成人してっからいーけどお前はあと10年経たねぇと飲めねぇよ」
「えー…1口くらい、いいじゃん」
拗ねたような口調でキャンディを舐めるヒロ。その小さな頭を軽く撫でてやる。
「だーめ。これは大人になるまで待てよ。ほら、それでも舐めてろ」
頭を撫でる手を離し、ワイングラスを再び煽る。
「じゃあさ、チカ兄は僕が子供だから付き合ってくれないの?」
「おまっ、またそれかよ……」
ヒロの熱い視線が俺を射止める。ヒロは俺に毎日のように好き、付き合ってと言ってくるのだ。本気なのか分からないし、多分尊敬とかの好きをそっちの好きと間違えてるだけだろう。
「そーだなぁ…ヒロが大人になったら付き合ってやるよ」
だから、少しおちょくるような事を言った。するとヒロは一気に顔を華やかせる。
「ほんと!?絶対だよっ!!」
「ああ、お前が覚えてたらな」
まあ、どうせ忘れてるだろうけどな笑
なんて呑気に生活をしていて、月日が経った。この日俺は休日で家でのんびり映画を見ていたらインターホンが鳴った。誰だろうと思いつつ出たら、そこに背の高いイケメンがいた。だが、このイケメン、どこかで見たような…
「久しぶりだね、チカ兄」
「その話し方…まさかヒロか!?」
髪型は違うが雰囲気はあの頃の優しいヒロそのものだった。まさかこんなイケメンに…と少し感動していると、ヒロが口を開く。
「うん。チカ兄さ、あの時言ったじゃん?僕が大人になったら付き合ってくれるって」
「……え、?」
「これ、チカ兄が好きだって言ってたワイン。一緒に飲も?」
ずい、とワインを俺に押し付け、家の中に入るヒロ。
「ちょ、ヒロ待てって!」
「もう待てない。10年待ったんだから、もう良いでしょ?チカ兄が言ったんだよ?付き合ってくれるって」
俺を追い詰めるヒロ。後退りする俺。だがとうとう壁に追い詰められてしまった。もう逃げられない。
「待たなくていいよね?チカ兄」
俺が返事をする前に口を塞がれる。
甘ったるい、キャンディの味がした。
お題「ワイン」「ペロペロキャンディ」