episode3 ユイepisode3 ユイ
最近、友達の距離が近い気がする。ユウといいソウタといい…でも1番厄介なのがこいつだ。
「タイガぁ」
甘ったれた声を出してオレに抱きついているこいつ。名前はユイと言ってこいつもムカつくことにイケメンです。なんか弟というか末っ子感があって、多分男なら守りたくなるような奴。俺なんかとは正反対!そんなこいつは現在進行形で俺にベタベタしている。それだけならいいんだが…この空間には俺とこいつ以外の人間もいるのだ。しかも女子。友達と二人でいるようで、片方の子は気まずそうにこちらをチラチラと見ているし、もう片方の子はもはやこちらを見てもいない。俺だってこうなるなんて想像してなかった。なんかごめんな、と軽く頭を下げる。するとユイが俺に抱きつく力を強めた。
え、こいつこんな力あったのか?
「タイガぁ、今は俺と一緒に居るんだから俺のことだけ考えててよぉ。ね?」
キスしそうなくらいの顔の距離に思わずヒュッと声にならない声が出た。
「ちょ、近い近い!てか何言ってんd」
「だってタイガいっつもよそ見すんだもん。俺の事だけ見ててよ」
「おま、何言ってんのか分かってる!?告白してるみてーなもんだぞ!!?」
「告白してる、って言ったらどうする?」
は、
そう思った時には、唇に柔らかい物が当たっていた。キスされたと気づくのに時間はかからなかった。体の全ての熱が顔に集まる。
「な、おま」
「言っても分かんなそうだったし。てか赤くなってんのかわいー」
なぜか笑みを浮かべているこいつ。とりあえずやばいことだけは察知したので逃げようと腰を浮かすが腕を掴まれてしまった。
「どこいくの?」
「いや、ちょっと」
「用ないならいーじゃん」
「そ、れは…」
ユイにほっぺをガシッと掴まれ顔を近づけられる。
あ、来る
「……私帰るわ」
「えっ」
低い声が響いた。そうだ、ここには俺ら以外にもいるんだった。その声の主にありがとうと視線を送るが、声の主は顔を顰めて深くため息をついた。
「今いいとこだったじゃん」
不満げに口元をすぼめるユイ。
「だから帰ろうどしたんだけど?」
少しキレ気味の女子。その女子の後ろにビクビクした女子がぴったりとついている。
「行こ」
「う、うん」
声の主の彼女が女子の手を引いて教室から出ようと扉に手をかけた。そして
「……うわ」
と忌々しく漏らした。
扉の向こう側には何故か息を切らした様子のユウ、ソウタがいた。
「あ、ちょ、これどういう状況!?」
「あーあ、うるさいのが来ちゃった」
「あ、ユイお前タイガに何した!」
「あ、えっとその…」
言えない。友達にキスされたなんて。そして、それが案外悪くなかっただなんて。
「ちょ、こいつら何してたかわかる!?」
「ここにいたんだろ!?わかるよな!?」
2人が先程の女子らに詰め寄っている。片方は怯え、もう片方はとても面倒くさそうに顔を猛烈に顰めている。
「……粘膜接触してたくらいじゃない?」
「「粘膜接触!?」」
「ほら、行くよ」
「う、うん」
まだ何か聞きたそうなユウ達を無視して女子らは教室から出ていった。
静寂が訪れる。
「…粘膜接触って、キスだよな?」
「タイガ、ユイとキスしたのか?」
「でもタイガ嫌じゃなさそうだったよ?」
「「なら俺でもいいのか?」」
は?今なんて?
急展開過ぎて話に追いつけない。
「俺、ずっと前からタイガのこと好きでした。付き合って下さい!」
「お、俺だってタイガのこと大好きです!」
「俺の事忘れてない?」
左手をユウ、右手をソウタに掴まれている。そして後ろからユイに抱きしめられている。ユイにはガッチリ掴まれてるし、手を掴まれてる飲もまあまあ強い力で簡単に振りほどけそうにない。
「タイガ!」
「タイガっ!」
「タイガぁ」
そして冒頭に至る。
その時俺は
たたかう
逃げる←
全員受け入れて貞操の危機を諦める
全員ケツで抱く
「じゃ!」
逃げる一択やろがい!!!
するりと彼らの拘束から逃れて教室から出る。そのまま昇降口まで走る。すると先程の女子がいた。ビクビクしてた方はもう帰ったらしい。その子は俺を見るなり盛大に顔を顰めて舌打ちをした。え、怖。
「……何してんのあんた」
「えと、色々あって、その…」
告白されて逃げてきたなんて口が裂けても言えない。なんとか濁して伝える。
「…どうせ追いかけてくるだろうし、覚悟した方がいいんじゃない?」
「覚悟?え、覚悟ってなんの」
俺の問いかけに彼女は少し考えるような素振りを見せる。少しして口を開いた。
「喰われる覚悟」
「え」
彼女がそう告げた途端、どたどたと乱暴な足音がした。それも複数。
「え、」
「うわ必死じゃん」
彼女は可笑しそうに笑った。そしてそのまま靴を履いて昇降口を後にした。
「「「タイガ!!!」」」
3人の声が重なる。
俺がこの3人に喰われるのは以外と早かった。