放課後、トイレを済ませ足早に教室に向かう僕。なんせ今日は部活がないからタイガとたくさん話せるのだ。内心ウキウキしているのを出さないように冷静を装う僕。そして扉に手をかけた時、話し声が聞こえた。タイガとタイガを狙ってる男どもの声だった。
盗み聞きなんてしたくないけど、これは不可抗力
そう自分に言い聞かせ、聞き耳を立てる。
「最近、ユイめっちゃ甘えたじゃね?」
「あ、確かにそーだよな」
「可愛いもんなの?DKがDKを世話するって」
「うーん…可愛いんじゃないか?」
好きな人からの可愛い宣言に高鳴る胸。
「なんか弟みたいじゃん。」
鈍器で頭を殴られたような衝撃だった。確かに末っ子キャラ路線で行ったが、あんなに距離の近い兄弟なんているわけがない。
つまり、僕は弟みたいなやつという風にしか見られていなかったわけだ。
「……弟…何かあったら相談乗るからな」
タイガを口説いている奴らが何かを察したような口ぶりで扉を開いた。そして床に座り込んでいる僕と目が合った。
「…頑張れよ、弟くん」
不敵に笑うライバルたち。
「…上等だよ?」
ライバルたちを見上げて目を細める僕。そしてなにも知らないタイガ。ずんずんとタイガの元まで歩いていく。タイガは僕に気づいたようで顔を一気に華やがせた。
でもそれは、弟に対する表情でしょ?
複雑な心境で、彼の腕を掴む。
「え」
「僕の膝の上座って。向かい合うように」
「え、いや流石にそれは」
「座って」
有無を言わさない僕に彼は渋々僕の膝の上に控えめに座った。
え、腰ほっそえっっっっっっっっっr
「タイガはさ、僕のこと弟みたいに思ってるの?」
「聞いてたのか!?いや、まぁそんな感じ…?」
「ふーん」
彼の華奢で細い腰に腕を回し、ぐい、と一気に自分の方に引き寄せる。
「わ、ちょ、ユイ」
「ねぇタイガぁ」
いつものような甘ったれた声を出して彼を呼ぶ。呼ばれた彼はまたも嬉しそうにわずかに目尻を下げて優しい笑みを浮かべている。
それが無性に腹立たしい。
そんなに無防備にしてると、喰われるよ?
彼の赤い唇を自らの唇で塞ぐ。咄嗟のことで反応できたかった彼。腰にある腕を彼の後頭部まで這わせて優しく掴み、固定する。そしてそのまま舌を捩じ込む。彼の口内を舌で舐めまわし、満足したところで唇を離す。透明な唾液が糸のように伝っていた。
「な、おま、なにして」
頬が赤く紅潮し、ほんのり潤んでいる瞳。ゴクリと喉がなり襲いたくなる衝動に必死に耐えて言葉を紡ぐ。
「タイガはさ、弟とこういうことすんの?」
「え」
「いいかげん、僕のこと男として見てよ」
男、というワードを聞いてより顔を赤らめる彼。そんな彼に問答無用でキスをする。もう僕は抑えられなかった。最初こそ抵抗して僕の背中をトントン叩いていたが、やがて静かになり最終的には背中に腕を回してきた。
これは、合意でいいんだよね?
彼の顔を両手で掴み、彼は僕の首に腕を回す。最高のシュチュエーション。
僕と彼の唇が近づく。彼がゆっくりと目を瞑ったその時だった。
ガラガラガラ。扉の開く音がする。一応タイガの顔を隠して相手をチラリと見た。今めっちゃいいとこだったのに。
相手は僕と目が合うと盛大にため息をつき顔を顰めた。美人が台無しなくらいに。そして小さな舌打ちと共に
「こんなとこで盛ってんじゃねぇよ!!!!!!!!」
彼女の叫びは職員室まで聞こえたそうだ。
後日、その生徒は先生に呼び出されていたが事情を説明すると、災難だったな…と同情されていた。話ぶりからどうやら僕らのことは話していないようでかなりオブラートに包んでいた。
「なんだ、優しいとこあんじゃん」
少し馬鹿にするようにそう話しかけると彼女は盛大に顔を顰める。
「盛んなら場所考えろよ常時発情野郎」
…めっちゃ言うじゃん